研究計画書

関西大学大学院経済学研究科

24M3063

松山 春花

【研究テーマ】

消費税の納税方式に関する考察消費税法60条を中心にー

 

【論文構成】

はじめに

第1章 消費税の現状と仕組み

 第1節 納税方式概要

 第2節 納税方式の沿革

 第3節 納税の実態

第2章 判例研究

第3章 インボイス方式導入による益税の推計

 第1節 先行研究

 第2節 VRR指標を用いた分析

 第3節 SNAを用いた益税の推計

 第4節 分析結果からの検証

おわりに

 

【問題意識】

 日本の消費税は帳簿方式でスタートした。中小企業向けの特例措置として、簡易課税制度、免税点制度、限界控除制度などの納税方式が採用されていた。これらの納税方式については本来国庫に入るべき収入の一部が事業者の利となるいわゆる益税などの問題の批判にさらされてきた。それに対応し、これまで免税点制度の適応額が引き上げ、限界控除制度が廃止、簡易課税制度の細分化など、益税縮小の形で改正が行われてきた。消費税の正確な納税にはEUのインボイスが望ましいという意見がこれまでもあった。このような批判の中で、202310月から導入が開始したのがインボイス方式である。適正かつ的確な消費税額を算出するために導入された。複数税率が導入されたことにより、インボイス制度の導入は不可欠であった。

インボイス方式では取引当事者間で税額が明確に意識され、税額転嫁が促進される、免税事業者が益税を得ることを防ぐ、課税庁が各事業者の売上と仕入を正確に把握できる、免税事業者に留まるために課税売上高を過少申告することを防ぐ、といったようなメリットがある。一方で、免税事業者からの仕入れは税額が控除できないため、免税事業者は取引から除外される恐れがある、事業者は売上と仕入れをそれぞれ異なる税率ごとに区分して記帳する必要があるため、事務負担が増加する、といったデメリットもある。

 令和51221日の日経新聞の記事では税収について、免税事業者の税額分をインボイス導入後には事業者自ら納付するか、取引先の課税事業者が負担して納税するため、消費税の税収が確実に増える、と述べている。2)

 

 

【論文の目的】

 インボイス方式導入が妥当であったかを、益税の縮小や事務負担の増加、免税点制度の排除など、メリットとデメリットから考察、評価をする。また、日本の納税方式の変革に沿って益税の推計を行う。

 

【先行研究】

 

鈴木(2009)は、インボイス方式を採用しているEU諸国の現状と課題を分析し、日本がインボイス方式を導入する際に取り入れるべき点について言及している。

 

『産業連関表』を用いた益税額の推計を行っている先行研究は、橋本(2002)、鈴木(2011)、上田・筒井(2013)がある。産業連関表は国内経済において一定期間に行われた財・サービスの産業間取引を示した統計表で、5年ごとに作成される。分析結果より、消費税の改正によって益税額の減少が見られる

 

『国民経済計算年報(SNA)』データを用いた益税額の推計を行っている先行研究には、鈴木(2011)、立石(2010)、福山(2013)がある。SNAデータは1年ごとの情報を利用することができる。産業連関表を用いた分析と同様に、税制改正により益税が減少したという結果が出た。

 

【分析方法】

 インボイス制度導入が税収に与える影響については、付加価値税の税収効率性指標であるVAT Revenue RatioVRR)を用いて分析する予定である。鈴木(2011)、福山(2013)の先行研究と同様にして、SNAデータを用いて、インボイス制度導入後における益税額を推計する。

 

 

【参考文献】

1.        伊藤丈嗣(2009)「課税売上割合が95%以上の場合に生ずる益税問題-消費税率の引き上げを見据えて-」『日税研究賞「入選論文集」』32号 pp.189-214.

2.        上田淳二・筒井忠(2013)「消費税の税収変動要因の分析―産業関連表を用いた需要項目別の税額計算―」『財政研究』第9巻 pp.248-266.

3.        紙博文(2004)「消費税法に関する研究 : 益税を中心として」『経済情報研究』 第2巻11号 pp.61-77.

4.        鈴木薫(2009)『消費税の諸問題とインボイス方式導入に関する一考察-EU付加価値税の動向を探りながら-』第18回租税資料館入選作品 

5.        鈴木善充(2011)「消費税における益税の推計」『会計検査研究』第43巻 pp.45-56.

6.        税制調査会(2023)「わが国税制の現状と課題令和時代の構造変化と税制のあり方」第27回 令和5630

7.        立石雅俊(2010)「GDPより推計した消費税額と納税申告額との乖離―益税を中心として」『自治総研』第36382号 pp.18-51.

8.        日経クロテックス(20231221日)「インボイス導入後の実態「正確さ」より「税収増」か」

9.        橋本恭之(2002)「消費税の益税とその対策」『税研』第2巻18号 pp.48-52.

10.     橋本恭之(2016)『租税政策論』清文社

11.     福山枝里子(2013)『消費税法の諸問題』関西大学大学院修士論文

12.     星野泉(2011)「国際比較から見た消費税-消費税引き上げの留意点-」『自治総研』第37397号 pp.119.