はなし言葉の技術

 

1.言葉のジャンル

1.1.言葉によるコミュニケーションとTPO

 言葉によるコミュニケーションの基本は、TPO (Time Place Objectives、時・所・目的)をわきまえることである。

 恋人にたいして、官僚御愛用の法律の文章のようなスタイルで気持ちをうちあけてたらどうだろうか。「私こと、岩鉄巌(甲)は、高根ゆり(乙)に対して、甲の他の異性の対象者に対するものに比量するに、著しく顕著な肯定的感情を独占的に有するもので有る事を認め、かつ、当該感情の持続性を期待しうべき事由が存する事を確認し、さらに、乙に対しても甲は甲に対する同様の肯定的感情を期待しうるべき事由が存しうるものと判断し、甲は乙に対して、婚姻の申し出をするものである。」まあ、たいてい、途中でにげだすだろう。

 逆に、討論の場でこんな調子だったらどうだろうか。「だってぇー、みんなぁー、そういうしぃー。そういうのー、かわいいじゃん。わたしぃー、そうおもうんだもん。」討論の場で、自分の主張を論拠をしめさずに、周辺への同調と自分の感情だけを、うーうー、わんわんと表出しても、馬鹿あつかいされるだけである。

 人間の会話の起源は、サルの毛づくろいだという説がある。(ロビン・ダンバー 1998 「ことばの起源―猿の毛づくろい、人のゴシップ」青土社)「おはよう、いい天気ですね。」「どう最近元気」などという会話は、情報の交換というよりも情緒的つながりの確認としての毛づくろい的会話である。スポーツや人のうわさ話なども、情報の伝達よりも、共通の話題による毛づくろい的機能のほうに重点がある。しかし、文字と文書によるコミュニケーションがおおきな役割をはたす現代社会は毛づくろい的会話だけではなりたたない。もう一方で、明確な事実と意見の伝達も不可欠である。

 言葉によるコミュニケーションでもっとも大切なのは、だれにたいして、何の目的でコミュニケーションしているかを明確にして、それにふさわしいスタイルでの会話をおこなうことである。毛づくろいすべきところで論述したり、情報をはっきりつたえるべきところでうーうー、わんわんいったら、コミュニケーションはなりたたない。TPOをふまえた会話ができないひとは、コミュニケーション能力のとぼしいひとである。

 現代社会ではコミュニケーション状況が多種多様で、それに対応して会話スタイルも様々でありうる。家族との会話、子どもへのはなしかけ、友達との会話、恋人との会話、先輩との会話、先生との会話、見知らぬ人との会話、顧客への応対、セールストーク、などの会話。スピーチ、講義、演説、討論、報告、説教、バスガイド、司会、アナウンス、などといった多数を相手にした発話。問診、カウンセリング、電話相談などの職業的会話もある。法廷や、官僚、政治の場での言葉もある。コマーシャルやマスコミの言葉も特徴的である。さらに、落語、漫才、浪曲などの話芸や物語の言葉もある。これらの言葉のスタイルの多様性は、それぞれの言葉がつかわれる社会的状況の反映であると同時に、それぞれの状況における社会的現実を形成する役割をもっている。

 

1.2.言葉のジャンル

 種々のスタイルの言葉の領域のことを、文学作品のミステリーとか冒険物、詩歌、童話といったジャンルという用語を借用して、言葉のジャンルとよぶことにする。

 言葉のジャンルは、その言葉がつかわれる状況における話者と聞き手の人数、資格と立場、主題の種類、コミュニケーションの目的などの機能的特徴と語彙の選択、文構成、文末、敬語表現、声の調子、などの言語的特徴が対応することによって成立する。言葉のジャンルは言語集団のなかで歴史的に継承・変更されていくものである。言葉のジャンルには、消えていくもの(たとえば、物売りの声)もあれば、あたらしくあらわれるもの(たとえば、DJ のしゃべり)もある。

 言葉のジャンルで最初に注意すべきなのが、インフォーマルか、フォーマルかの区別である。インフォーマルな場の会話は、一般的な毛づくろい的機能が中心である。それぞれ自分にあった個人的な会話のスタイルを、場をふみながら、模倣と試行錯誤をつうじて、みにつけていくといい。一方、フォーマルなほうは、儀礼的な型にはまった発話が必要な場もあれば、特定の領域の事実の明確な伝達を要求される場、意見の明確な提示と批判的吟味が要求される場、客にたいする特定の毛づくろいが要求される場、など機能的要求は様々であり、これに応じるための言語的特徴も限定されている。社会人として、現代社会をいきていくためには、何種類かのフォーマルな場における言葉の使用を修得する必要がある。

 以下、文字の文化をベースとした言語修得という学校教育のながれで、事実と意見の明確な伝達とそれにもとづく説得にかんする言葉のジャンルを中心に、はなし言葉の技術について解説していく。インフォーマルな言葉、儀礼的な発話、特定の毛づくろい的会話などについては、ここでは、あつかわない。

 

