修辞法の分類

 

1.叙述の形と内容の対応

1.1.語音・字形と内容

○声喩(onomatopoeia)

「ほろほろと山吹ちるか滝の音」(松尾芭蕉)

○継起的音喩

I   like Ike」(アイゼンハワーの大統領選のキャンペーン)、「スカッとさわやかコカコーラ」「でかいどお。北海道。」、「われわれが真理(verite)に捧げているところのものを、彼らは虚栄(vanite)に捧げている」

○字喩(anagram)

「海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」(三好達治「郷愁」 母(mere)と 海(mer))

 

1.2.対称表現

○対照法(antithesis)

「聞いて極楽見て地獄」、「針小棒大」、「温故知新」、「注意一秒怪我一生」

○交差配語法(chiasmus)

「おおよそ、自分を高くするものは低くされ、自分を低くするものは高くされるだろう。」(ルカによる福音書)、「窓の沢山ついた大きな建物で、アパートを改造した刑務所かあるいは刑務所を改造したアパートみたいな印象を見るものに与える。」(村上春樹「ノルウェイの森」)

「まことに、われわれが生きることを愛するのは、生きることに慣れているからではない。愛することになれているからだ。愛というもののなかには、常にいくぶんの狂気があるが、狂気のなかには常にまたいくぶんの理性があるものだ。」(対照法+交差配語法、ニーチェ「ツァラツァストラはこう語った」)

 

1.3.列挙表現

○列挙法(enumeration)

 同種のものをならべるのが列叙法、異種のものを段階をおってならべるのが漸層法である。

◇列叙法(accumulation)

「寝転がっては見たもののちっとも眠くならないうえ、おまけにむらむらと怒りがこみ上げてくる。というのも、自分は、ぶらぶらするばかりでなく、寝床でぐずぐずするのも好む性分なので、枕元周辺にはいつも、生活用具一般、すなわち、ラジカセ、スタンドライト、湯呑、箸、茶碗、灰皿、猿股、食い終わったカップラーメンのカップ、新聞、シガレット、エロ本、一升瓶、レインコートなどが散乱しており、それらに混じって、いったい、なぜ枕元周辺にそれがあるかよく分からないもの、すなわち、ねじ回し、彩色してないこけし、島根県全図、うんすんかるた、電池なども散乱しているのであるが、そのよく分からないものの中に、五寸ばかりの金属製の大黒様があって、先前からむかついているのは、この大黒様、いや、こんなやつに、様、などつける必要はない、大黒で十分である、大黒のせいなのである。」(町田康「くっすん大黒」)

◇漸層法(climax)

「山頂には静けさがある/もう梢のざわめきは聴こえない/森の小鳥達もおし黙ってしまった/待つのだ、しばし、もうすぐ/お前にも休息の時がおとずれるのだから」(ゲーテ「さすらい人の夜の歌」)

○連結辞多用(polysyndecton)

「私の青春時代は試行錯誤の連続だった、あるいは見果てぬ夢を見、あるいは地の果てへの冒険を試み、あるいは報われぬ恋に情熱をかけ、あるいは遮二無二読書に邁進した。」

 

 

1.4.入れ替え

○倒置法(inversion)

「波騒は世の常である。波にまかせて、泳ぎ上手に、雑魚は歌い雑魚は踊る。けれど、誰か知ろう、百尺下の水の心を。水のふかさを。」(吉川英治「宮本武蔵」)

○追加法(hyperbaton)

「兼好は誰にも似てゐない。よく引き合いに出される長明などには一番似てゐない。彼は、モンテエニュがやった事をやったのである。モンテエニュが生まれる二百年も前に。モンテエニュより遥かに鋭敏に簡明に正確に。」(小林秀雄「徒然草」)

○代換法(hypallage)

「蛇のなかにとぐろを巻いている力を私にください。」(フランソワ・デジレ「アリ・オム・ラマクリシナ」)

○倒装法(hypallage)

「猿は秀吉に似ている」、「鐘消えて花の香は撞く夕べかな」(芭蕉)

 

1.5.多重表現

○同時的音喩(駄洒落・地口)

