Think Like Walking

17期生(2016年入学生)による書評(2回生春休みの課題)をここに集めています。書評対象としては、単なる娯楽本ではなく、読み手に多少なりとも「考える」ことを要求するような人文社会系の書物をとりあげています。「読むこと」「考えること」が「歩くこと」と同じような日常的行為として関大経済学部生の間に根づいてくれることを、願ってやみません。

榎本博明『〈自分らしさ〉って何だろう? 自分と向き合う心理学』 by 浅沼良太
今北純一『自分力を高める』 by 石本春樹
永井孝尚 『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』 by 糸永江里
田中研之輔『先生は教えてくれない大学のトリセツ』 by 今井雅隆
小室淑恵『「3人で5人分」の成果を上げる仕事術』 by 上田勇磨
西林克彦 『あなたの勉強法はどこがいけないのか?』 by 大林謙太
中島義道 『「思いやり」という暴力 哲学のない社会をつくるもの』 by 岡野早環
島宗理『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」』 by 勝藤輝大
齋藤孝『コミュニケーション力』 by 河瑞樹
西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』 by 久保天勢
牛窪恵『恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚』 by 黒木雄介
大竹文雄『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』 by 澤田一樹
小林亜津子『はじめて学ぶ生命倫理 「いのち」は誰が決めるのか』 by 関内里織
野矢茂樹編著『子どもの難問 哲学者の先生、教えてください!』中村祐夢
鈴木光司『なぜ勉強するのか?』山崎直紀
斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』 by 山下倫太朗
山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 by 山本菜々子

榎本博明『〈自分らしさ〉って何だろう? 自分と向き合う心理学』
ちくまプリマー新書
2015年6月刊
「自分らしさって何だろう」
そう思ったことはありませんか?
自分を持て!とか周りに合わせるな!など親や先生などに口すっぱく言われてきた人も多いかと思います。
自分らしさっていうのは考えれば考えるほど、自分が何を求めているか、何を欲しているのかわからなくなって来ます。自分というものは、この世で1番身近な存在なのに、いざその姿を捉えようとするとどこか遠い場所に消えて行ってしまう。自分らしさはそう簡単には見つからないものです。
これから就職活動を行っていく学生の誰もが、自分らしい職に就きたいと思うはずです。でも、自分らしさを確立していなかったら元も子もありません。
この本は、そんな自分らしさを見つけるのに苦戦している多くの人にぴったりだと思います。長年、自分らしさを研究してきた著者の経験と自分をめぐる心理学の知見を交えながら、「自分らしさ」をつかむためのヒントを読者に与えてくれます。
この機会に是非、自分らしさを見つけてください。これはチャンスです。
(浅沼良太)

今北純一『自分力を高める』
岩波ジュニア新書
2011年6月刊
本書は、日本の最高学府である東京大学、東京大学大学院卒、財閥系企業在籍という誰もが羨むような成功者の肩書きを持った著者の体験談を述べています。どうすれば海外で通用するのか?グローバル社会で生きるために必要なものは何なのか?なにを頼りに生きていけばいいのか?それらの問いに対する答えが自分力だと述べられています。これは今の時代に生きる若い世代である僕たちに向けたメッセージなのです。
タイトルにもある自分力というのは何を指すでしょう?みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?成績や肩書きでしょうか?お金持ちになることでしょうか?一流大学・企業に入ることでしょうか?一見外から見れば立派ですが、それらは全て社会的ステイタスであって自分力ではありません。著者は社会的ステイタスを抜きにした個人として勝負することが自分力の1つだと述べています。
自分力を身につけ、高めよう。そう思ってはいるものの何をしていいのかわからない。なにかとても大変なことをやらなければならないのではないか。と感じるかもしれませんが実はそんなに難しいことではありません。本書では多くの自分力を高める方法が述べられていますが、1つ紹介したいと思います。それは自分一人の時空間を作ることです。私たち若い世代は恵まれ過ぎた世の中で顔を合わせなくても遠く離れた人と素早く連絡することができます。しかしその反面私たちは機械に支配され、振り回されているのです。携帯電話を例にすると、face to faceのコミュニケーションの重要性が薄れ、メールやLINE、Twitter、facebook等のSNSに支配されています。たしかに今の時代SNSはとても重要ですが、絶対必要なものでしょうか?携帯電話を全く使わない1日を想像してみてください。何ができるでしょうか?自分の趣味に没頭したり、新たな趣味が見つかるかもしれません。今自分の興味はどんなことに向いているのか。あるいはどんなことに自信をなくしているのか。そのようなことをじっくりと考えられるのも一人で自分と向き合っている時です。
他にも自分と向き合うことだけでなく、たくさんの自分力を高める方法が本書には述べられています。著者の試行錯誤の記録が本書を読む私たちの自分力を高める最大のヒントになると思います。自分を見つめ直しブレイクスルーする事で新たな自分が発見できます。今からでも遅くありません。自分力を身につけてみませんか?
(石本春樹)