1.3.課題

○言葉のジャンルにどんなものがあるだろうか、自分の経験した言葉のジャンルを列挙してみよう。それぞれの、機能的特徴と言語的特徴はなんだろうか。

○自分の得意な言葉のジャンルはなんだろうか。逆に苦手な言葉のジャンルはなんだろうか。得意だったり、苦手だったりするのは、どこに原因があるのだろうか。

○大阪弁で裁判官となって判決をくだしたり、セールスマンのしゃべりかたで求愛したり、官僚言葉で喧嘩をしてみたり、言葉のジャンルと状況がずれたコミュニケーションをかんがえて、実際にやってみよう。

 

1.4.文献案内

(日本語でかかれた、手に入りやすいもの、のみをあげた。翻訳については、日本版のみの情報をしめした。以下、文献案内はすべて同様。)

ハリデー・ハッサン 1991 機能文法のすすめ 大修館書店

 機能文法の入門書。言葉のジャンルがレジスターの概念で方言と対照してまとめられている。

ヤン・レンケマ 1997 伝わることば--談話的コミュニケーションの基礎知識-- 関西大学出版会

 言語行為論から物語論、テキスト言語学まではばひろくコンパクトにまとめてある。物語もふくめて談話の分類が紹介されている。 

泉子・K・メイナード 1993 会話分析 くろしお出版

 発話の順番、発話テーマの設定、発話スタイルなど、日本語と英語の比較を中心に、会話分析を紹介している。

泉子・K・メイナード 1997 談話分析の可能性--理論・方法・日本語の表現性-- くろしお出版

 新聞のコラムの分析や他者の発話の引用、若者向け雑誌の語り口の比較など、テキストの分析が試みられている。

茂呂雄二編 1997 対話と知--談話の認知科学入門-- 新曜社

 心理学、言語学、社会学など学際的に会話研究が紹介されている。文献リストが充実している。

北岡誠司 1998 バフチン--対話とカーニヴァル--  講談社

 バフチンの全体像を把握するのによい。読書案内は諸分野の最近の著作までフォローしている。

W-J・オング 1991 声の文化と文字の文化 藤原書店

 リィテラシィー研究の古典。コンパクトに重要な論点がまとめてある。 

イアン・アーシー 1996 政・官・財の国語塾 中央公論社

 とにかく面白い。官僚言葉、政治家の言葉、コマーシャルの言葉が分析されている。中央公論1999年3月号からは、おなじ著者による「さまよえる日本語」の連載がはじまっている。

野村雅昭 1994 落語の言語学 平凡社

野村雅昭 1996 落語のレトリック 平凡社

 落語ずきの言語学者による落語の言葉の分析。対象をよく把握し、分析はしっかりしている。

現代のエスプリ 1993 メディアコミュニケーション 至文堂

日本語学 1997年3月号 特集 授業の談話分析 明治書院

日本語学 1994年1月号 特集 判決文 明治書院

日本語学 1994年11月号 特集 ビジネスコミュニケーション 明治書院

  

 

2.聞いて、質問する

2.1.あいづちをうつ

 「聴き上手は、話し上手」ということわざがある。話しが面白いひとは、話題が豊富だったり、発想がゆたかなひとだろう。一方、聴き上手なひとは、会話を運営するための重要なポイントを把握しているひとである。

 会話は時間のなかでで展開される相互行為である。発話の順番取り、言葉やみぶりによるあいづち、話題の転換、会話の終了、などが会話分析といわれる分野で研究されている。会話の運営が、複雑な現象であることがあきらかにされつつある。

 話しをきくうえで、前提にあるのが、相手の発話に関心をしめしていることを表現することである。姿勢、目線、表情、頷きなどのみぶり、あいづちの言葉、などによって聞き手の関心が表現される。話し手は無意識のうちに聞き手の反応をうけとって、発話を調整している。講義のときに、講師が教卓の左にいったら興味ふかそうな様子をしめし、右にいったら退屈そうなふりをするという実験をおこなった、学生達がいる。結果、講師は左でばかり話しをするようになった。なぜ左でばかり話しをするのですかと学生が質問したら、講師は左ばかりにいっていることを意識していなかったそうである。会話という相互行為では、無意識のうちの身体的な評価のシグナルが、互いの発話をコントロールしている。会話がぎくしゃくしたり、はずまないときなど、この無意識身体的なシグナルをチェックして、すこし意識化してみるといい。

 留守番電話の話しにくさは、相手からの応答がないことによる。一方、しゃべくり漫才では、言葉によるあいづちが、くどいほどくりかえされる。「そやねえ」、「ほーんと」、「ああ、自動車は駐車がやっかいやからねえ」(相方の発話のくりかえし)などなど。自分は、ふだんどんなあいづちの言葉をつかっているだろうか。「ふーん」、「ほう」、「うん」。そのとき、どんなみぶりをしているだろうか。

 発話にわりこんだり、話題をかえるのには、一定のルールがあり、それをまもらないと強引な印象をあたえる。また、会話が一瞬とぎれ沈黙がおとずれるときがある。これを、「天使がおとずれた」などという。会話が参加者をこえて第三者にひらかれた瞬間として、肯定的にとらえるわけである。会話は終了させるときには、会話内容の確認・評価、つぎの約束、などの儀礼的な発話が必要になる。これを省略すると、唐突に会話をぶちきった印象をあたえる。

 

2.2.質問をする

 質問は、相互行為としての言葉によるコミュニケーョンの重要な部分を構成する。しかし、質問のしかたについて、学ぶ機会はまったくない。

 質問はたんにわからない情報をえようとするだけのものではない。もしそうなら、知りたい気持ちと、これをわからないと公表することの恥ずかしさをはかりにかけて、ということになってしまう。質問は、もっと積極的なコミュニケーション行為である。

