『給与所得控除の経済効果』

目次

第一章 これまでの税制改革

第二章 給与所得控除の意義

第三章 改革による影響

はじめに

わが国の国民所得に対する所得税の負担の割合は、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス等の先進諸国と比べて、約3分の1程度となっており、国際的に見てもその割合はかなり低いといえる。この原因は課税ベースにある。
ここに、一般的なサラリーマンにとっての課税ベース(課税所得)とは、給与所得から給与所得控除と所得控除を差し引いたものであり、課税ベースが狭いということは、同じ税収なら高い税率が必要となり、高い労働意欲を阻害することになる。したがって課税ベースを拡大すれば、税率の引き下げにより労働意欲を促進することになる。
わが国の狭い課税ベースの原因の一つに給与所得控除がある。給与所得控除はかつては給与所得と他の所得との負担調整などの性格も付与されていたが、抜本的税制改革以降、領収書による実額控除との選択が認められることにより、概算的な経費控除であると解釈できるようになった。
給与所得者の経費の取り扱いについて、アメリカでは給与所得控除の必要経費について、自主申告制度のもとで、概算控除か実額控除の選択を行っているが、概算控除の水準は低い。これに対してわが国の給与所得控除の水準は、平均的なサラリーマンの経費控除としては高すぎる。
わが国は今後、給与所得控除の水準の引き下げを行う必要がある。

先行分析

 税制改革答申(1986)により給与所得控除は「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」とされた。藤田(1992)は給与所得控除の機能を「概算経費控除」「勤労所得に対する税負担の軽減」「所得捕捉率の差異に基づく不公平の是正」とした。
 藤田(1972)は給与所得課税の動向を『国税庁民間給与実態調査結果報告』のデータにより分析した。山下(1995)は給与所得と他の所得(事業所得よ資産所得)の間の水平的公平を実現するためのモデルを示した。林(1996)は『家計調査年報』(94年度)のデータを用いて給与所得者の所得獲得のための経費を計測した。また『税務統計から見た民間給与の実態』(97年度)のデータから所得再分配効果の実証分析を行った。

分析手法

  所得分配の効果を分析するために、先行分析で林の用いた指標を使う。所得分配の不平等度の尺度にタイル尺度を用いて再分配係数を求める手法である。そのためのデータとしては、『税務統計から見た民間給与の実態』(97年度)を用いる。
課税最低限における給与所得控除の廃止や引き下げに伴う効果が、家計やマクロの税収にどのような効果があるのか実証分析を行う。

参考文献

跡田直澄・橋本恭之・前川聡子・吉田有里(1999)「日本の所得課税を振り返る」『フィナ
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金子宏・清水敬次・宮崎直見(1985)「サラリーマン税制と最高裁判決」『ジュリスト』No.837,6月1号,有斐閣.
豊田敬(1987)「税の累進度と所得再分配係数」『経済研究』第38巻第2号,一橋大学経済研究所編集,岩波書店.
橋本恭之(1994)「個人所得税の改革と具体的シミュレーション」『税経通信』Vol.49,No15,税務経理協会.
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林宏昭(2000a)「所得税改革の視点」『総合税制研究』No.8,清文社.
林宏昭(2002)『どう臨む、財政危機下の税制改革』清文社.
藤田晴(1972)『日本税政論』勁草書房.
藤田晴(1992)『所得税の基礎理論』中央経済社.
水野正一(1985)「大島訴訟大法廷判決と給与所得控除−財政学の立場から−」『ジュリスト』No,8376月1号,有斐閣.
本間正明・跡田直澄編(1989)『税制改革の実証分析』東洋経済新報社
宮口定雄(1985)「給与所得控除の意義とその在り方」『税研』Vol.13,日本税務研究センター
山下和久(1995a)「所得課税と水平的公平」『経済研究』第40巻第2号,大阪府立大学経済学部.
山下和久(1995b)「給与所得控除について」『経済研究』第40巻第4号,大阪府立大学経済学部.
Atkinson,A.B(1970)"On the Measurement,"Journal of Economic Theory, Vol2,No.3.

参考資料
 
『税制の抜本的見直しについての答申』税制調査会