永井孝尚 『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』
SB新書
2016年10月刊
皆さんの中で「マーケティング」と聞いて、難しいと思う人は多いと思います。マーケティングの勉強を始めると言っても、なにから始めていいのか分からない人がほとんどだと思います。そんな人にオススメなのがこの本です。身近な8つの事例でマーケティングが学べます。その中の2つを紹介したいと思います。
1つ目は、かつては人々がほしがっていた価値がいつの間にか当たり前になって、その価値が失われることをマーケティング用語では「コモディティ化する」といいます。ネットでよく言われる「オワコン」と言うやつです。しかし、こんなことを言われてもさっぱりだと思います。本書の中では、この例として腕時計があげられています。かつては時間を知るために腕時計が必要でしたが、今ではスマホの普及により、腕時計がなくても時間を知ることが出来ます。つまり、時間を知るという役割に価値がなくなったため、腕時計が売れなくなったというわけです。これが「コモディティ化」です。
2つ目は、主役がお客さんではなく商品になっている開発を「プロダクトアウト」といいます。本来であれば「お客さんのニーズを満たす」ことが目的であり、「商品開発」はその手段です。しかしその「商品開発」が目的になってしまっている状態が、プロダクトアウトになります。よく言う「手段の目的化」です。何かの商品に対して、「こんなに機能あっても使わない」って思ったことありませんか?もしくは、「ここまでしなくていいからもっと安くしてほしい」など。商品中心の開発は失敗します。大事なことは、商品を使うお客さんが何に価値を置いているかを見抜き、そのニーズを満たすことです。もしくはお客さんですら気づいていない潜在ニーズを見抜き、それを満たす商品を作ることです。ちなみに、このプロダクトアウトに陥らない方法として紹介されていた魔法の言葉も本書の中では紹介されています。
このように、マーケティングには興味がなかった私でさえ、とても理解しやすかったです。売る側で考えるのではなく、買う側になって考えるのことでマーケティングの最大の競争力になると筆者は言っています。売る側にならなくても知っていたら面白いことがたくさんつまっています。きっと明日からあなたの買い方、売り方が変わるはずです。
(糸永江里)

田中研之輔『先生は教えてくれない大学のトリセツ』
ちくまプリマー新書
2017年4月刊
本書は現在法政大学で教授をされている筆者が書いているものなので現在の大学で何が起こっているのか、また大学生がどういう風に大学生活を過ごすべきなのかということについてリアルに書かれている。大学生活を過ごす中で本当に今のままで卒業してしまっても良いのか不安に思う現役の大学生やこの春から大学生になる現役高校生、もしくは教育関係の方にもぜひ手にとって読んでいただきたい。実際に私は単位数的には卒業可能なのだが今のまま卒業してしまって良いのか不安で何かのきっかけになればという思いでこの本を手にした。正直大学生活が半分過ぎてしまったのであまり期待はしていなかったがこの時期に読んでもこの本から得られたことがたくさんあった。プロローグから「年間430万をむだにしない」と学生の不安を煽るようなフレーズでかかれておりそのためには何をするべきなのか筆者の考えや今まで接してきた学生の考えを中心に書かれている。
大学生になると高校生までと大きく異なる点は受動的でなく能動的に動くことが重要視される。授業も教授から教えてもらうのでなく、自らで質問を作り、この授業では何を伝えたいのかを自ら考えることが大切である。全ての授業が学生にとって関心のある授業であることは少なく90分間の授業を受けるのは学生にとっても苦痛であると思うが、話を聞いて重要なことを抑え、自分で質問を考えることは社会に出ると求められるスキルになってくるので向上心を持って授業に臨むことの重要性が書かれている。本書では質問を作る上でのコツや質問能力の磨き方も書かれており、社会に出るまでに必要なスキルを向上させるきっかけになるだろう。
社会に出るまでに必要なスキルとしてアルバイト経験の大切さを本書では説いている。しかし本書ではアルバイトのみでなく実際就職する企業とのギャップを埋めるために学生が長期インターンシップに取り組むこともすすめている。本書では教授が実際に教えていた学生が経験した意見が述べられているので、インターンを経験することでどのように成長できるのかを知ることができる。私も本書を読みインターンへの参加意欲が湧いたので挑戦してみたいと思った。
人生の夏休みとも言われる大学生活の間思いっきり遊ぶことも大切であるがふと自分の将来について考える時本書に書いてあることがあなたの成長意欲を刺激し、正しい方向へ導いてくれる手助けになるだろう。
(今井雅隆)

