高等教育研究会 Feb.20,1997

『大学を学ぶ』で学ぶ
ユーザーの立場から
長谷川伸(関西大学)
  1. はじめに
    1. 私について
      1. 事実上大学教員1年目。この1年は馬車馬のように闇雲に働き,気負いすぎて空回り気味。
      2. 教育におけるモットー「学生と真のコミュニケーションをはかるためにできる限り情報を公開する(openness and interactivity)」「長谷川ならでは・今しかできない授業を」
    2. 関西大学商学部における基礎演習 -->「講義概要」
      1. 1回生必修。96年度は21クラス開講(1クラス44名程度)。
    3. 私が担当した基礎演習 -->「基礎演習についてのメモ」
  2. 教材として『大学を学ぶ』を採用した経緯
    1. 「大学とはどういうところか」「大学で学ぶとは何か」を大学生活の最初に掴ませる必要性の認識。
      1. 学生たちは課題を与えられることを望む指示待ち型・自分の頭で考えられない(指示されている作業の意味を考えたり,敷衍して考えることができない)。
      2. 「大学は自由で,本当の学問ができ,自分のやりたいことができる」といった漠然としたイメージに留まっている。
    2. 「大学とはどういうところか」「大学で学ぶとは何か」を基礎演習で教えるヒントと手段を探している際に『大学を学ぶ』との出会い。
      1. こうしたテーマを扱った文献は多くある。だが,学生の気持ちに寄り添って,大学あるいは大学教師が抱えるマイナス面も含めての現状とあるべき姿をオープンに,率直に語りかけるものはなかったのでは(学生と真剣に対話しようとする姿勢が感じられる)。
      2. これを夏休みに読んでもらうのが一番良いと考えた。価格も手頃で,学生一人一人が持っていてもおかしくない本。いわば大学生活の初心としてほしいと考えたため,手元に残るように学生に買ってレポートを書くように指示した。
  3. 『大学を学ぶ』を夏期レポート課題にするにあたっての工夫点
    1. -->「夏休みのレポート課題」
    2. 学生の読書欲・購買欲を刺激することを目的に,レポート課題発表の際に抜粋プリントを配った。
    3. しっかり学生に読んでもらうことを目的に,章毎に考えさせられた文章や疑問に思った文章を引用させ,それぞれについてコメントを付けさせた。
    4. 学生と著者との交流と著者への情報提供を目的に,学生の承諾が得られたレポートを高等教育研究会に送付し,寄せられた返事については学生に返した。
    5. これまでの自らの大学生活と照らし合わせ,振り返りながら読んでいることを考えると,この課題を1回生の夏期休暇に出すというタイミングは結果として良かった。
  4. 『大学を学ぶ』レポート以前と以後の学生の意識の変化
    1. レポート以前(前期に実施した「理想と現実」レポートから)
      1. 漠然とはしているが,大学は高校と違うところ,「大学は自由で,本当の学問ができ,自分のやりたいことができる」というイメージはほとんどの学生が抱いている。
      2. 多くの学生が「学び」を正しく理解していない。<大学での「学び」=授業>と捉えている。
        1. そのために,「大学は学ぶ空間(本当の学問ができる空間)だが,自分は楽しく遊んでばかりいる。これでいいんだろうか」という戸惑いがある。
        2. 一方でこの認識は,授業がつまらないと,学ぶこと自体をつまらなく思えさせている(皮肉にもつまらない授業が学びとは何かを考え始める機会になっている)。
      3. 主に授業の出席をめぐって,大学における自由と自己責任を実感し始めている。
    2. レポート以後
      1. 「大学」という場に対する理解が進んでいる。
      2. 「学び」に対する理解が進んでいる。
      3. 「自由と責任」のはっきりとした自覚。大学は高校までとは全く違う「学びの世界」であるという認識がより鮮明化。
  5. レポートに見る学生像―「学び」をめぐる学生たちの戸惑いと不安・焦り・期待
    1. 「学びとは何か」「なぜ学ぶのか」への問いかけ
    2. 序章(1)「モラトリアムは当然」は多くの学生に安心感をもたらしている。
    3. 序章(3)「大学では、自分から何か始めなければ何もない」に多くの学生が実体験をもって共感している。
    4. 大学生活は,人間関係や課外活動については満足度が高く期待通りであるが,授業については満足度が低く期待はずれ。
    5. 学生が大学の主人公であることは理解されている。大学改革が学生不在であることは,実感を持って感じている。特に授業について学生の意見を汲み上げるシステムがないことへの不満が大きい。
    6. 個性は大事だが,個性とは何か,自分の個性がない。
    7. 就職への不安―資格取得(ダブルスクール)と「学び」との矛盾
  6. 成果と課題
    1. 成果
      1. 学生へのエールが多くの学生に受けとめられ,励みになっている。
      2. これまでの自分を振り返ること自体に大きな意味があったと思われる。
      3. 学生の現状・思いを知る貴重な材料となった。
    2. 課題
      1. レポートの活用・アフターフォロー
      2. 夏期レポートを活用した授業の展開。
      3. 夏期レポートをコメント付きでの返却。
      4. より効果的に効率的にするための工夫
      5. これまでの実践例に学び自らの実践を伝える(情報の共有化)
  7. 高等教育研究会への提案
    1. 実践記録等の共有化
    2. 教材の共有化