 インドにおける討論文化の影響をひく仏教では、質問をつぎの四つにわけている。

疑問 自分にわからないことを質問する

質問 相手のいっていることが正しいのか質す

対問 相手の知識・理解を試すために質問する

付機問 自分はわかっているけれど、ほかのひとはわからないだろうとおもいみんなに理解させるために質問をする

 あやまりうる人間が、集団としてたすけあって真実を探求しようとするなら、質問は不可欠である。欧米の討論文化でも、質問しないことは、真実の探求に消極的であるとみなされてしまう。著者は、以前、英会話学校の米国人に著者がおこなった心理学の研究のはなしをしたことがある。その米国人は、その研究のポイントを理解するには、教養と知識が不足しすぎていたようだった。しかし、ひとしきり話しを聞いたあとで、それでも、「それで、その研究が何の役にたつのか」とか「あなたは、なぜその研究をおこなったのか」と、質問してきた。ドイツ人から、その言葉の定義はなにかと、しつこく質問されて、うんざりした日本人研究者のはなしもきいた。

 「何の役にたつのか」とか「なぜ興味をもったのか」などという一般的な質問は、どんな場合にも適用できて便利かもしれない。言葉の定義も、「愛」とか、「自由」とか、「解脱」とか、漠然としたキーワードについて、その言葉によって何を意味しているのかを質すのは、正確なコミュニケーションのために有用だろう。

 

2.3.事実と意見の区別

 あやまりうる人間が、集団としてたすけあって真実を追求するさいに、まず留意すべきポイントが事実と意見の区別である。

 たとえば、「ビートたけしは、カンヌでグランプリをとった」は事実にかんする言明である。事実にかんする言明は、証拠をあつめ吟味することによって、正しいか、誤っているかをきめることができる。「ビートたけしは、カンヌでグランプリをとった」は事実にかんする言明であり正しいことがしめせる。一方、「ビートたけしは、ベネチィアでグランプリをとった」も事実にかんする言明だが、誤っていることがしめせる。これらにたいし、「ビートたけしは、偉大な映画監督である」は意見である。いくら証拠をあつめても、正しいか、誤っているか、きめられない。あるひとは偉大な監督だというだろうし、あるひとはマイナーでつまらない監督というだろう。

 事実にかんする言明を検討するためには、証拠の情報源がなんなのかを明確にする必要し、その信頼性を吟味する必要がある。直接に見聞きしたことなのか、誰からかの伝聞か、文献に記載されているのか、など。「みんなそういっているけど、たけしには隠し子がいるらしいよ」。これは、事実にかんする言明だが、証拠の情報源としてみんなというあいまいな伝聞しかしめされていないので、正しいものとしてうけとることはできない。事実にかんする言明には情報源のタグがついているものとして、うけとる必要がある。「みんないっているけど」とか「もっぱらのうわさだけれど」といったタグがついていれば、事実の正しさについては証拠がないと判断すべきである。このへんの事実の認定にきびしいのが、法律の領域である。オースチンによると(オースチン 1978 「言語と行為」 大修館)、アメリカの刑事訴訟法では、「4月6日に太郎とあったとき、太郎はたけしを4月1日の深夜公園のちかくで、みかけたと、いっていました」という花子の証言は、直接に太郎の証言がないかぎり、証拠としては採用されない。伝聞した事実の証言だからである。一方、「3月31日に太郎とあったとき、太郎はたけしを殺してやるといっていました」は、伝聞した事実ではなく、太郎の言語行為についての証言なので、証拠として採用される。

 事実にかんする言明には、「部屋の隅に鼠がいる」といった簡単なものから、「あの食堂には鼠がいるそうですよ」といった伝聞、「ダイアナ妃はパパラッチに追いかけられて交通事故にあって死んだ」といった因果関係にかんする言明(因果関係にかんする言明の検討のしかたについては、ゼックミスタ・ジョンソン1997 がわかりやすい。)、「邪馬台国は近畿にあった」というおおくの推測をへても明確には証拠だてられないような事実にかんする言明まで、様々なレベルの証拠の直接性と推測の程度の言明があり、事実の重要度におうじての批判的な吟味の必要性がある。

 意見の表明の基盤には、価値へのコミットメントがある。ビートたけしが偉大な映画監督というひとは、映画監督の偉大さについてのある価値基準をもっていて、それにしたがってビートたけしを評価していることになる。ビートたけしをマイナーな監督とみるひとは、また別の映画観をもっているのかもしれない。(あるいは、ビートたけしにたいする事実認定がことなるということもありうる。)紅茶がすきかコーヒーが好きか、いまの恋人をなぜ好きか、などのプライベートなこのみについては、議論する必要はない。しかし、映画監督の偉大さや国旗・国歌の必要性、ノックを支持するか否か、こいった公共的な側面のある問題について、だって好きだからとか、個人的感性だけで、根拠をのべずに意見を主張するのは自閉への道である。意見の相違があるときには、事実認定のちがいのみという場合もあるが、一般には、事実認定のちがいだけではなく、ほりさげていけば、なんらかの普遍性をもつ価値観の対立に到達することがおおい。これは簡単には決着できないかもしれないが、たんなる個人の好みとしての意見が、より普遍性をもつものとして位置づけられることになる。

