LLA(語学ラボラトリー学会)関西支部研究収録6号 (1996)
LLA Kansai Chpater Monograph Series VI (1996) pp.13-43.

外国語教育・研究におけるInternetの利用*

Internet:Its application to foreign language learning and research

竹内 理(関西大学)

TAKEUCHI, Osamu (Kansai University)

Abstract

This article is an introduction to Internet (I-net) and its application to foreign language teaching/reseach. First, the author describes a brief history on the development of I-net. Then, he goes on to explain its functions in an easy-to-understand manner. In the second section, basic information is shown concerning how to connect readers to I-net. The characteristics of so-called "Internet Society" are pointed out in the third section. In the fourth section, the author discusses several major advantages and drawbacks in using I-net in teaching. Then, he presents readers the information and useful tips on the application of I-net to foreign language teaching. How to capitalize on I-net in research is shown in the fifth section. In the last section, the author discusses the problems remained to be solved and the points that should be born in mind by the teachers who would like to use I-net in their classrooms.


0. はじめに


Internet (以後 I-net)という言葉は(日本においては)、一部コンピュータ関係者を除けば、1993年頃まで比較的なじみの薄い言葉であった。これを裏付けるように、1985 年1 月1 日より1993 年12 月31 日までの8年間に、朝日新聞ではI-net という言葉が現れる記事はわずかに5 件にしか過ぎなかった。しかし1994 年(俗にI-net 元年と呼ばれる年)から状況は急速に変化していく。この年、記事件数は92 件となり、1995 年には4 月末までのわずか4カ月で77 件に及んだという(朝尾、1995a)。1996 年に至っては、I-net 関係の記事が掲載されない日がない状況となっている。記事で紹介されている利用範囲も広がり、I-net を利用した大学入学式の実況中継(朝日新聞、1995)から2国間首脳会談、地震防災訓練、就職活動(朝日新聞、1996)にまで及んでいる。まさに「I-net ブーム」、と呼ぶべき状況が到来しているといえよう。

このブームの中、教育機関でのI-net 利用はどう進んでいるのであろうか。日本の大学の取り組みを調べた調査としては、『ビトウイーン』誌 (1996) によるI-net 上での大学ホームページ(本論1.3.5 参照)開設調査がある。これによると、既に21%の大学がホームページを開設し、14%が現在製作中であり、44%検討中であるという。検討していない大学は21%のみとなっており、I-net やネットワーク環境が急速に大学の教育基盤となりつつある状況の一端が示されている1)。大学だけではなく、小学校・中学校・高等学校レベルでの I-net 利用も始まっており、通産省所管の情報処理振興協会 (IPA) と(財)コンピュータ教育開発センター (CEC) が行っている「ネットワーク利用環境提供事業」(通称「100 校プロジェクト」)には100 校の枠に1543 校の応募があり、選ばれた学校では着実にその成果を上げつつあるという(e.g., 辻、1995)2)。この100 校プロジェクト以外にも各種プロジェクトに参加する学校があり、小学校から大学まで、 I-net を利用した教育・研究への模索が急速に進んでいる状況が浮かび上がってくる。

外国語教育・研究の分野でも I-net の利用は進みつつある。たとえば身近な例でLLA全国研究大会でのI-net 関連の実践報告・研究発表件数をみると、第33 回(1993)では0 件、第34 回 (1994) では2 件、第35 回 (1995) では5 件と、1994 年を境に増加傾向を示している。外国語教育・研究誌の世界でも I-net 上でしか読むことの出来ない研究誌TESL-EJ が1994 年に創刊され、その後もEFL Web や The Internet TESL Journal など I-net 上での実践・研究発表の場が着実に増加している。さらに、lla-conf、 net-lang、jalt-call、eflj といった外国語教育・研究のためのメイリングリスト(本論1.3.1 参照)も相次いで産声を上げている。

本論文は、このような状況下において、I-net とは何か、I-net を通して何が出来るのか、何が出来ないのか、何に気を付けなくてはいけないのか、といった情報を外国語教育・研究の分野に重点を置きながら提供することを目的としている。まず第1節では、 I-net の成り立ち・現状、そしてその機能に関する基礎的内容を取り扱う。第2節では I-net への接続情報を提供する。第3節ではI-net 社会の特徴を指摘していく。第4節では外国語教育での利用、第5節では外国語教育研究での利用に関する情報をそれぞれ取り扱う。そして第6節ではI-net 利用教育の注意点を指摘していく。