小室淑恵『「3人で5人分」の成果を上げる仕事術』
日経ビジネス人文庫
2015年3月刊
現代の日本の企業では多くの残業代未払いなどの問題が発生しています。会社の残業や、無駄な人件費をなくして効率よく利益を得たい経営者の方には是非この本を読んでもらいたい。
日本の企業は人口ボーナス期から人口オーナス期による少子高齢化に伴い人手不足に陥っています。人は増えないのに仕事は増えるばかり…限られた人数で多くの仕事をこなさなければならない、多くの企業はこの問題を残業によって賄っているのが現状です。やみくもに残業したからといって人の生産性は下がるばかりです。この問題に対する対処法、つまり人手不足をチャンスに変える働き方がこの本で紹介されています。
他にも、朝メールによって仕事内容をチームで共有、夜メールで報告。つまり仕事を会社全体で共有し、個人とチームで成果を上げる仕事術なども紹介されています。
また部下を育てる大切さや成果を正しく定義する必要性なども紹介されています。
費用対効果についても紹介されていますが、経営者である以上、費用を抑えて利益を上げたいと考えるのは当然の事でしょう。
この本は現在問題になっている残業による個人の生産性の低下などのように、個人としても組織としても時間を意識して生産性を上げるべきという視点で書かれており、非常に独特で説得力があります。仕事の生産性を高めたい、効率よく仕事をしたいという方、今の仕事に行き詰まりを感じているという方、是非この機会に自分の仕事に対する視点を見つめなおすためにも一度読んでみてはどうでしょうか。
(上田勇磨)

西林克彦 『あなたの勉強法はどこがいけないのか?』
ちくまプリマー新書
2009年3月
皆さん、私たち学生であれば一度は勉強法に悩んだことがあるのではないでしょうか?大学生である現在であれば、どのように勉強すれば効率よく単位をとれるだろうかと考えているだろうと思います。
では、いつから勉強法について悩み出すのでしょうか。私は高校生になった頃から勉強法について悩みだしました。中学生までであれば、理科や社会ましてや英語などもほぼ丸暗記で出来ていたと感じています。しかし、皆さんも経験があるかと思いますが高校になると一気に単元ごとの内容が深くなり、丸暗記をするのが難しくなります。そうして、高校時代になって私たちは何かいい勉強法はないのかと模索するようになります。私の場合はそこで問題をたくさん解いて量をこなすという結果に至りました。私は今でも大学のテスト勉強では、過去問を解いたり、ひたすら書いてまとめて覚えたり量でカバーしています。ですが、正直このやり方は効率が良いとは自分でも思っていません。もし、今より良い勉強法があるなら皆さんこれからの学生生活、そして長い人生のために知っておきたいですよね?
本書は上記で挙げた、誰しもが一度は感じたことのある勉強法の悩みについて、正しい模範解答のような勉強法を提示してくれています。そして、私たちの勉強法のどこがいけないのかを簡単な例をあげて示してくれています。例えば一つ例を挙げるとすると、丸暗記が良くない勉強法としてあげられます。大勢の人が一度はしたことがあると思われる赤下敷きで隠して覚える作業などです。これは誤った勉強法の一つで、機械的暗記は楽でないとともに、皆さんも感じたことがあると思いますが、すぐに記憶から失われやすいです。
では、機械的勉強をどうすれば覚えやすい良い勉強法に変えられるのでしょうか?本書では機械的勉強法より、事柄同士を関連付けることで記憶しやすくする精緻化といった勉強法を推奨している。例えば、「眠い男が水差しを持っていた」などと意味の分からない文章を暗記するとすぐ忘れてしまうと思います。しかし、これを自分で文章にして意味を持つ文章にすると、不思議と忘れにくくなります。これは、ほんの一部分にすぎないが、本書にはたくさんの勉強法のノウハウが詰められています。ぜひ本書を読んでみてください!
(大林謙太)