「「ネズミつかめえたよ、おおきいだろ」「ちいせえよ」「おおきいよ、ほら」「いやちいせえよ」とかやってますと、ネズミがまんなかで「チュウ」なんてね。」(古今亭志ん生)、「南天」、「疲労宴」、「嫌煙の仲」

○同語異義復言法(antanaclasis)

「わたしの愛する人は人の妻だ。」、「心は理性(レゾン)が知らない自分なりの理由(レゾン)をもっている。」(パスカル)

○兼用法(syllepsis)

「太陽と恋とに身を焼かれて彼は南の国をさまよった。」

○くびき語法(zeugma)

「こんなに世界がぐんと広くて、闇はこんなにも暗くて、その果てしないおもしろさと淋しさに私は最近はじめてこの手でこの目で触れたののだ。」(吉本ばなな「キッチン」)

 

2.意味の拡張(認知意味論的レトリック)

2.の各項目はすべて、転義法(trope)・比喩にあたる。言葉の意味を通常の用法から拡張してつかう修辞法である。

○隠喩(metaphor)

「月見うどん」、「白雪姫」、「甘い生活」、「堅物」、「熱い議論」、「腹を割って話す」、「壁につきあたる」、「社会の歯車」、「わたしはかつて心に次のような問いをおこしたとき、ほとんど自分自身の問いによって窒息しそうになったのである。「なに?生はこの賎民をも必要とするのか」毒でけがされた泉が必要物なのか。悪臭を放つ火が。きたならしい夢が。生のパンのなかのうじ虫が。」(ニーチェ「ツァラツァストラはこう語った」)

○直喩(simile)

「法王ボニファキオ八世は、狐のようにその地位につき、獅子のようにその職務をおこない、犬のように死んだという。」(モンテーニュ「エッセー」)、「ふと入り口のはうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のやうな感じで立って私を見ていた。」(太宰治「メリイクリスマス」)、「(覆された宝石)のような朝/何人か戸口にて誰かとささやく/それは神の誕生の日」(西脇順三郎「ギリシャ的叙情詩・天気」)

 

 

○換喩(metonymy)

「キツネうどん」、「赤シャツ」、「のれんをつぐ」、「ホワイトハウスの決定」、「東京は追加経済策を発表した」、「春雨やものがたり行く簑と笠」(蕪村)、「道は凍つてゐた。村は寒気の底へ寝静まつてゐた。」(川端康成「雪国」)

○転喩(metalepsis)

「お手洗い」、「暑いですね」、「約束をわすれるな」、「夜明けのコーヒーを一緒にのもうよ」、「わたしは十分すぎるほどいきた」

○提喩(synecdoche)

「親子ドンブリ」、「飲む・打つ・買う」、「空から白いものがふってくる」、「ウォークマン」、「人はパンのみにて生きるにあらず」

○換称(antonomasia)

一般名のかわりに固有名をつかう。「小町」、「味の素」、「ドン・ファン」

固有名のかわりに一般名をつかう。「ブッダ」、「キリスト」、「黄門」

○擬人法(prosopopoeia)

「時間め、おれの恐ろしい功に先手をうったな。」(シェイクスピア「マクベス」)、「暗闇よ、わたしの古い友達よ。わたしは、またお前と語りにきた。」(サイモン「サウンドオブサイレンス」)、「航海にでよう銀色の少女よ」(サイモン「明日にかける橋」)「やれ打つな蝿が手をする脚をする」(小林一茶)

○呼びかけ法(apostrophe)

「あゝをとをとよ、君を泣く、/君死にたまふことなかれ、/末に生まれし君なれば、/親の情けはまさりしも、/親は刃をにぎらせて、人を殺せとをしへしや、/人を殺してしねやと、/二十四まであそだてしや。」(与謝野晶子「君死にたまふことなかれ」)

○擬物法

「生き字引」、「捨てゴマ」、「動く広告塔」、「粗大ゴミ」、「気の短い福建野郎が爆発してしまったのだ」(馳星周「不夜城」)

○象徴(symbol)

「コウノトリ」、「ミネルヴァの森のフクロウは夜とぶ」(ヘーゲル)、「風のなかの蝋燭、英国の薔薇」(エルトンジョン)、「鎌とハンマーは十字架を粉砕せんとした」

○諷諭(allegory)