1. Internet とは


1.1 Internet:その定義


I-net とは「世界中に散らばるコンピュータネットワーク(通信回線でコンピュータを結んだもの)が集まり、あたかも一つのネットワークのように結ばれている状態」、いわば「ネットワークのネットワーク (the network of networks) である」と説明される場合が多い。しかし、この説明は形態的側面にのみ重点をおいたものであり、機能的な側面が欠落しているように思える。機能的側面からみれば、I-net とは「デジタル化された情報を共有するための社会的基盤(インフラストラクチャー)」である。そしてNegroponte (1995) が指摘するように、多種多様な情報を容易にデジタル化することが可能となっているのが現代社会なのである3)

1.2 Internet:その歴史と現状


1.2.1 Internet の歴史


  パソコン通信ネットワーク(e.g., NIFTY-Serve) は、ホストコンピュータ (HC) と呼ばれるコンピュータにより一元的に管理され、利用権を持つ人にのみ公開されている。これに対し、 I-net には一元的なHCは存在せず、世界中にあるHC同士が結びつき、それぞれのネットワークはそのネットワークのHCが管理するという、いわば分散型の管理方式を取っている。このような分散型の考え方を採用している理由は、I-net の前身で1969年より始まったARPANETが、「核攻撃を受けた際にも通信を寸断されないコンピュータネットワークの開発」という極めて軍事的な課題を受けて実施されたものであるためといえよう。つまり集中管理方式よりも分散管理方式の方が、核攻撃により破壊されるリスクが低下するというわけである。またデータをパケット(packet) と呼ばれる小さな単位に分割し、それぞれに宛名と番号を付け異なるルートで送付し、到着先で組立直すなどの特徴を持ったTCP/IP (Transmission Control Protocol/Internet Protocol) という標準通信手順を考え出したのも軍事目的との関連とされている。しかしARPANET 開発者の中には、例えば J.C.R.Licklider らのように、軍事目的よりもコミュニケーションの手段、情報共有の手段としてコンピュータを利用することに興味を持つ人たちが多くいたようで(電気通信政策総合研究所、1995) 、やがて研究者間の情報交換の手段として利用される割合が増していくことになる。1980年代前半には、制度上のことではあるが、ARPANETは軍事ネット(Milnet) と分離される。さらに1985年には学術目的のNSFNET(全米科学財団の大学間ネット)が稼働を開始し、ARPANET (1990年には発展解消)などとともに、I-net のバックボーンを形成するようになった。

1.2.2 日本での発展


日本でも、1986年には専用回線によるTCP/IP接続がおこなわれ (JUNET)、1989年には国際接続も実現された。しかしI-net の利用は一部の大学や研究所という狭い範囲に限られる傾向が続いた。広い範囲での利用が始まるのは、1993年末からの商用プロバイダー事業開始を待つことになる。この年、商用目的の会社(サービスプロバイダー)のI-net接続サービスが開始され、この会社のクライアントになることで個人レベルでもI-net に接続することが出来るようになった。現在の爆発的 I-net ブームはここに端を発している。なお一般利用が本格化した翌年の1994年を、日本における「I-net 元年」と呼ぶことがある。

1.2.3 世界の状況


比較的最新の統計(ftp://ftp.cs.wisc.edu/connectivity-table directory: 1995年7月)によると、 I-net には世界150カ国以上の国、664万台以上のHCが接続されており、利用者の数は6,600万人以上と言われている4)。接続されるHCの数は急速に増加しており、約30秒に1台の割合で HC が I-net に接続されているという。現在、HCの約75%は米国にあり、日本には約2.5%が所在しているのみである。接続が急速に増えている地域は南米、アジア、ロシアなどである。

1.3 Internet:その機能


1.3.1 E-mail


I-net 上で最も頻繁に利用されるのが電子メイル (e-mail)の機能であろう。e-mail ではわずか10秒ほどの時間で、しかもほぼ無料で、世界中に手紙を送付することが出来る。(郵便による手紙の送付はこれと比較するとカタツムリの歩みのようであり、そのため snail mailと呼ばれる。)また送られた mail は mail box に保管され、受け手の好きな時に、好きな場所から読むことが出来るので、相手が仕事中であるか、出張中であるか、就寝中であるかなど時間的・空間的要素を気にせず連絡を取ることができる。また手紙の内容を編集したり、保存したり、第3者に転送する事も容易である。使われる言語は英語が主流であり、e-mail 独特の文体も発達している (e.g., Angell & Heslop, 1994; 伊藤、1996)。日本語での送付は、送付元・送付先の双方が日本語変換のためのソフトウェアを有していることが条件となる。後に詳述するが、e-mail を利用することで海外との pen-pal project なども実施可能であり、外国語教育での利用価値が高い。パソコンから利用する時には Eudora 、Winbiff などのソフトウェアが必要となる。このうち、MIME (Multipurpose Internet Mail Extensions ) 対応のソフトウェアを利用すれば音声、画像などもメイルに添付することができる。