中島義道 『「思いやり」という暴力 哲学のない社会をつくるもの』
PHP文庫
2016年2月
他人を思いやっているつもりでしていることが、実はエゴなのだと言われたらあなたはどうしますか?他人を思いやることが最も重視される現代社会。しかし、現代において「他人を思いやる」ことはどう言ったことを指しているのでしょうか。それは「本当のことを言わない」ことです。
例えば講義中の教室で、「うるさくて先生の言葉が聞こえません。」私語の洪水の中でこう発言できる人間はいったいどれだけいるのでしょうか。つまらない話にもじっと耐えている者、私語の嵐を気にもせずえんえんと発表する者。彼らは自分の権利が侵害されているのに声をあげることが出来ない被害者であると同時に、その弱さが転じて現状を容認してしまう加害者にもなるのです。
全ての人が全体を考慮し、他者との摩擦のない、和やかな空気を望む社会。そんな中で誰もが、空気を読み当たり障りのないように日々をやり過ごそうとしているのではないでしょうか。つまりわれわれはあくまでお互いに、理解したふり、通じ合っているふりをしているに過ぎないのです。そしてこの淀んだ和やかな空気の中で人は自分と他者との些細な言い争いや対立を拒否してしまいます。それが人と人との「対話」をなくしてしまうのです。
では人と本当の意味で「対話」をするためにはなにが必要なのでしょうか。それは、「優しさ」や「思いやり」という言葉を盾に言葉を呑み込み対立を避けるのではなく、言葉を尽くして相手と対立し、対立から新しい発展を求めていくことです。あなたも本書を読んで本当の「優しさ」や「思いやり」とは何なのか、そして言葉の重みについて今一度考えてみませんか?
(岡野早環)

島宗理『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」』
光文社新書
2010年8月
皆さんは約束の時間に遅れたことはありますか?たいていの人は約束の時間に遅れてしまった経験があるのではないでしょうか。「あの時もう少し早く起きていれば間に合っていたかもしれない…」、「あの時もう少し急いでいたら…」など遅れてから後悔したり反省したことがあるかと思います。では、なぜ遅れてしまうのか。この本では、私たちの日常や誰でも経験する事象を用いて「なぜそのように行動するのか」「なぜそのように行動できないのか」を『行動分析学』という心理学に基づいた『視考術』を用いて考察しています。
約束の時間に遅れた原因を自分の性格や人格のせいであると考えると、自己嫌悪に陥り、イライラしストレスを感じます。そう考えるのではなく、約束の時間に遅れる原因を行動と環境のせいであると捉えれば、変更可能な要因が見つかったり、自分や他者がなぜ遅れるのかを理解し、改善の可能性を高めることができます。
A型は几帳面、B型は自己中心的、O型はおおざっぱ、AB型は変わり者などとあなたは耳にしたことはないだろうか。これらの中で、B型は悪い印象を受けやすい。場の雰囲気に関わらず、自己中心的な言動をしてしまうのは、自分の希望が叶ったり、他者の表情の変化に気付く能力が低いのが原因なのかもしれない。B型だから自己中心的と考えるのは、アメリカは自由と考えるのと同じではないだろうか。アメリカは自由の国と言われていますが、もちろんすべてが自由なわけではない。頭の中でイメージが作成され、それらを信じ込んでしまっているが、それが事実であるかどうかは別問題である。
心に責任を追い求めすぎると、自分や他者の心を責めることになってしまう危険性がある。心に責任を追い求めるのではなく、行動とその先行事象と後続事象をできるだけ具体的に考えていただきたい。視考術を使って見えない心を視える化することで、心を責めずに納得できたり、行動を変えてみようと思えるかもしれない。皆さんには視考術を用いて、自分の弱点を見つけ出し、克服へと繋げていただきたいのです。
(勝藤輝大)

