人間は蚊に刺されてもほとんど痛みを感じません。その理由として,生化学的には蚊の唾液の麻酔効果,機械的には蚊の口器が極小であり皮膚の痛点を避けやすいことが挙げられていますが,その正確なメカニズムは未だ解明されていません.蚊の口器は7個のパーツでできていて,そのうち血の通り道となる上唇,それの両側にある2本の小顎の計3本の針が穿刺において重要な役割を果たしていると言われています。小顎の先端はギザギザ形状をしています。われわれは,蚊の穿刺行動を高速度カメラで詳細に観察し,これらの針が位相差を持って動き協調動作をしていること,その際ギザギザ形状が進む際には穿刺抵抗力を低減させ,戻るときにはアンカーの役割をしていること,これらが穿刺抵抗力の低減に効果を有することを明らかにしました。
MEMS技術により,単結晶シリコンを材料として,蚊の針を模倣した微細針の開発を行っています。また金属(タングステン等),生分解性ポリマー等を材料とした針の作製や,エキシマレーザ加工や特殊ポリマーコートを用いた中空針(血液の採取,薬液の注入が可能)の開発にも取り組んでいます。それらの針を3本用いてコンピュータ制御により駆動し,人工皮膚に穿刺した際の穿刺抵抗力を測定するシステムも開発しています。
中央の上唇と両側の2本の子顎が同期して動いている。子顎の先端はギザギザ形状をしている。3本の針の協調動作とギザギザ形状が穿刺を容易にしている。30/500の速度でスロー再生(秒500コマで撮影し,秒30コマで再生)。
大阪大学大学院歯学研究科 山口 哲 助教との共同研究