電子メイルの発展した形にメイリングリストというものもある。これは特別な宛先にメイルを送ると登録されているメンバー全員にそのメイルが送付されていく機能で、majordomo や distribute などのソフトウェアを利用してこの機能を実現している。メイリングリストでは各メイルに通し番号が付与されて送付されてくるため、メイルの区別も容易になるほか、各メイルが保存されており、必要に応じて過去のメイルを取り寄せることもできる。また後述するnewsgroup と違い登録を必要とするため、参加人員を把握しやすい(公開性の制限)。メイリングリストを利用すれば、グループディスカッションや研究会をI-net 上で容易に行える。

電子メイルの宛先は電子メイルアドレスと呼ばれる。筆者のアドレスは takeuchi@ res.kutc.kansai-u.ac.jp であるが、このうちtakeuchi は「発信・着信者」、res.kutc. は「関西大学高槻キャンパス研究用」、kansai-u.ac.jp は「日本 (jp) の教育機関 (ac) 、関西大学」を意味する。なお@(アットマーク)以下、特にkansai-u.ac.jp の部分をドメインネイムと呼ぶことがある。ac.の代わりに co.とあれば会社組織、go.とあれば政府機関、or は商用パソコンネットなどを意味する。米国の場合、教育機関は edu、政府機関はgov、軍隊はmil、会社組織はcom となり、国名は付かない。

1.3.2 Newsgroup (Usenet/NetNews)


newsgroup とは一種の電子会議室、あるいは電子掲示板のようなものである。会議室的な使い方では、ある特定の興味を持った人が自分の意見を示し、それに対して別の人達が意見を述べる。掲示板的な使い方では、例えば英語の用法で知らないことを尋ねる。するとその用法に詳しい人達から返信がくるという具合である。メイリングリストと違い newsgroup の多くでは参加登録を必要とせず、そのため公開性が高い。現時点で 10,000 を越すnewsgroup が展開されており、その中には英語による文通相手を紹介する alt.education.email-project、soc.penpals、英語の語法に関するトピックを扱うalt.usage.english、英語教育に関心のある人達のための misc.education.language.english、日本や米国の文化に関しての質問や討論がなされているsoc.culture.japan、soc.culture.usa などがある。言語は英語が主流であるため、英語読解教育や英作文教育に利用できる可能性がある。なお、パソコンから利用するには NewsWatcher 、NewsAgent 、WinVN あるいはNetscape などのソフトウェアが必要になる。

1.3.3 Telnet (Remote Login)


telnet とは、遠隔地にあるコンピュータをネットワークを介して身近にあるコンピュータから操作する機能のことである。例えば telnet のソフトウェアを動かしopen hollis.harvard.edu と打ち込むと、日本に居ながらハーバード大学のコンピュータを動かし、図書館の検索が可能になる。スタンフォード大学ならば open forsythetn.stanford.edu と打ち込み login と表示が出ると socratesと打ち込むことで検索が可能になる。また、出張先や自宅からこの機能を利用し所属機関のコンピュータへアクセスし、電子メイルの読み書きを行うことも可能である。さらにニューヨーク市立大学のコンピュータには英語学習者用のVirtual Reality (仮想現実)School (SchMOOze University) が開設されており、open schmooze.hunter.cuny.edu 8888 で利用出来る5)。telnet の機能を利用すると商用パソコンネットワークにもアクセスすることができる。例えば NIFTY-Serve という富士通系のネットワークは open r2.niftyserve.or.jp と打ち込み、login でSVC と入力し、自分のIDおよびPassword を入れると利用することが出来る。NIFTY-Serve 側からは go internet と打ち込み、その後 telnet を選択すればこの機能を利用することができる6)。なお、パソコンからtelnet の機能を利用するにはNCSA telnet、TeraTerm などのソフトウェアが必要となる。