 

2.4.課題

○ふたり一組になる。一方が話し手、もう一方が聞き手である。時間は、5分程度。話し手は、最近の自分の経験をはなす。話し手は、相撲取りのインタビューほどではなくとも、あんまり工夫はしなくともよい。聞き手が、工夫する側である。聞き手は、ジェスチュアやあいづち、適当な質問をまじえて、話し手からできるだけ、気持ちよくスムーズに、話しをひきだすように試みてみよう。

○留守番電話の応答メッセージを、どうふきこんだらはなしやすくなるだろうか。

○年輩の人や専門家にテーマをきめて、20分から30分程度インタビューしてみよう。必要におうじて事前のしらべをして、質問項目をリストアップしてからインタビューにのぞむ。メモをとりながら、話しをきき、結果を文書にまとめてみよう。

○講師のスピーチを、どれが事実でどれが意見かの区別に注意しながら、メモをとりながらきく。事実は講師の直接の経験だろうか。伝聞だろうか。伝聞だとしたらその出所と信憑性はどうだろうか。事実のなかに推測はまじっていないだろうか。事実にかんする疑問点を、講師に質問してみよう。また、意見について、根拠の提示がなされていないか、不十分なものがあったら、根拠がなんなのか質問してみよう。

 

2.5.文献案内

木下是雄 1981 理科系の作文技術 中央公論新書

木下是雄 1994 レポ−トの組み立て方 ちくま学芸文庫

言語技術の会編 1990 実践・言語技術入門 朝日選書

 以上の三冊は木下是雄と木下を中心としたグループによる言語技術の本である。事実と意見の区別については、それぞれの本で、あつかわれている。事実と意見の区別についてさらにしりたい場合には、4.の参考文献にあたるとよい。

言語表現研究会編 1993 コミュニケーションのためのことば学--きく・話す・読む-- ミネルヴァ書房

 NHKのアナウンサー出身の大学教員による本。発声のしかたや、ききかた、など基本的なところうから、オーソドックスに話し言葉についてまとめている。

 

3.相互評価とメッセージの重みづけ

3.1.評価のつたえかたと言葉のあや

 言葉は社会的な制度であり、言葉の使用にあたっては、社会的な礼儀をまもることが要求される。このため、直接の要求や命令よりも、間接的な依頼のほうが選択されることがおおい。これは、直接の要求や命令がぶしつけで、失礼だとうけとられるからである。反語表現とは、親友にたいして「あいつは悪友だ」とか泥だらけの顔をした子どもにたいして「まあまあきれいな顔をして」とか、字義的な表現とは逆の評価的メッセージをつたえる表現だが、プラスの表現でマイナスの評価をつたえる皮肉(アイロニー)のほうが圧倒的におおい。これは、肯定的評価はそのままつたえても問題はないが、否定的評価の伝達は社会的礼儀を失することになることがおおいからである。(もうひとつの皮肉の効果として、表面的には否定的にいってないので、正面から反論しにくいという事情もある。)

 言語的コミュニケーションにおいて相互の評価情報の伝達は、事実の伝達以上に重要であることがおおい。しかし、相手への否定的評価や自己への肯定的評価のようにあからさまにいうと礼儀を失する場合や、相手にたいする賛美をことさらに強調したい場合などがあり、さまざまな言葉のあやがもちいられる。こういう状況でもちいられる代表的な言葉のあやを、列挙すると以下のようになる。

A.言わずにつたえる

○暗示的看過法(preterition)

「宮元君が殺人犯として服役していたということはふれずに、直接本題にはいります。」、 「お土産なんかいいから、しっかり楽しんできてね」

○含意法(implication)

「先生の今度の本、印刷がきれいですねえ」「いえいえ、先生の本こそ、上等な紙をおつかいで」

(これは、芥川龍之介が「侏儒の言葉」で半肯定論法として紹介している表現法である。筒井康隆もこの表現法をつかって出版記念パーティーのようすを描いている。)

B.弱く遠回しに言う

○緩叙法(litotes)

「ちょっと期待はずれでした」、「わたしは彼を評価しないわけではない」、「「笑いごとじゃあないぞ」とウィングが言った。「笑う気はないさ」、シェーンはライターの火をつけた、「もっとも、だからと言って泣きたいとも思わんがね。」」(ハリデイ「大急ぎの殺人」)

○語調緩和法(attenuation)

「わたしくには、彼の主張には、すこしばかり無理があるようにおもわれました。」

○婉曲語法(euphemism)

「帰らぬ人となる」、「幽冥境を異にする」、「用足し」、「洗面所」、「有りのみ」、「得て候」、「お開きにする」、「援助交際」、「夢の島」

○抑言法(meiosis)

「いい仕事ができた」、「覚え書き」、「ペーパー」

○迂言法(periphrasis)

「(おれはやくざだとすごまれて)「ああ、身体に日本画を描いていらっしゃるアーチストでおいでですか。」、「米の粒はあんましくわねえが、米の水はたんとめしあがってまさあ」

C.余計に強く言う

○反復法(repetition)

