テーマ『固定資産税の経済分析』
目次 

・はじめに
・第一章 土地税制の経済理論
・第二章 固定資産税制の概要
・第三章 固定資産税制の計量分析
・第四章 政策提言
・おわりに

問題意識
近年、地方分権の推進が議論される中、地方団体の自主財源の強化を図る上で固定資産税を今まで以上に自治体の重要な財源であるとの見方が広がってきている。平成14年度のデータによれば固定資産税の全市町村の税収の46%もの割合を占め、市町村の重要な基幹税目である事がうかがえる。政府税制調査会の「平成18年度の税制改正に関する答申」によれば、固定資産税は「どの市町村にも広く存在する固定資産を課税客体としており、税源の偏りも小さく市町村税としてふさわしい基幹税目であり、今後も本税の安定的な確保が重要である」 )と述べている。
このように固定資産税の税収は一般的に普遍性や応益性を満たす望ましい税であると考えられることが多いが、はたして本当に普遍性や応益性を十分に満たす税であるのだろうか。納税者の中には、応益課税でありながら、行政サービスによる受益と税の負担とがリンクしていないのではないかという応益性に対する不信の声もある。もし「地域の公共サービスの受益の対価として、固定資産税を課すべきであるとするならば、行政サービスと固定資産税との間に何らかの関係が見られるはずである。」2 本論文では、近年より一層重要性を増している固定資産税について、その普遍性、応益性について改めて分析、検証を行い、地方分権の時代における望ましい固定資産税制について考察したい。

先行研究
高林(2001)では固定資産税の税収格差がどのような原因により生じているかについて、大阪府下の44の市町村のデータ(市町村税徴収実績調)を分析している。格差を測る尺度としてタイル尺度を用いている。分析結果は固定資産税の地域格差の土地分の格差、特に非住宅用地の地域格差によるものであり、土地の課税標準額のうち住宅用地が2割にしか満たないのは、市町村の基幹税としてあまり望ましくないと指摘している。
下山(2003)では固定資産税の安定性(各自治体の固定資産税の増減率の標準偏差の計測)、普遍性(人口規模別の地域格差についてタイル尺度を用いて分析)、応益性(各地域の行政サービス水準と固定資産税・固定資産評価額の間について回帰分析)、の3つの視点から分析、検証を行なっている。安定性については、特例措置や負担調整措置によって比較的安定的である、普遍性については固定資産税は普遍性があるが、固定資産評価額は地価の変動の影響を大きく受けるので格差が大きい、応益性については固定資産税と行政サービス水準との因果関係はないが行政サービスと固定資産評価額との間には対応関係が確認されたと述べている。
宮崎・佐藤(2005)では日本の現行の固定資産税制が応益原則を満たす課税であるか否かについて『地方財政統計年報』『住宅統計調査』のデータを用いて実証分析を行なっている。分析結果は、現行の固定資産税制は必ずしも応益原則をみたす課税手段ではないが、地方の課税自主権を認めた場合には応益性を確保する税目であると指摘している。
分析手法
 固定資産税の普遍性についてはタイル尺度を用いた分析を行い、応益性については『全国市区の行政比較調査 : 行政革新度・行政サービス度 : データ集』(日本経済新聞社)のデータを用いて、行政サービスの格差と固定資産評価額、固定資産税との因果関係を回帰分析によって検証する。
参考文献

野口悠紀雄(1989)『土地の経済学』日本経済新聞社.
林宏昭(1995)『租税政策の計量分析:家計間・地域間の負担配分』日本評論社.
経済企画庁研究所 (1991)「土地税制の理論的・計量的分析」『経済分析』第126号.
宮崎智規・佐藤(2005)「固定資産税の実証分析」 日本財政学会第62回大会報告論文
地方税財政制度研究協会(1987)『固定資産税の理論と実態』ぎょうせい
大柿・浅田(2004)「建物に対する固定資産税評価の実態」『ニッセイ基礎研究所報』vol35、p128−159
高林喜久生(2001)「固定資産税の地域間格差について―大阪府下市町村データによる分析」『総合
税制研究NO9,p105−117.
青野勝弘(1991)『土地税制の経済分析』頸草書房.
前田高志(1998)「固定資産税の負担調整について」『大阪学院大学経済論集』第12巻2号、p51〜73.
前田高志(2001)「地方基幹税としての固定資産税の改革の方向」『大阪学院大学経済論集』第14巻2号、p150〜178.
下山朗(2003)「全国都市データによる固定資産税の地域間格差の要因分析」『関西学院経済学研究』
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宮本憲一・植田和弘(1994)『日本の土地問題と土地税制』頸草書房.
石弘光(1991)『土地税制改革』東洋経済新報社.
林宏昭(1987)「固定資産税の帰着−居住用資産にかかる負担分析に関する計測−」『関西学院経済学研究』第20巻.
Carroll,R.J.and J.Yinger.(1994)"Is the Property Tax is a Benefit Tax? The case of Rental Housing",National Tax Journal vol47,p295-316.