1.3.4 FTP


FTP (File Transfer Protocol) とはテキスト、データ、プログラムなどのファイルを転送する機能のことで、筆者が本論1.2.3で使用した I-net 関係の情報はこの機能を利用して入手したものである。また、世界中の何カ所かのサイト(例えば日本の理化学研究所 ftp://ftp.riken.go.jp/pub/ )には、フリーウェアやシェアウェアプログラムが蓄積されており、誰でも自由に転送を受けることができる。このようなサイトのことを anonymous FTP と呼ぶ。パソコン上 (Macintosh) から目的のファイルを探すためには Gopher、Archie、WAIS などの検索ソフトウェアが、ファイル転送するためにはFetch などの転送ソフトウェアが、この両方の機能を兼ね備えたものとしてAnarchie などのソフトウェアがある。Windows の場合はWinFTPなどのソフトがある。なお後述するWWWのブラウザーであるNetscape でもこの機能を利用することができる。

1.3.5 WWW


WWWとはWorld Wide Webの略称であり、テキスト以外にも音声、画像、動画などを取り扱える、いわばマルチメディア対応の情報データベースのことである。このWWWでは情報間にリンクが張られており、興味に応じて情報間を渡り歩き、知識・理解を深めていくことができる。(このような性質をHypertext 性という; 図1参照:未掲載)これを利用すると、例えば http://www.whitehouse.gov/ (このアドレスをURLという)でホワイトハウスのページ(これをホームページ: HPという; 図2参照:未掲載)へ進んでいき、そこで大統領のスケジュール、最新演説のテキスト、写真、大統領や副大統領のメッセージ(音声・テキスト)などの関連情報を手に入れることが出来る。http://www.gsfc.nasa.gov/ ではアメリカ航空宇宙局 (NASA) のツアーが楽しめ、スペースシャトルの運行情報やアポロ計画の歴史などの情報も得ることができる。http://www.usatoday.com/ では米国唯一の全国紙USA Today のテキストや写真を、現時点では無料で、手に入れることが出来る。さらにKey Word による検索機能を利用すると、関連する情報を数分で手に入れることもできる。この方法で英語教育用の情報を検索すると、http://www.ed.uiuc.edu/impact/ とhttp://www.comenius.com/index.html に英語教育のためのHPがあり、音声やオンライン辞書の付いた読解レッスン、熟語レッスンなどが提供されていること、http://www.jg.cso.uiuc.edu/pg_home.html にはProject Gutenberg と呼ばれるテキストアーカイブがあり、そこで著作権の切れた世界の名作の英語版テキストを手に入れることができることなど大量の情報が入手できる。情報を検索・受信するだけでなく、例えば朝尾 (1995b) のようにWWWのHPを利用して情報発信型の外国語教育(本論4.2.1参照)を試みることも可能である。つまり個人ないしはグループが自ら作成した外国語の情報を、世界に向けて発信・提供することが出来るのである。なおパソコンから利用するためには、 Netscape、 Mosaic などのブラウザーと呼ばれるソフトウェアが必要になる。また、音声、静止画像、動画などを取り扱うためには、それぞれSoundMachine/naplay、JPEG Viewer、MPEG Viewer (Sparkle) などのソフトウェアが必要となる場合がある7)

1.3.6 Tele/Videoconference


従来、tele/videoconference(テレビ会議システム:以後 t/v-conf.)は大がかりなハードウェアを必要とし、そのため教育機関では、米国の国防省外国語学校 (Defense Language Institute) など予算を相当規模で投入できる所でしか利用されていなかった (DLI, 1992)。しかしI-net 上では、CU-SeeMe、ShareView、Videophone といったソフトウェアと若干のハードウェアを利用することで、比較的安価で t/v-conf. を実現することが出来るようになりつつある。Cu-SeeMe(http://cu-seeme.cornell.edu/などから無料で入手可)は米国コーネル大学で開発されたソフトウェアで、幾つかのハードウェア(e.g., ビデオキャプチャーボード、カメラ)と併せて利用することで、モノクロ画像を1秒間に10から20フレイム送ることが可能である。ShareView は一式40万円前後で市販されているテレビ会議システムで、1秒間に約12フレイムの画像を転送出来るほか、音声同時処理、黒板機能なども利用できる。VideoPhone(Connectix、12,800円 / ビデオカメラ別売)は、安価なうえ操作性に優れ、黒板機能など機能面でも充実している。これらのソフトウェアで送られる画像は、テレビのように1秒間に30フレームの滑らかなものではないが、ソフトや環境の改善次第では外国語教育のためのVirtual Reality を作り出すという重要な役割を果たす可能性が高い。なお音声のみのt/v-conf.を行う場合は、Internet phoneなどのソフトウェアが利用されている。(Internet phone はWindows用でftp://ftp.vocaltec.com/から入手可能。なおMac用にはNetphoneがあり、http://www.emagic.com/から入手できる。)