「お詫び。このたびの不祥事により、世間をおさわがせし、数多くのきびしいお叱りを頂戴いたしました。ご愛顧をいただいてまいりましたお客様方には、大変なご迷惑をおかけいたしました。心からお詫びを申しあげますとと共に、深く深く反省し、改めて、ここに新生を誓うものでございます。何卒、皆様方の旧に勝るご指導、ご鞭撻を賜ります様、伏してお願い申しあげる次第でございます。ここに深くお詫びもうしあげます。」(高島屋の謝罪広告)

○誇張法(hyperbole)

「猫の額」、「死にそうに疲れている」、、「君の瞳は百万ボルト」、「あなたはわたしのすべてです」

D.逆から言ってつたえる

○皮肉法(irony)

「やっと気づきました。天賦の才だけではだめだということを。」→「ふふん。天賦の才ね。」、

「私が結婚したらすくなくとも10人の男が不幸になるわね。」→「あなたどうやって、すくなくとも10人の男と結婚するの。」

○反語法(antiphrasis)

「悪友」、「その物につきて、その物を費やしそこなふ物、数を知らずあり。身の虱あり、家に鼠あり、国に賊あり、小人に財あり、君子に仁義あり、僧に法あり。」(吉田兼好「徒然草」)、

○修辞的疑問(rhetorical question )

「あなたはわたしが何も知らないとでも思っているの」、「このままでいいのだろうか」

E.転義法(trope)

○隠喩(metaphor)

「あなたは私の太陽だ」、「わたしはかつて心に次のような問いをおこしたとき、ほとんど自分自身の問いによって窒息しそうになったのである。「なに?生はこの賎民をも必要とするのか」毒でけがされた泉が必要物なのか。悪臭を放つ火が。きたならしい夢が。生のパンのなかのうじ虫が。」(ニーチェ「ツァラツァストラはこう語った」)

○直喩(simile)

「法王ボニファキオ八世は、狐のようにその地位につき、獅子のようにその職務をおこない、犬のように死んだという。」(モンテーニュ「エッセー」)

○擬物法

「捨てゴマ」、「粗大ゴミ」、「気の短い福建野郎が爆発してしまったのだ」(馳星周「不夜城」)

 

3.2.メッセージの重みづけとユーモア感覚

 メッセージは文書でかくとどれも一律の重みをもっているようにみえる。しかし、はなし言葉では、どこが重要でどこはつけたしか、声のおおきさや、口調、身ぶりではっきりと区別して表現しなくてはいけない。メッセージをつたえるときには、どこがもっとも伝えたい点で、どこは省略してもいいか、まず自分で確認して、話し手のメッセージへの評価が、聞き手につたわるようにする必要がある。はなし言葉では、大事なところは、くりかえすとよい。声をおおきく身ぶりをまじえるものよい。話し言葉では、メッセージの重要度にめりはりをつけて伝える必要がある。おなじ調子でだらだらしゃべってはいけない。

 話し手はメッセージにコミットしている。しかし、聞き手も同様にコミットメントしているとはかぎらない。懸命に説得しようとすればするほど、話し手と聞き手のコミットメントが乖離してしまうこともある。5.でのべるように、聞き手の関心にこたえるような話題の設定と展開の工夫は重要である。しかし、宗教団体の説法ででもなければ、完全一致のコミットメントをもとめることは、できないし、のぞましいことでもない。

 ユーモアとは、自らのコミットメントを、外からながめ、相対化することである。かつて、ロンドンが爆撃されて、建物の全面が破壊されたとき、建物の管理者によって、入り口拡張の張り紙が、だされたそうである。もちろん建物の管理者は建物の保全にコミットしている。しかし、同時にその関心を相対化する視点をももっていることをしめしているのである。メッセージをつたえるときも、メッセージやメッセージをつたえる自分自身を相対化しうる視点をしめすことは有益である。話し手と聞き手のちがいが解消されるわけではない。ちがいはのこる。しかし、そのちがいは相対化され、話し手と聞き手が、よりひろい地盤にたつことが可能になる。また、6.でのべるが、話し手の印象としても、ユーモアの導入により、ちがった観点をも余裕をもって許容しうる、寛容でたのもしい人間という印象をあたえることにつながりうる。もちろん、これは真剣なメッセージへのコミットメントを前提としてのことである。でないと、たんなる無責任のおふざけということになってまう。

 

3.3.敬語について

 敬語は、間接的な依頼表現や、あからさまな否定的評価を他者にむけることの抑制といった、言葉をつかううえでの社会的礼儀の延長上にあるものである。日本語では、敬意を表すべき相手との会話や相手への言及のときに敬語表現をもちいる。どんな相手が敬意を表すべき対象かは社会的通念のもとでの各自の判断によるが、敬語表現なしというわけにはいかない。敬語表現は、自分の内か外かを基準に、自分や内にたいしては謙譲表現を、外にたいしては尊敬表現をつかう。事物や事態については、丁寧表現をもちいる。よくみられる敬語表現のあやまりには、尊敬表現と謙譲表現の混同、つかわないでもいい尊敬語、丁寧語の使用などである。以下の表現は、敬語表現として、それぞれ適切さをかく。どこが不適切でどう変えたらいいのか、かんがえてみよう。

先日、お客様が申された商品が入荷いたしました。

先生、車の用意ができました。すぐ、参られますか。

私にはわかりませんので、窓口で伺ってみてください。

(店員に)ぎょうざ2人前、おもち帰りでおねがいいたします。

ああ、かゆい!蚊にたべられたみたい。

部長は、ゴルフをいたされますか。

すっかり忘れてしまった。犬にご飯をあげなくちゃ!