齋藤孝『コミュニケーション力』
岩波新書
2004年10月刊
私たちの生活において、最も大切なものとはなんだろうか。金か愛か友情か、はたまた自由か。どれか1つを選ぶことは、かなり難しいであろう。人によって大切なものは様々だが、ある共通点が存在する。どれも「相手とのコミュニケーション」で手に入れる、という点である。話が上手な人に自然と人は集まり、友ができる。自分をうまくアピールし、相手の相談にも上手に乗れる人であれば、恋人なんて簡単に作れるだろう。優秀な営業マンであれば、1日で大金を稼ぐことだって可能だ。生活は、自分のアピールと他人への傾聴で成り立っている。では、コミュニケーションとは何者なのだろうか。
コミュニケーションは、よくキャッチボールで比喩されるように上手い人、下手な人が存在する。流暢に話すことはコミュニケーション能力に長けていると言えるのか、聞き上手でいることがコミュニケーション能力に長けていると判断されるのだろうか。どちらもNOである。
近年、入社試験でグループディスカッションを取り入れる企業が増えている。それはなぜか。個人面接ではコミュニケーション能力を測ることが難しくなっているからである。面接で流暢に話せていたのに、入社後の会議では、コミュニケーションが取れないような人だった。なんてことも多くなってきているという。だから即席のグループでも率先して自分からコミュニケーションが取れる人材を見抜く方法として用いられ始めている。
この本では、コミュニケーションの正体と正しいコミュニケーションの取り方とは、上手なコミュニケーションが取れるようにするためのポイントなどが細やかに書かれている。自分のコミュニケーション力に自信がある人ない人に関わらず『タメ』になる一冊である。一度手にとってみてほしい。
(河瑞樹)

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』
角川文庫
2011年6月刊
突然ですが、あなたはお金を大切にしていますか?アルバイトなどで稼いだお金を無駄に扱っていませんか?お金というものは私たちの生活では欠かすことができません。しかし「お金よりも大事なものがある」や、「お金では買えないものがある」などといわれています。本書では漫画家である西原理恵子さんがお金にまつわる自らの経験をもとに働いてお金を稼ぐことで自由を手に入れることができ、お金があることで守ることのできる存在があり、この世でいちばん大事なものがお金であるということが語られた1冊です。
高知で生まれた作者はお金がないことにより家族が崩壊し、高校を退学になり、父親が自殺するなど壮絶な暮らしを経験します。その後イラストレーターを夢見る作者は高知から上京し、美大合格を目指し予備校に通うことになりますが、予備校での成績はいつも最下位でした。しかし絵を描くことを仕事にしてお金を稼げるようになりたいと考えていた作者は出版社に自らの絵の売り込みを始めました。それから自分のやり方で徐々に仕事を見つけていき絵を描くことでお金をもらえるようになります。やがて、漫画家になった作者はギャンブル依存や外国為替証拠金取引(FX)に手を出すなど、またお金に翻弄され人生を狂わされていくのです。
もしあなたが貧困な家庭に生まれていた場合どうやって生きていましたか?私は作者のようにたくましく生きることはできなかったでしょう。作者は幼いころからお金を得る厳しさを身に着けていたため、逆境から這い上がりこのような波乱万丈な人生を乗り越えることができました。本書を読むことで「お金」の大切さと「働く」ということについて深く考えることになるでしょう。そして自分がいかに恵まれた環境で生活できているかを感じてください。働くことでお金を得るようになった10代後半から是非読んでほしい1冊です。
(久保天勢)