2.Internet に接続するためには


2.1 接続に必要なもの


2.1.1 パソコン


I-net に接続するためには、コンピュータ(本論の場合パソコン)本体、モデム、回線、ソフトウェア(接続用)などが必要となる。パソコン本体に関しては、現在市販されているものはネットワークとの接続を前提として設計されたものがほとんどである。さらに最近では、米国オラクル社が1996年中に発売を予定している 5万円パソコンのようにその用途をI-net との接続のみに絞り込んだもの、日本のバンダイが発売している Pipin ATMARKのようにI-net 接続と若干の機能に絞り込みテレビと結合させたものなど多様な選択肢が提供されるようになっている。

2.1.2 モデムと回線


モデムに関しては、最低でもv.32bis/14.400bps、できれば v34/v.fast/28.800bps 程度の性能のものを用意する事が望ましい。回線は一般家庭に引き込まれている電話回線(アナログ回線)をそのまま利用することもできるが、音声、静止画像、動画の転送を考える場合は、ISDN 回線(デジタル回線、v.110 で38.400bps)を利用する方が望ましい。ただしこの場合 アナログ回線のモジュラージャックに相当する終端機器のDSU(NTT定価 23,900円)、DSUからデジタル線に接続するためのターミナルアダプターと呼ばれる変換装置などが必要となる。また、料金も個人利用としては割高になる(契約料800円、使用料月額 64kbpsで2,830円プラス電話代、施設設置時負担金72,000円、工事費別途)。電話料金に関しては、NTTの「テレホーダイ」のサービスを利用すれば、夜間11時より翌朝8時までの間、電話番号を2つ指定し月額2,400円(アナログ回線の場合1,800円)の定額で利用することもできる。なお将来的には、CATV(ケーブルテレビ)回線を利用した高速サービスが主流になる可能性がある。米国の場合、CATVが普及していることもあり、1カ月$35 程度で10mbps の高速 I-netサービスが、CATV回線を使って提供されている。日本でも近鉄ケーブルネットワーク(KCN) などが、1997年春のサービス提供予定で実験を開始している。

2.1.3 ソフトウェア


接続用基本ソフトウェアとしては、Macintosh の場合、TCP/IPへのtranslator に相当するMacTCP、公衆回線でIP接続を行うためのMacPPPなどのソフトウェアが必要となる。なお、 MacTCP は漢字Talk7.5 より標準で提供されている。また、漢字Talk7.5.2 からはTCP/IP自体が標準で提供されている。漢字Talk 7.5 用のMacPPP 、漢字Talk 7.5.2 用のFreePPPは、NIFTY-Serve のFSKなどからフリーウェアとして入手できる。Windows の場合、Windows95にWindows95 PLUS!を追加することでWinSock などが組み込まれ、I-net 対応となる。

2.2 接続形態


2.2.1 UUCP接続


I-net に接続する方法としては2種類考えられる。その1つが UUCP (Unix to Unix Copy Protocol) 接続である。この方式で接続すると電話回線を通じてメイルやニューズが一定時間毎にまとめて送られてくる。リアルタイムな I-net の利用はできないが、常時接続しておくよりもはるかに安価である。この接続方法を採用した場合利用できる機能は表1のようになる。

 

表1 接続形態と機能(未掲載)

                             

2.2.2 IP接続


I-net の機能をすべて利用するためにはIP (Internet Protocol) 接続の方式を利用する。IP接続にも専用回線を利用して常時接続するもの(専用線接続)と、電話回線を利用して必要に応じて接続するダイヤルアップ接続とがある。前者はコストが高く研究所や大学などで利用者が多い場合に使用される。後者は電話代とサービスプロバイダーと呼ばれる業者との契約料金、および月毎の使用料のみで済むため、個人や少人数での利用に向いている。サービスプロバイダーは1995年12月現在のところ約80社(96年7月現在で約15倍の伸びを示し、約千社にもなっている)ほど存在しており、それぞれ異なる価格(入会時、数千円から数万円:使用料、千円/月から2-3万円/月)でサービスを提供している。プロバイダーの中には、料金は低いが回線が混雑しておりなかなか接続できないもの、サービス自体が安定していないものなどもあり、業者選択に際しては利用者の意見を参考にする必要がある。なお商用パソコンネットワークからI-net へ接続する方法もあり、 例えばNIFTY-Serve ならば e-mail、newsgroup、telnet、FTP 、WWW (PPP接続)の機能が、一定の制限のもとではあるが、利用可能である(コマンドは go internet)。