おいしいケーキが焼きあがりました。すぐ、いただかれますか。

お肉がこんなについてしまった。ダイエットしよう。

課長!きょうは一日中立ちっぱなしで、ご苦労さんでした。

お客様、ホテルの中では、係りの申すようにいたしてください。

山で遭難した息子さんの救助には、お父さんがいかれたそうですね。

お申し込みは、お早い目にお願いいたします。

そちらでは、いま、雨がふっていらっしゃいますか。

格安のお値段でお求めする事ができます。

先生、お母さんが、くれぐれもよろしくと申しておりました。

社長のおっしゃられた通りでございます。

私は、平成産業にお勤めしております。

受付に、横山様と申すお客様が、お見えになられていらっしゃいます。

このように沢山いただいて、およろしいんですか。

 

3.4.課題 

○言葉のあやをつかって、めいっぱいの求愛の表現をかんがえてみよう。つぎに、相手からの求婚を、失礼にならないようにことわってみよう。また、相手への否定的な評価を、社会的な儀礼をまもってつたえるにはどうしたらよいかかんがえてみよう。

○興味をもった新聞記事の内容を、自分が重要とおもう点を強調して、メリハリをつけて口頭でつたえてみよう。

○ユーモアをまじえて、3分間程度で自己紹介をしてみよう。

○ふたり一組で、おこったほうが負けというルールで、たがいにいやみをいいあうゲームをしてみよう。

 

3.5.文献案内

野内良三 1998 レトリック辞典 国書刊行会

 言葉のあやとしてのレトリックにくわえて、説得の言語技術としてのレトリックについても用語解説がなされている。

ジェフリー・N・リーチ 1987  語用論  紀伊國屋書店

 語用論の先駆的な教科書。丁寧さという、社会的なエチケットという観点から、発話内行為、会話の含意、アイロニー、などの語用論的現象を整理している。

橋本良明 1989 背理のコミュニケーション 勁草書房

 アイロニーとメタファーの語用論の諸説を、コンパクトに紹介している。

小泉保 1997 ジョークとレトリックの語用論 大修館書店

 ジョークと種々のレトリック表現について、文例をあげながら、語用論的に分析している。

アブナー・ジッブ 1995 ユーモアの心理学 大修館書店

 ユーモアについて、心理理論、社会的役割、パーソナリティーとの関連と、まんべんなくまとめている。

木村洋二 1983 笑いの社会学 世界思想社

 笑いのデカセクシス理論を提唱している。ここでデカセクシスされるのがのちのソシオン理論における荷重ということになる。議論は、現象の基礎的なモデルの検討から世界観へとつながる。 

川崎洋 1997 かがやく日本語の悪態 草思社

 落語、遊里、芝居・映画・文芸、方言、キャンパス言葉における悪態表現へのオマージュ。

奥山益朗編 1996 罵詈雑言辞典 東京堂書店

 ややふるいところからあつめた罵語の辞典。

蒲谷・川口・坂本 1998 敬語表現 大修館書店  

 敬語表現について、言語学的に手堅くまとめてある。

4.人柄とパフォーマンス

4.1.説得の三側面

 アリストテレスは、言葉による説得の方法を、ロゴスによるもの、エートスによるもの、パトスによるものに三分類している。ロゴスによる説得とは、推論や例証による説得である。エートスによる説得とは、語り手の人柄・品性による説得である。パトスによる説得とは、聴衆の感情・情念にうったえる説得である。ローマの雄弁家キケロは、アリストテレスを三分類をうけついで、弁論家の義務として、論証し、気にいられ、感動させることの三つをあげている。アリストテレスの三分類は、今日でもそのまま通用する。以下、言葉によって聴き手をいかにして説得するのか(言葉によらない方法としては、拷問、脅迫、買収などによるものがある。)、4ではエートスによる場合、5ではパトスによる場合、6ではロゴスによる場合について、おもに解説する。

4.2.どんなひとに好意をもち信頼するか

 おなじ内容のはなしでも、誰がはなすかによって説得力はずいぶんちがう。不快で信頼できない

 

4.3.パフォーマンス

 

4.4.課題  

 

4.5.文献案内

アリストテレス 1992 弁論術 岩波文庫

 説得の言語技術としてのギリシアのレトリックを集大成した古典中の古典。

浅野楢英 1996 論証のレトリック--古代ギリシァの言論の技術--- 講談社現代新書

 アリストテレスの弁論術の解説をしている。

佐藤綾子 1995 自分をどう表現するか--パフォーマンス学入門--   講談社現代新書

 ジェスチュア、表情、距離、声の調子、人柄の印象、などパフォーマンスにかんする知見を上手にまとめている。

ジョン・メイ 1986 プレゼンテーション必勝テクニック プレジデント社

 プレゼンテーションのこつを、多面的かつ、的確にまとめている。

E・ゴフマン 1974 行為と演技--日常生活における自己提示-- 誠信書房

 自己提示と印象操作にかんする社会学・心理学的研究の古典。 

E・T・ホール 1989 かくれた次元 みすず書房

 プロクセミクスを提唱した古典。後にでた本とくらべても、これがもっとも面白い。

エクマン・フリーセン 1994 表情分析入門 誠信書房

 表情の記述システムを作成した著者による本。表情の詳細な分析がなされている。

池田進 1987・1995 人の顔または表情の識別について 上・中 関西大学出版部

 顔と表情の研究が、ふるいところから最近のものまで紹介されている。

アーチャー 1988 ボディーランゲージ解読法 誠信書房

 姿勢としぐさが何を意味するかをわかりやすくまとめている。

 