「井の中の蛙大海を知らず」、「桃李言はざれど、下自ずから蹊を成す」、「干天の慈雨」、「火宅」、「酸っぱいブドウ」

 

3.伝達のひねり(語用論的レトリック)

3.1.言わずにつたえる

○暗示的看過法(preterition)

 「お土産なんかいいから、しっかり楽しんできてね」、「宮元君が殺人犯として服役していたということはふれずに、直接本題にはいります。」

○黙説法(aposiopesis)

「葉蔵は、はるかに海を見おろした。すぐ足下から、三十丈もの断崖になってゐて、江の島が真下に小さく見えた。ふかい朝霧の奥底に、海水がゆらゆらうごいてゐた。そして、否、それだけのことである。」(太宰治「道化の華」)

 

 

○含意法(implication)

「月夜の晩ばかりじゃねえぞ」、「先生の今度の本、印刷がきれいですねえ」、「二十五才以下の方は、お使いになってはいけません。」(マダム・ジュジュの広告)、

 

3.2.弱く遠回しに言ってつたえる

○緩叙法(litotes)

「「笑いごとじゃあないぞ」とウィングが言った。「笑う気はないさ」、シェーンはライターの火をつけた、「もっとも、だからと言って泣きたいとも思わんがね。」」(ハリデイ「大急ぎの殺人」)、「ちょっと期待はずれでした」、「わたしは彼を評価しないわけではない」

○語調緩和法(attenuation)

「わたしくには、彼の主張には、すこしばかり無理があるようにおもわれました。」

○婉曲語法(euphemism)

「帰らぬ人となる」、「幽冥境を異にする」、「用足し」、「洗面所」、「有りのみ」、「得て候」、「お開きにする」、「援助交際」、「夢の島」

○抑言法(meiosis)

「いい仕事ができた」、「覚え書き」、「ペーパー」

○迂言法(periphrasis)

「(おれはやくざだとすごまれて)「ああ、身体に日本画を描いていらっしゃるアーチストでおいでですか。」、「米の粒はあんましくわねえが、米の水はたんとめしあがってまさあ」

○代称(kenning)

「ミネルヴァの鳥」(フクロウ)、「夜の蝋燭」(星)、「旅するランプ」(太陽)

 

3.3.余計に強く言ってつたえる

○冗語法(pleonasm)

「馬から落ちて落馬する」、「冷たい氷で頭を冷やす」、「青い青空をむさぼり求める熱っぽい唇」(マラルメ「窓」)、「いま地球の環境保護とかエコロジーとか、シンプルライフということがしきりに言われだしているが、そんなことはわれわれの文化の伝統から言えば、当たり前の、あまりにも当然すぎて言うまでもない自明の理であった。」(中野孝次「清貧の思想」)

○反復法(repetition)

「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」(マタイによる福音書)、「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」(三好達治「雪」)、「お詫び。このたびの不祥事により、世間をおさわがせし、数多くのきびしいお叱りを頂戴いたしました。ご愛顧をいただいてまいりましたお客様方には、大変なご迷惑をおかけいたしました。心からお詫びを申しあげますとと共に、深く深く反省し、改めて、ここに新生を誓うものでございます。何卒、皆様方の旧に勝るご指導、ご鞭撻を賜ります様、伏してお願い申しあげる次第でございます。ここに深くお詫びもうしあげます。」(高島屋の謝罪広告)

○誇張法(hyperbole)

「万力」、「千枚通し」、「万年筆」、「一日千秋」、「兎小屋」、「猫の額」、「死にそうに疲れている」、「支配人は総金歯をにゅっとむいて笑ったので、あたりが黄金色に目映く輝いた。」(井上ひさし「モンキンポット師の後始末」)、「こりゃ何という手だ。や、目の玉が抉られる。/大ネプチューンの大洋の水を皆使ったらこの血をば/きれいに洗い落とせるだろうか。いや、いや。おれのこの手は/却っておびただしい海の水を朱に染めて、/青をば赤一色にするだろう。」(シェイクスピア「マクベス」)

 

 

3.4.逆から言ってつたえる

○皮肉法(irony)