3. Internet 社会とは


I-net 社会の第1の特徴として、すべての人間が発信者になり得る可能性があげられる。従来の放送、新聞などのマス・コミュニケーションでは、その設備投資を考えたとき、個人は情報の受信者でしかあり得なかった(浜野、1995)。しかし、I-net では、WWWのHPなどを利用すれば、従来からは考えられないような少額の投資で、すべての個人が発信者になる可能性をもつことになる。ただし川浦 (1995) らが指摘するように、何を表現したいのかがハッキリしていなければ何も発信できないわけで、個人の創造力、知識内容、目的意識が厳しく問われる社会でもあると言えよう。

第2の特徴としては個別化の進行があげられよう。個人が発信者になることで、極めて細分化された情報が世界中を行き交う。個人の興味にあった情報を見つけられる可能性がある一方で、すべての人間がオタク化し、かえってコミュニケーションが阻害される可能性も潜んでいる。従って、 I-net 社会においては、異なった情報を持つ個人間の協同作業・情報交換が極めて大切になる。

第3の特徴として英語の国際語化があげられる。I-net 上では国境とtime-lag をほとんど意識することがない。世界中の国々が、まさにGlobal Village 状態になる可能性を秘めていると言えよう。ただし、ここでの共通語はその圧倒的な情報量から考えて英語であり、英語による表現力と理解力の有無が I-net 上での恩恵を受けられるか否かの分岐点となる(浜野、1995)。従って水越 (1995) が指摘するように、英語が日本におけるI-net 浸透の妨げになる可能性もある。なお別の視点から見れば、田村(1996) の「 I-net 上での英語支配により地域文化が破壊される」との指摘も否定できない状況にある。外国語教員は、英語教育促進の一方で、I-net 社会における特定言語による支配の問題を十分意識をする必要があろう。

第4の特徴として情報格差の出現があげられる。I-net を利用できるものと利用できないものでは情報量に極めて大きな格差が生じ、それが社会的な格差を生む可能性がある。情報格差を生まないためにも、コンピュータ・リテラシー(操作能力)の習得が教育上の重要な課題になる8)。また、イタリア・ボローニャ市や米国・メリーランド州のように、地方自治体が地域住民にI-net 接続サービスを提供するなど、社会をあげて情報格差の発生を防ぐような取り組みが必要となる。

第5の特徴として、教育環境の変化が考えられる。I-net の発展により「教室の壁」は崩壊し、教育は時間的・空間的束縛から解き放たれつつある。I-net 教育空間(サイバースクール)の発展・充実は、今後急速に進むと考えられる。そしてサイバースクールにおいては、従来の教室型教育方法(または方略)は通用せず、教員は新しい教育方法を模索する必要に迫られているのである。 以上のように、I-net 社会では、個人の創造力と知識、協同作業と情報交換、英語リテラシー、コンピュータ・リテラシー、そして教育方法の転換が必要とされているのである。

4. Internet の外国語教育での利用


4.1 利点と問題点


4.1.1 学習者の視点から


学習者側からみてまず第1にあげられる利点は、朝尾(1995)の指摘するように、外国語運用とその練習の区別が希薄化されることであろう。例えば、I-net で e-mail を送ることは作文の練習であると同時に外国語を使った実際の communication(運用)となり得るのである。これと関連して、外国語を使い communication ができることで学習への motivation 、それもGardner (1985) のいうextrinsic なものだけでなく、活動それ自体に面白さを感じるintrinsic な motivation (Deci, 1975) までも高められることが第2の利点として考えられる。また、外国語で communication ができたと言う満足感・自信を学習者が得やすいという点も見逃せない(Avots & Grodberg, 1992; 清水、他, 1995a) 。

学習方略 (learning strategy: e.g., Takeuchi, 1994) の側面から見れば、I-net の利用により学習の個別化が促進されるため、各人にあった方略で学習を進めていける可能性が生まれてくる。また、一斉授業や文法学習などでは演繹型の学習スタイルが要求されることが多いが、I-net 上の学習では帰納型の学習スタイルが必要となり、学習スタイルの偏りの是正も期待できる(塩沢、他, 1995)。さらに教師側の対応によるが、e-mail を利用すれば学習者はいつでも教師に対して質問することが可能になる。また newsgroup を利用すれば、教師に質問するだけでなく、学習者がお互いに助け合い、補いあうことすら可能となる。

I-net を利用した外国語学習の問題点としては、I-net 上での活動が受信に偏りがちになる可能性があげられる。日本人は発信することに慣れていないようであり、それが外国語としての英語であればなおさらである。しかし、I-net の特徴のひとつである 相互性を生かすためにも積極的に発言する努力は欠かせない。また日本人は、発言に値する内容を論理的に積み重ね提示する技術が欠けている傾向があることも指摘されている(e.g., 川浦、1995; 室、1995)。 I-net を利用して外国語を学ぶ前に、何をどう言いたいのかということを学習者が明確化させていなければ、学習