5.心理的説得

5.1.説得力の武器

 承諾誘導の七つ道具(「影響力の武器」チャルディーニ 誠信書房より)

 

1.知覚的コントラスト

○知覚には対比効果があり、これは認知的評価においてもしょうずる。セールスマン、あるいはより一般的にいって承諾を誘導しようとする人は、商品などの良さや値段の判断における対比効果を上手に利用している。

例 住宅をうるときには高い値のボロ屋をわざとふくめておく。車などをうるときに、付属品を別にして、主製品の契約をまずまとめる。主製品の値段を基準にすると付属品は安いようにかんずるが、最終的には結構な値段になってしまう。

      知覚的コントラストに関連した認知的現象

  ・利得と出費の非対称性(「人間この信じやすきもの」ギロビッチ 新曜社)

   「千円もらうか、1/10の確率で1万円得られる。」どちらをえらぶか。

   「千円だすか、1/10の確率で1万円とられる。」どちらをえらぶか。

  ・認知的前景化と認知的背景化

   「加害はおおきく一気に、恩恵はすこしづつ小出しに」ヒトラーの言葉

    ストックホルム症候群

◇対抗策:承諾を要求されている対象そのものを、ちがう文脈で再度評価する。

 

2.返報性

○受けた恩義をかえすのは人間社会の基本ルールである。このルールをまもらない人は、恩知らず、たかりやなどと呼ばれる。ふつうの人は、そうならないようにふるまう。しかし、返報性を利用して承諾を誘導しようとする人々がいる。

例 ハレー・クリシュナ協会の花配り、試供品提供、無料検査と情報提示、有力議員の小さな恩恵配り、戦場でパンをさしだして敵からみのがされたはなし、海老で鯛を釣る手法(小さな恩義で大きな見返り)、譲歩的要請法(Door-in-the-Face -Technique):最初に大きめの要求をだし、拒絶されたら、より譲歩した要求を提示する。そうすると最初から譲歩した要求をする場合よりも承諾されやすくなる。ただし、交渉相手には、テクニックとしてふっかけてるのではなく誠実に交渉して、交渉の結果として譲歩したと受け取られる必要がある。

◇対抗策:つりあう返報性か。海老には海老程度で。短期的なつきあいのひとには、無理に限定的返報性を期待せずに、よりひろい社会的返報性のなかに位置づける。

 

3.コミットメントと一貫性

○人間は自分の行動とかんがえが首尾一貫していることをもとめる。矛盾を長期的に、意識しつづけることはむつかしい。ここに認知不協和の低減圧力がはたらく。一貫性は社会的適応のうえでのぞましい。矛盾だらけで、支離滅裂な人は社会的に信用されない。しかし、人間は認知不協和を低減するために、容易に認知的錯誤や非現実的な評価をくだしてしまう。承諾の誘導家は、一貫性への圧力につけこむ。

例 「値段が高くて質の悪い製品を買う人はおろかである。自分の買った製品は値段が高い。自分はおろかでなくてほしい。ゆえに、製品は良いものでなくてはこまる。良いに違いない。たしかに良いのだ。」「宗教団体、フラタニティークラブなどの加入儀礼、宗教団体への多額のお布施。」「朝鮮戦争での中国共産党のコミットメントによる洗脳。誘導したい方向で自発的に意見を書かせる。都合のよい部分だけを壁にはる。放送する。つぎに、より、誘導したい方向へ意見を次第にシフトさせる。等々。」「段階的要請法(Foot-in-the-door-Technique):小さな要請からはじめて、最終的には大きな要請への承諾をとりつける。小さな要請には、アンートへの協力、無料説明会への出席、などがあり、そこでコミットメントをまず確保し、そのコミットメントへの一貫性圧力のもとで、最終的な目的とする承諾までもっていく。」「承諾先取り法(Low-ball-Technique)」:まず、実際には可能でない有利な条件を提示し、承諾を先取りする。そして、相手を十分その気にさせる。コミットメントが、提その人のつくった脚によってささえられはじめたころをみはからって、偶然のミスといった調子で条件の間違いを報告する。自分の脚でコミットメントをふかめた相手は、承諾の取り消しがしにくくなっている。」

◇対抗策:なんかへんだという、自分のなかからの声に耳を傾けること。めんつでやせがまんはしない。自分がはいりこんでしまったとか、条件がかわったと感じたら、最初の段階にもどったら自分はどう選択するかをかんがえる。

 

4.社会的証明

○人間の行動や判断は周囲のひとによっていちじるしく影響される。これは適応的な場合もおおいが、無意識に周囲にしたがっていると、時には悲劇、集団的愚行をもたらす。(赤信号みんなでわたって大惨事)承諾の誘導家はこうした人間の自動的行動を利用している。(アッシュの同調実験)

