科学研究費補助金 基盤研究(C)
平成29-32年度「アメリカの移民政策をめぐる市民社会と政治の協働」
課題番号 17K03572

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研究概要

連邦議会の機能、 特に長い任期と多様性を含む選挙区を土台として従来から熟議機能を担ってきた連邦上院の意思決定形態が、均質的な選挙区民に短期で責任を果たさなくてはならない下院で見られるような、選挙区民の選好に直結し、数の論理による意思決定を共有する傾向を強めている。個別の選挙政治を超えて議題設定を行うだけの超党派的な枠組みを推進できるアクターが、上下両院ともに不在で、党派対立により議会の意思決定が膠着状態に陥っている。

中でも、議会の意思決定が党派や地域を超えた合意形成に至らない傾向を浮き彫りにするのが移民政策であり、移民問題は、国境を越える人の移動ゆえに連邦議会が責任をもつべき問題であるが、実際に生活する移民は州以下の政府が責任を持つ地域社会の一員である。国境を越え、アメリカ社会の中に住むようになった移民と、そうした移民を歴史的に受け入れてきた地域社会をめぐる政策は、その移動の段階に応じて権限と責任が連邦政府と地方政体に分かれてきた。そうした複数の側面を持つ移民でありながら、連邦政府が一義的に入国の可否の責任を持ってきたことから生じている問題を、建設的な方法で解決する必要性が強く感じられている。

そこで、連邦議会の立法過程に軸足を置きながらも、それと有機的に接合可能な州や地方政体の政治過程や市民社会のアクターの役割までを視野に置いて研究を進めていく。オバマ政権が大統領の行政措置で暫定的解決を試みたDACAの拡大に州政府が反発した経緯は、地方政体を当初から巻き込んで解決策を求めることの必要性を示している。州・地方政体の意思決定と市民社会のアクターを建設的に取り入れた移民政策をめぐる枠組み作りについて、現地での複層的な情報源を用いて分析していく。 

人々の日常生活から離れた場所で決定されるため生じがちな移民政策への不信感も、連邦、地方政体、市民社会という3者の協働の中で対話によって解消する道が可能である。移民政策に市民の視線を組み込みながら分析し直すことで、どのようにゼロサムの利害意識を信頼感へと転換できるかという道筋を探っていく。ここうした成果はアメリカ社会だけに有効な議論ではなく、これまで避け続けてきた移民問題に正面から向き合うべき日本での議論にとっても援用可能な枠組みとなる。

 


研究組織

代表者
  大津留(北川)智恵子(関大大学法学部教授)


補助内定金額(直接経費)

平成29年度   80 万円
平成30年度  100 万円
平成31年度    70 万円
平成32年度   80万円

合 計       330 万円