自体が成り立たない場合もありえる。

他の問題点としては、学習者にある程度のコンピュータ・リテラシーが要求されることがあげられる。学習者にコンピュータ・リテラシーがあまりない場合、I-net を利用した外国語の授業が コンピュータリテラシー養成の授業に変わってしまうこともある。本来の学習目的から逸脱しないためにも、コンピュータ・リテラシー習得への積極的な取り組みが必要とされる。

4.1.2 教師の視点から


教える側から見た第1の利点は、膨大な量の情報(素材)が入手できるということであろう。テキスト、音声、画像、文献情報、文化情報など、従来なら入手するのに複数のソースに当たり、かなりの時間と経費をかけていたものを、短時間に、しかも安価に入手することができる。例えば米国大統領のある演説全文を入手するのに数分程度の時間と電話代の出費ですむ。USA Today 紙で 大統領選挙の記事を入手する場合にも、同じ程度の時間と経費ですむわけである。また西納 (1994) の指摘するように、time-lag のない極めて新鮮な materials や情報を入手することが可能になる。さらに前項でも述べたが、e-mail、newsgroup などを用いることで学習者指導の迅速化を図ることも可能であるし、I-net での情報収集を組み込んだ協同作業を企画することで学習者間のcollaboration (e.g., Nunan, 1992) や学習者間での外国語使用なども促進することが可能になる。

情報量の膨大さは一方で問題も生む。学習者に適した情報を膨大な情報の中から取捨選択する作業は、清水、他 (1995b)が指摘するように、教師にとっての大きな負担の一つといえよう。また、往々にして教師は、I-net をはじめとしたメディアを利用すればすべての問題が解決するような幻想に囚われがちだが、実際は必ずしもそうでない場合が多い。大切なのは、I-net を利用しない授業とI-net を利用する授業とをどう関連づけて効果的に外国語能力を伸ばしていくか、という指導計画であろう。

水越 (1995) の指摘するように「教師は自分が教えられた方略で教える」ものである。従って I-net を利用して有意義な授業を展開するためには、教師側は自分が教えられた一斉授業型の方略を見直し、教師が学習者のfacilitator/adviser となるような新しい教育方略を採用していかなければならない。また、協同作業を導入するのであればcoordinator としての教師の立場を自覚し、学習者たちに主導権を握らさなければならないであろう。なお新しい教育を展開するためには、教室のレイアウト(e.g., 机・黒板・電源などの配置、電話回線の敷設、壁の有無)をはじめとした物理的条件も見直す必要がある。

最後に、清水、他 (1995a, b) の指摘するように、I-net を利用した教育では外国語教師も一定のコンピュータ・リテラシーが必要となる。これが欠けた場合、予想された効果・効率は期待できなくなる恐れがある。従って竹内 (1995) の指摘するように、外国語教員の養成、再教育の段階でコンピュータ・リテラシーを習得させることがぜひとも必要となる。

4.2 外国語としての英語教育


4.2.1 Writing


I-net を利用した英語教育で最も多くの活動が考えられるのが writing であろう。その中でも e-mail を利用した文通活動はかなりの実践例が報告されている (e.g., 三宅、杉本、1985;曽山、1994;加藤、1995;塩沢、他、1995)。文通相手としては、三宅、杉本(1985)のように日本人以外の英語学習者、曽山 (1994) のように英語 native speakers 、塩沢、他 (1995) のように日本人英語学習者同士の場合などが考えられる。文通の形態はペアで行うもの、メイリングリストや newsgroup を利用して複数名で行うものなどが考えられる。文通相手を見つける際にはIntercultural E-mail Classroom Connections (iecc@stolaf.edu;詳しくは http://www.stolaf.edu/network/iecc/) 、あるいは newsgroup 上の soc.penpals やalt.education.email-project 、WWWのComenius Group が提供するKey-Pal Connection(有料)などの助けを借りることが出来る。また、京都産業大学のT.Robb 氏 (trobb@cc.kyoto-su.ac.jp) らが行っているメイリングリストなどもある。なお文通ではないが、学習者が英作文(作品、意見)を発表する場としては、Parents & Children Together (http://www.indiana.edu/~eric_rec/fl/pcto/menu.html) やExchange (http://deil.lang.uiuc.edu/exchange/) などがある。