「やっと気づきました。天賦の才だけではだめだということを。」→「ふふん。天賦の才ね。」、

「私が結婚したらすくなくとも10人の男が不幸になるわね。」→「あなたどうやって、すくなくとも10人の男と結婚するの。」

○反語法(antiphrasis)

「悪友」、「その物につきて、その物を費やしそこなふ物、数を知らずあり。身の虱あり、家に鼠あり、国に賊あり、小人に財あり、君子に仁義あり、僧に法あり。」(吉田兼好「徒然草」)、

○修辞的否定

「見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」(藤原定家)

○修辞的疑問(rhetorical question )

「あなたはわたしが何も知らないとでも思っているの」、「このままでいいのだろうか」

 

3.5.常識にさからって言ってつたえる

○同語反復法(tautology)

「子どもは子どもだ」、「約束は約束だ」、「露の世は露の世ながらさりながら」(一茶)、「ロミオよロミオよ、おまえはどうしてロミオなの」(シェークスピア「ロミオとジュリエット」)

○撞着語法(oxymoron)

「公然の秘密」、「有難迷惑」、「慇懃無礼」、「ただより高いものはない」、「無知の知」、「黒い光」、「氷の炎」、「僕は今最も不幸な幸福のなかに暮らしている。しかし不思議にも後悔していない。」(芥川龍之介「或阿呆の一生」)

○逆説法(paradox)

「急がばまわれ」、「負けるが勝ち」、「損して得とれ」、「こころの貧しい人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである。」(マタイによる福音書)「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。」(「歎異抄」)

 

3.6.模索しつつ言ってつたえる

○同格法(apposition)

「壁--独り居の夜半の伴侶/壁の表に僕は過ぎ去ったさまざまの夢を託す」(三好豊一郎「壁」)

○類義語累積法(synonymy)

「彼女はきれいで、かわいくて、愛らしくて、魅力的で、すてきで、とてもいいんだ。」

○訂正法(epanorthosis)

「人様の芸を盗むのも修行のうちだよ。・・・・・・・盗む、というから聞こえが悪いのだよ。そうよな、模写とでもいった方がいいんじゃないかね。」(井上ひさし「喜劇役者たち」)

○疑惑法(aporia,addubitation)

「生きるか死ぬか、それが問題だ」(シェークスピア「ハムレット」)

○設疑法(interrogation)

「おお季節よ、城よ、/どんな魂が無傷だというのか。」(ランボー)

 

 

○問答法(dialogismus)

「諸君は大衆に愛されつづけたいと思うのか。/それなら絶えず書きつづけ、諸君の談話に変化をあたえよ・・・/自分の詩句について大衆の検閲が怖いのか。/それなら自分自身に対して厳しい批評家であれ。」(ボワロ「詩法」)

 

4.間テキスト的修辞法

○引喩(allusion)

「発句は芭蕉か髪結い床の親方のやるもんだ。数学の先生が朝顔やに釣瓶をとられて堪るものか。」(夏目漱石「坊ちゃん」)

○パロティ−(parody)

「赤信号みんなでわたれば怖くない」

 

 

 

課題1. レトリックがおもしろいとおもう文を数種類さがして、そこにどんなレトリックがつかわれていて、どんな効果をあげているか指摘してください。

課題2. 大好きな人を、レトリックを駆使してほめたたえてください。つぎに、大嫌いな人を、レトリックを駆使してののしってください。(人でなく、国や会社、団体、食べ物、など大好きだったり、大嫌いだったりするものなら、なんでもかまいません。)

 

 

 

 

 

参考文献

「レトリック辞典」 野内良三  国書刊行会(1998)

「レトリック感覚」 佐藤信夫 講談社(1978)

「レトリック認識」 佐藤信夫 講談社(1981)

「メタファー思考」 瀬戸賢一 講談社新書(1995)

「レトリックと人生」 レイコフ・ジョンソン 大修館(1980)

「ジョークとレトリックの語用論」 小泉保 大修館(1997)

「背理のコミュニケーション」 橋本良明 勁草書房(1989)

「落後のレトリック」 野村雅昭 平凡社(1996)

「かがやく日本語の悪態」 川崎洋 草思社(1997)

「罵詈雑言辞典」 奥山益朗編 東京堂(1996)