例 テレビの録音笑い、今売れてます、となりの奥さんも買いました、△△さんの意見です、商売でのさくら、宗教団体でのさくら、街で空を見上げる、模倣自殺、

◇対抗策:偽りの証拠に敏感になること、クリティカルシンキング。

 

5.好意

○人間は好意を感じている人間からの要求に承諾する傾向がある。人が一般に好意を感じるのは、身体的に魅力的な人、自分に好意をしめしてくれる人、自分と共通点がある人、なじんだ人、望ましい物との連合がある人、などである。

例 きれいなねえさんやハンサムによる勧誘、上手にお世辞をいう(率直な意見として賞賛しているととられるようにする。第三者から賞賛をきかせる。)、カルト誘導期の賛辞のシャワー、誕生日などに手紙をだし好意を示す、鬼刑事と仏刑事のコンビでおとす(知覚的コントラスト併用)、共通の話題をえらんで会話をする(出身地、趣味、など)、共通の目標での活動の機会をつくる、接触の機会をふやす、望ましい物との連合をはかる、

◇対抗策:要請者に過度の好意をもっていると気づいたら、要請者との関係という状況をはなれて、申し出のメリットとデメリットを冷静に比較考量して、承諾するかの決定をくだす。

 

6.権威

○人間は権威者とかんじられる人のいうことには、無批判にしたがいがちである。(ミルグラムのアイヒマン実験)権威のかんじは、意見の中身ではなく、肩書き、服装、装飾品といったシンボルによって演出される。承諾の誘導家は、権威のかんじを演出し、承諾を誘導する。

例 白衣をきたウソサラ大学のムニャントロ教授推薦、市役所・警察署の方から来た水道保安協会のものですが、

◇対抗策:権威者は発言している領域についての本当の専門家なのか、専門家で意見は一致しているのか、この専門家はどの程度誠実か、などを問う。

 

7.希少性

○人間は、手に入りにくいもの、手に入る機会がすくないものを、もとめる。承諾の誘導家は、こうした人間の傾向を利用する。

例 現品かぎり、数量限定、季節限定、産地限定、レアアイテム、オランダのチューリップバブル、品薄情報と買いだめ、するなというとしたくなる(心理的リアクタンス)、ロミオとジュリエット効果、検閲効果、自由と制約のパラドックス(自由に手にはいらないものに価値がある、いったんあたえられた自由の剥奪への反発のつよさ)、

◇対抗策:希少なものを手にいれたいのは、人間の本能的な反応である。いったんカッとなると冷静な判断はむつかしい。できるだけ興奮をしずめ、なぜほしいのか、どんな利用価値があるのか、この機会はどの程度有利なのか、吟味すること。

 

5.2.宣伝と洗脳

5.4.課題  

5.5.文献案内

プラトニカス・アロンソン 1998 プロパガンダ--広告・政治宣伝のからくりを見抜く--  誠信書房

 社会心理学の観点から、広告や政治宣伝のテクニックが紹介分析されている。

チャルディーニ 1991 影響力の武器--なぜ、人はうごかされるのか--   誠信書房

 対人的説得の社会心理学的研究がてきわよくまとめられている。

キーン・サム 1994 敵の顔―憎悪と戦争の心理学 柏書房

 戦時プロパガンダにおける、ステレオタイプと恐怖にもとづく、敵の像の形成が、興味ふかいポスター資料などとともに紹介されている。

難波功士 1998 太平洋戦争と広告の技術者たち「撃ちてし止まむ」 講談社選書メチエ

 太平洋戦争時における戦時プロパガンダに、広告技術者がどうかかわったかの紹介。

 

6.議論による説得

6.1.議論の構造

6.2.いつわりの論証

6.3.ディベート

6.4.課題  

6.5.文献案内

ゼックミスタ・ジョンソン 1997 クリティカルシンキング入門編・実践編  北大路書房

 人間のあやまりやすさを前提に、ものごとの本当の原因・結果を、おもいこみでなく把握するにはどうしたらよいのか、懇切丁寧に解説してある。

ペレルマン 1980 説得の論理学--新しいレトリック--- 理想社 

 説得の言語技術としてのレトリックの復権をとなえた古典的著作。

中村敦雄 1993 日常言語の論理とレトリック 教育出版センター

 議論の構造のトゥルーミンモデルを紹介している。

フリッチョフ・ハフト 1990 法律家のレトリック 木鐸社

 法廷における弁論術の検討。

岡本明人 1992 授業ディベート入門 明治図書

 授業ディベートの実践的手引き。

日本語学 1995年6月号 特集 ディベート 明治書院

全国教室ディベート連盟 1999 教室ディベートへの挑戦14集 必携ディベート用語集 学事出版

ノルト・ロハティン 1996 現代論理学  オーム社

 記号論理学の教科書にはめずらしく虚偽論に一章がさかれている。

野崎昭弘 1976 詭弁論理学 中央公論新書

 おなじ著者による、「逆説論理学」中央公論新書とあわせてよむといい。知的でおもしろい。

アレックス・C・マイクロス 1983 虚偽論入門  昭和堂

 詭弁的なものから、はぐらかし、人身攻撃までふくめて、虚偽の論証が、92種類列挙されている。