牛窪恵『恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚』
ディスカヴァー携書
2015年9月刊
皆さんは彼氏または彼女がいますか?結婚についてどうお考えですか?現在、交際経験がない20代は、女性で約7割強、男性では8割弱にも及びます。結婚も晩婚化、未婚化が急速に進み恋愛しない若者たちが増えています。本書を読めば、なぜこういった状態になったのか、今の若者たちの間に何が起こっているのかを読み解いていくことができるでしょう。
本書は、恋愛しなくなった若者のことについて書かれてあります。「いつかは結婚したい。でも恋愛は面倒。」「夫はいらない、欲しいのは子どもだけ」「恋愛はコスパに合わない」「恋愛にはリスクがいっぱい」「パパやママといるほうが楽しい」「恋愛なんていらない。他に楽しいことがあるから。」これらは本書に書かれてあった若者達の言葉です。バブル期には6〜7割の男女に恋人がいたわけだが、前段にも書いた通り、現在はその逆になっています。しかし、9割もの男女がいつか結婚したいと思っています。ではなぜ恋愛しないのでしょうか。その理由としては、恋愛ゲームで疑似恋愛が楽しめたり、アダルトサイトで性欲を満たされたりと、【超情報化社会による恋愛阻害】、社会的変化により増えた草食系男子、7人に1人はいると言われているセフレの存在などの影響で起こる【男女平等社会と男女不平等恋愛のギャップとジレンマによる恋愛阻害】、親が子を愛するあまりに出てきた【超親ラブ族と親による恋愛意欲の封じ込め】、デートDVやもしできちゃったらと思う【恋愛リスクの露呈と若者のリスク回避】、低収入とは恋愛したくない、この人との恋愛は身の丈ではないということから起こった【バブル崩壊と長引く不況が招いた恋愛格差社会】などがあげられています。皆さんの中にも同じだとか、分かると思った方はいるのではないでしょうか。そう思った方は少なくとも、恋愛しない若者の中の一人かもしれません。
恋愛、結婚は、昔の日本からしたら絶対に必要なもの、「必需品」でした。しかし今の日本は、趣味などと一緒のもの「嗜好品」になっています。本書は識者や若者への徹底取材、徹底した定量調査などを行い、恋愛の実態と傾向から非恋愛時代の新しい結婚の形を探っています。これを読み終えたころ、自分の恋愛の形、これからどうしていけばいいのかなど様々なこと思い、少しでも前向きに恋愛のことについて考えているのではないでしょうか。
(黒木雄介)

大竹文雄『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』
中公新書
2017年8月刊
皆さんは、「競争」という言葉にどのようなイメージを持っていますか?「弱肉強食」や「格差」などの否定的なイメージを持つ人も多いと思います。また私たちは、受験や就活などで「競争」というものを実感すると思います。その中で、苦労する人も多くいるでしょう。では、このような「競争」はない方がいいのでしょうか?
運動会の徒競走で順位をつけないまたは、全員一緒にゴールさせる小学校があります。これは、「競争」よりも「協力」を重視した反競争的教育の極端な例である。皆さんは、このような教育を受けた子供は協力的な人間に育つと思いますか?普通に考えれば、育つと思うでしょう。しかしこのような教育を受けた子供は、意図した結果とは全く逆の協力に否定的な人間になる傾向が高いという。
本書では、このようなこと以外にも実際の社会問題を行動経済学や多くの実験・研究の結果を元に説明しています。また、「経済学は文系か理系か」などといった疑問にも、わかりやすく答えてくれています。
本書のタイトルを見て、「自分の強みを見つけるためにはどうしたらいいのか」ということが書かれている自己啓発本の様な本だろうと思った人も多いと思います。しかし、ここまでの私の話によって、「タイトルを見て期待していた内容と違う」と思うことでしょう。その気持ちはよく分かります。なぜなら、私も読んでいる途中で思ったからです。しかし、残念とは思いませんでした。寧ろ、期待していた内容以上のもの得られたと感じました。確かに、自分の強みを見つける方法などが明確に記されてはいないが、ヒントは各所に散りばめられていました。そのヒントを得られるだけでなく、現在の社会問題の原因や経済学の知識なども理解できるようになる。
本書を読んで得られるものは多い。社会の状況、心理学、行動経済学など多くのことが分かります。その中で、競争社会を生き抜くヒントも得られ、「競争」に対するイメージも変わるでしょう。本書を読む意味は「自分の強みを見つけるにはどうすればいいのか」ということではなく、「自分の強みを見つける前に、社会や人について知る」ということだと思います。
(澤田一樹)

