相続税法の諸問題

1. 問題提起

現在我が国で問題視されている少子高齢化に伴って、社会保障制度を拡充するため、財源の確保が必要となっている。近年、相続税の改革をすべきという主張も多くみられ、その重要性は高まっているように思える。本論文では相続税を改革するにあたっての現状と問題点を明確にし、今日の経済状況に適した課税方式を見出すとともに、相続税増収を図る。

〜検討課題〜
●税収の確保(相続税増税)
…所得・消費・資産の課税バランスからみても、資産課税は明らかに低比率
●格差問題
 …高齢者世代内での資産格差が次世代へ引き継がれる懸念
   ⇒格差の是正と所得再分配機能の回復が必要
●現行相続税の問題(法定相続分課税方式による遺産取得課税方式)
 @採用当時と現在との経済の移り変わり(1958年〜)
   ⇒今日の経済状況にはそぐわない方式か? 
 A遺産税方式と遺産取得税の折衷方式による不合理の発生
   …法定相続分課税方式⇒遺産取得者の担税力に応じていない
●課税方式の変更(遺産税方式へ)
 @増収の期待…財源確保、所・消・資の課税バランス是正
   ⇒財源調達機能の回復
 A清算課税の考え…老後扶養の社会化、社会保障目的税化も視野に
 B少子化で今や出生数が2人に満たない時代
   ⇒遺産分割の重要性の低下
 C税務執行の容易さ

2. 先行研究
畑(2006)は、相続税・贈与税改革のシミュレーション分析として、現行税制を維持した上で1%一律課税した場合の税収予測を行った。まず、人口構造のデータが必要となるため、総務省統計局『国税調査報告』の1996年版、2001年版の5歳刻みの階級別データを用いて両時点の人口構造を比較し、この5年間の差より1年間の死亡者数と死亡率を算出した。その結果、40歳以上において死亡者数の急激な増加がみられることがわかり、40歳以上を分析対象とした。同じ要領で、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』を用いて、2005年より2050年までの死亡者数を求め、死亡者に家計資産額を乗じて死亡者全体の家計資産額を算出し、そこに遺産税一律1%課税した場合の税収を推計した。その結果、2005年当時でおよそ5000億円、2040年でおよそ1兆2000億円の増収を見込めることを明らかにし、相続税が有効な財源調達手段に適していると提言した。

3. 分析手法
現行の相続税の課税状況を把握し、課税ベースの拡大による相続税の見直しを検討する。課税方式は遺産税方式に移行する方向で検討し、現行税制での税収と遺産税方式へ移行した場合との税収の比較を行う。まず高齢者の資産保有の程度を知る必要があるので、総務省統計局『全国消費実態調査』を用いて現状を把握する。その資産保有の程度に応じて、課税割合も設定し、税収はどれくらい見込めるかを明らかにする。また、畑(2006)が用いた、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』による将来人口の推計手法を踏襲し、2050年までの遺産税方式に移行した上での税収予測を行う。
 

〜論文構成〜
はじめに
1章 相続税の課税状況の実態と問題
2章 判例研究
3章 分析と経済効果
4章 分析を踏まえての展望と提言
おわりに

【参考文献】
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