トランス・モダンのこころみとしてのアレグザンダーのパタン・ランゲージ

 

1.近代建築とアレグザンダー

1.1.伝統建築から近代建築へ

○伝統建築と近代建築の対比

          伝統建築        近代建築

材料       石、木、土、etc     鉄とコンクリートとガラス     

地域性      地域にねざした      国際様式

形      地域的に多様な形・装飾性   規格化された方形・反装飾性

生産        手作業          大量生産

○近代建築を代表する建築家とグループ:ル・コルビュジエ(「住むための機械」、「輝く都市」)、バウハウス(グロピウス→ミース・ファン・デル・ローエ)

 

1.2.近代建築批判

○最初は斬新にかんじられた非装飾的な外形も、単調で退屈とかんじられるようになった。Less is more マ Less is bore

○超高層建築、オープン・スペース、ゾーニングを駆使したブラジリア、ニューデリーなどの計画都市は、人々の生活の舞台にふさわしい場所とはならず、ロンドンや京都などの自然発生的な都市の魅力には、とおくおよばないことがあきらかになった。

○光と広いオープン・スペースをもたらすと喧伝された高層建築は、人々のやすらぎと交流の場所とはならなかった。高層建築はそれまでの伝統的集合住宅がもっていた住民による領域性の確保を困難にし、犯罪の巣となるケースもあった。また、高層建築の周辺にできたオープン・スペースも、人々がつどい、たのしむ魅力のある空間とはならなかった。

○規格化された方形を基準としたオープン・プランは、かならずも人間の心理的・対人的要求をみたすような場所をもたらさなかった。

 

1.3.近代建築批判への建築家の対応

○わがみちをゆく:フランク・ロイド・ライト、アアルト、など。

○ポスト・モダニズム:建築に装飾を復活させ、遊びを導入しようとする運動で、1980年代におおいに流行した。

○伝統の建築と都市に学ぶ:ルドフスキー、槙文彦、原広司、など。

○環境の心理、社会的研究:リンチ、芦原、アレグザンダー、など。

○近代建築への方法論的反省:アレグザンダー、など。

 アレグザンダーは、「形の合成に関するノート」、「都市はツリーではない」でデザイン方法論を展開し、近代建築への方法論的な批判の基礎を提供した。ついで、「パタン・ランゲージ」では、環境の人間的側面をふまえ、使い手が参加できるような、ボトムアップの環境デザインを、パタンの提示と共有をつうじて可能にしようとこころみた。アレグザンダーの仕事は、近代建築を、根本にたちかえってのりこえようとする、トランス・モダンのこころみとして位置づけることができる。

 

2.アレグザンダーによるデザイン方法論とパタン・ランゲージ

2.1. 「形の合成に関するノート」1964 鹿島出版

○デザインは、巨匠の個性の表出などといった、芸術に類するいとなみではない。デザインは、複雑でときに相互に拮抗するような制約条件(経済的、物理的、生理的制約条件だけではなく、心理的、社会的制約条件もふくめる)をみたす解を、形としてあたえようとする合理的な問題解決のいとなみである。

 

例. コップのデザイン

制約条件:目的とする飲料の通常の量を注ぎたもてること、手にもちやすくもったときのかんじがいいこと、テーブルなどに安定しておけること、くちびるにフィットすること、飲料の特性におうじて温度や香り気泡などの維持ができること、見たかんじがいいこと、洗いやすいこと、収納しやすいこと、こわれにくいこと、材料や製法が高価につきすぎないこと、など、など。

○伝統の方法と設計の方法

                   伝統の方法     設計の方法

デザイナー・作り手・使い手の距離  一致・密着        分離

問題解決の方法          試行錯誤の蓄積       計画

問題解決の方向           ボトムアップ      トップダウン

 

2.2.「都市はツリーではない」1965(別冊 国文学「テキストとしての都市」前田愛編、学燈社、1984 所収)

○近代建築のデザイナーがゾーニングのかんがえにもとづいてトップダウン的に計画した計画都市は、階層的なツリー構造をしているが、自然発生的に形成された自然都市はセミラティスである。セミラティスでは、ひとつの要素が複数の上位カテゴリーに属し、移動のための場所が同時にくつろぎの場所だったり、職場が同時に住居だったりする。自然都市の魅力の一端は、セミラティスの構造にある。

 

 

2.3. 「パタン・ランゲージ」 1977 鹿島出版

○環境デザインのポイントを相互に関連した253のパタン群として抽出し、人間・社会科学的知見とともに、建築の専門家でないものにも、わかりやすく提示している。これによって、近代建築がおろそかにした心理的、社会的制約条件をもふまえた環境デザインを、使用者の参加にもひらかれたかたちで可能にしようとした。

○パタン・ランゲージにみる近代建築批判:4階建ての制限(21)、明暗のタピストリー(135)、小割の窓ガラス(239)、装飾(249)、など、など。

 

○基本事項の確認:近代建築を代表する建築家とグループ、近代建築批判、問題解決のいとなみとしてのデザインと制約条件、伝統の方法と設計の方法、ツリーとセミラティス、パタン・ランゲージ

 

アレグザンダーの紹介

  グラボー1983 「クリストファー・アレグザンダー」工作舎

近代建築批判

  ブレイク 1974 「近代建築の失敗」 鹿島出版

  トム・ウルフ 1984 「バウハウスからマイホ-ムまで」晶文社

伝統の建築と都市にまなぶ

  ルドフスキー 1964 「建築家なしの建築」鹿島出版

  ルドフスキー 1969 「人間のための街路」 鹿島出版