小林亜津子『はじめて学ぶ生命倫理 「いのち」は誰が決めるのか』
ちくまプリマー新書
2011年10月刊
全ての「いのち」には必ず「始まり」と「終わり」がある。それは、誰もが知っている事実です。人間の「いのち」も例外ではありません。医療技術が発展し、不治の病と言われていた病気のいくつかも治せるようになりました。平均寿命も昔に比べるとずいぶん延びました。それでも、「死」という「終わり」だけは変えることはできません。
この本のタイトルは『はじめて学ぶ生命倫理 「いのち」は誰が決めるのか』。生命倫理は、名前通り、生命に関する倫理的問題を扱います。タイトルとこの説明だけでは、教科書みたいな内容なんじゃないか、と身構えてしまいますが、全くそんなことはありません。この本は、何かを「教える」ための教科書として書かれたものではなく、読者の方に自分の頭を使って、のびのびと自由な発想で「いのちの決定」について考えてもらうための「場」の提供を目的としています。そのため、専門用語の羅列、なんてことはありません。
代わりに、この本には、「いのち」についての問いかけが用意されています。例えば、認知症の人が治療を拒否した場合、その人の判断能力は誰が決めるのか、といったような問題です。認知症という病名はニュースなどでよく耳にする言葉ですし、この問題も、専門知識などがなくても、意見は言えそうです。ただ、完璧な答えを出そうとするのであれば、非常に難しいと思います。本人の意見を尊重することは大事です。しかしこの人は認知症だから正常な判断が出来ないと言えるのでしょうか。だからといって家族や医者が意見を無視して望まない治療をしてもいいのでしょうか。この問題は、「いのち」に関わる場合だと、さらに難しくなります。そして、何かしらの決定をする必要があります。この問いはあくまでもほんの一例にすぎません。もっと答えを出すのが難しい「いのち」の問題も世の中にはたくさんあることでしょう。
倫理問題の本当に正しい回答は誰にも分かりません。ですが、「何が正しいのか」という「正しさの探求」は必要です。生命倫理という分野も同じです。私たち自身が「いのちの決定」の当事者になる日も来るかもしれません。もしあなたが「いのち」について関心を持っているなら、この本を「いのち」について考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
(関内里織)

野矢茂樹編著『子どもの難問 哲学者の先生、教えてください!』
中央公論新社
2013年11月刊
想像してください。今あなたは幼稚園児をもつ親だとします。そんな子どもから「死んだらどうなるの?」、「勉強しなくちゃいけないの?」、「なぜ生きているの?」、「神様っているのかなぁ?」、「どうすればほかの人と分かり合えるのだろう?」・・・、といった質問が来たらあなたは答えることができますか? きっと答えるのに苦労するのではないでしょうか。本書はそんな素朴だけど答えるのに苦労する難問の数々の答え方を提案します。
総勢23人の哲学者が、上のような子どもが抱く素朴だけど答えるのが難しい22個もの質問に回答しています。本書の最も優れているところは1つの質問に対して2人の哲学者が回答しているところです。正しい答えが存在しない質問ばかりなので、似たような回答がでたり、全く異なる回答が出たり、はたまた答えになっていないような回答があったりと様々です。また書き方も哲学者によって異なります。ページ数にして3ページ、文字数にして約1400字と限られた文字数の中で子どもに向けて簡単な言葉でわかりやすく書く人、逆に読者層を無視して自分の言葉で哲学者らしく書く人、など回答者の個性が楽しめます。2者の回答を比較したり、自分の考えと比較してみたり、回答に優劣をつけてみたり。そうすることで自分の世界観を見つめるきっかけにもなります。
本書はタイトル通り、子どもの疑問に対して哲学者が回答するという体裁をとっているため、子どもたちにはもちろん読んでほしい。しかし、内容を、意味を本当に理解し味わうなら、様々なことを経験し成長して大人になったあなたにも読んでほしいと思います。大人になったからこそ感じることがあると思うから。子どもの気持ちになってもう一度難問を考えてみませんか? 
(中村祐夢)

鈴木光司『なぜ勉強するのか?』
SB新書
2016年12月刊
 「何で勉強しなきゃいけないの?」ふとそう思ったことはありませんか?いや、人間誰しも学校の授業を受けていると1度はそんなふうに思ったことがあるはずです。「学校の勉強なんて社会に出ても何の役にも立たない」と言う大人もいます。果たして本当に役立つ知識とは何なのでしょうか?どんな知識が社会に出て役立つのか?実は、学校で本当に学ぶべきことは知識それ自体ではないのです。ここでは特別に、「勉強とは何か?」「勉強は何の役に立つのか?」この2つにお答えしていきましょう。
まず、「勉強とは何か?」について話していきましょう。学校での勉強はある3つの大切な能力を磨いていく訓練なのです。その大切な能力とは、「理解力」「想像力」「表現力」の3つを指します。例えば、数学では教科書の内容を理解し、出題された問題の解法を考え、数式を用いて解法を表現する。この一連の作業の訓練が勉強なのです。高校生の頃に「微積分なんて社会に出て役立つわけがない」そう思っている人もたくさんいたかもしれません。しかし、一見役に立たないように見えても、実はこの3つの大切な能力を磨いていく訓練をしていたわけなのです。
では、この3つの力が何の役に立つのか?言い換えると、「勉強は何の役に立つのか?」ということになります。それは生きる力に繋がるのです。生きる力とは何か?それは、自分の意見や考え方をもって情報と接していける力です。これは、リテラシー能力とも言います。今のあなたは、インターネット上に無数に存在する情報に支配されていませんか?インターネットの普及によって膨大な量の情報が垂れ流しになっている現代にこそ、リテラシー能力は最も必要とされる力の1つなのです。膨大な量の情報から、その情報の信憑性を自分で判断できる力が養えば、謝った判断を下すシチュエーションが自ずと減っていきます。
さて、「勉強とは何か?」「勉強は何の役に立つのか?」の2点についてお答えしていったわけですが、「なぜ勉強するのか?」という答えには辿り着きましたか?ここで紹介したことは、この本に書かれていることのほんの数ページに過ぎません。「理解力」「想像力」「表現力」の3つ力を向上させ、リテラシー能力を上げること、それが勉強です。これを前提にもっと深く考えてみませんか?「なぜ勉強するのか?」それはね・・・
(山崎直紀)

斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』
ちくまプリマー新書
2016年7月刊
皆さんは選挙に行っていますか?日本の20代の、平均投票率は32.5%なので、多くの人は選挙に行っていないのではないでしょうか。しかし、この本書を読むことで、どのようにすれば選挙に興味を持ち、投票を行うようになるかヒントを与えてくれるそんな本書です。そんな政治に興味のない人は、この本書を読むことをお勧めします。
この本書では政治に参加する上の第一歩は、ひいきのチームを持つことだ、とはっきり述べてあります。ではなぜ、それまでにひいきのチームを持つことが重要なのでしょうか。その理由は本書の中でしっかりと書かれています。
その理由は人には「ひいきのチーム」がないとやる気がでないからです。選挙とは極端に言えば「ひいきのチーム」や「ひいきの候補者に」一票を投じる行為なのです。しかし選挙に行かない若者達には「ひいきのチーム」がなく「ひいきの候補者」もいないのです。だから選挙に関心を持てと言っても、無駄な話であり、そんな中、投票に行っても聞いたことのある党に適当に投票し、政治なんて誰がやっても同じではないかと思うだけなのです。この書評を読んでいる人にも、同じように考えている人が、いるのではないでしょうか?
では最後になぜ「ひいきのチーム」がない人が多いのでしょうか?その理由もこの本書に書いてあります。なぜかというと、日本の義務教育では、社会科で政治の仕組みを習うが「ひいきのチームを持ちなさい」とは教えないからです。それは悪い事では無いのですが。政治に興味を持つようにはなりません。
ここまで読むと、選挙に行くには「ひいきのチーム」を持つことが、重要である事がわかったのではないでしょうか?この本書はそんな「ひいきのチーム」を持たない人達に「ひいきのチーム」を持つ、きっかけやヒントをくれるのではないでしょうか?
( 山下倫太朗)

山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
2006年12月刊
あなたは人に話が通じなかった、うまく話を伝えることができなかったという経験をしたことがありますか。私は、一生懸命話しているのになかなか理解してもらえない、伝えたかった内容とは違った内容で伝わってしまい誤解されてしまったという経験が何度もあります。それを解消し、さらに良い印象で伝えるための方法をこの一冊から学ぶことができます。
本書は、伝えたいことを伝えるために話が通じるための基礎を再認識するところから始まります。その中で、筆者が重要視しているのがメディア力を高めることです。何かを伝える時、伝える内容の方に一生懸命になりがちですが、内容だけが大事ではありません。聞く方はあなたというメディア全体が放っているものと、発言内容の足し算で聞いています。ある程度の仕事はこなすが、ゼミ生のことは考えていない中澤先生がこの課題を全力で取り組んでほしいと言っても説得力がありません。しかし、何事にも一生懸命で隙間時間にも仕事をしている中澤先生がこの課題を全力で取り組んでほしいといえば、みんな本気を出すでしょう。
SNSが普及し、誰でも気軽にメッセージを送れる便利な時代になったからこそ、誤解も生まれやすくなっています。様々な情報が行き交う中で、わかってもらえないと思う時、落ち込んだり、相手を恨んだりする前に、自問してみましょう。わかってもらうために、自分はどんなことをしてきたか。自分は人のことを分かろうとしているのか。「伝えなきゃ、伝わらない」この当たり前のことを当たり前にできると自然に話が通じるようになります。あなたも伝える達人になってみませんか?
(山本菜々子)

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