1対1の文通の場合、参加者によっては最初の数回(自己紹介など)で話題に窮することもある。このような場合、1人につき複数のペアを構成しておき、話題のあったもの同士で文通を進めさせていく方法が有効である。それでも話題に困る場合は、教師が topics を提供するなど facilitator として活動していく必要があろう。また初期の段階では off-line(ネットワークを使わずに)で過去の e-mail 文通の例などを読ませ、その特徴をつかませるような指導が必要である(e.g., Warshauer , 1995)。

実際の利用の前段階として、学内のみにオープンされた newsgroup (あるいはメイリングリスト)を利用して group writing を行うのも有効な活動といえよう。あらかじめ数名のグループを作っておき、on-line で最初のメンバーが書いた第1パラグラフに次のメンバーが第2パラグラフをつけ加えるというstory-building は、 group writing で有効な task の1つである。パラグラフの数や登場人物の数などを指定しておき、その数の中で物語を完結させるような制限を加えるとtask がより上手くいくようである。

ある程度 writing 力をつけた学習者には、実際の newsgroup への投稿も考えられる。この場合、あらかじめ幾つかの newsgroup を読ませ、その雰囲気や書き方のようなものに慣れさせていく指導が必要であろう。また投稿の初期段階では、教師による添削も必要であろう。教員は事前に学習者の興味を調べておき、しかるべき newsgroup をtopic 毎に幾つか選別し学習者を導くような配慮が必要となる(e.g., 清水、他, 1995b)。

実践例が増えつつあるものとして、がある。WWWのHPを学習者に英語で作成させ、公開していく過程で作文能力や表現力を育成していこうとするもので、朝尾 (1995b) らが実践している。ここで問題になるのはHPを作成する際に用いるコンピュータ言語 HTMLの習得である9)。朝尾(1995b) の場合、HTMLのテンプレートを事前に作成しておき、これに学習者が英語で記入していく形式を提案している。HP作成支援ソフトPagemill (Adobe、29,800円)や市販のテンプレート、例えば「インターネットホームページキット/Infogallery」(内田洋行、9,800円)などを利用することも考えられる。最近のワードプロセッサプログラムの中には、文章をHTML形式で保存させる機能を有したものも発売されており、HTMLの学習を最小限に抑え、表現教育へ力点のおける環境が急速に整いつつある。なお、WWWを利用した教育では、リンクのはり方の独創性、論理性、信用性など、新しい指導・評価の対象が現れることも注意する必要があろう。

I-net 上でのwriting 活動が成功するためには、教育方略の転換が重要になる。つまり、活動それ自体が communication を目的としているために、指導の力点は文法的なaccuracy よりもむしろ communication の成否におかれる。従って、教師はcommunication に影響しないような誤りにはあまり触れず、伝達内容の充実、その構成、論理的流れなどに指導の中心をおくよう努力する必要がある。

4.2.2 Reading


e-mail や newsgroup を利用すれば、その過程で相当量の reading 活動が生じる。特に newsgroup を利用すれば、学習者の興味に応じた topic に関して、どの様な意見や情報があるのかを探りながら「新鮮な」英語に大量に触れていくことができる。newsgroup が英語難易度の問題で利用しにくい場合には、外国語教育HPの提供するshort stories なども利用できる。例えばComenius (http://www.comenius.com/index.html)では学習者用に比較的難易度の低いfables (Fluency through Fables )が 理解度チェックの問題とともに提供されている。また、Impact (http://www..ed.uiuc.edu/impact/) には時事的な記事も提供されている。

時事英語の読解では、日本の新聞社、例えば読売新聞 (http://www.yomiuri.co.jp/) 、朝日新聞 (http://www.asahi.com/) 、Japan Times (http://www.japantimes.co.jp/) などが提供している英文記事をよみ、その後USAToday (http://www.usatoday.com/)、San Francisco Examiner (http://www.examiner.com/)、New York Times (http://nytsyn.com/)、CNN (http://www.cnn.com/) 、Time (http://www.pathfinder.com/より選択可能) などが 提供している同じ話題の記事を読み、両者を比較する活動が考えられる。そこにWWWを関連づけ、例えばホワイトハウス (http://www.whitehouse.gov/) に入り、その記事に関連する大統領のスピーチを検索させ、これを読ませるような活動も可能である。なお、英文記事のレベルが高すぎる場合には、Time for Kids (http://www.pathfinder.com/よりTime を選択後、Time for Kids を選択) など平易な英語で書かれた記事も提供されている。

文学作品では、 Project Gutenberg (http://www.jg.cso.uiuc.edu/pg_home.htmlあるいは http://gagme.wwa.com/~boba/gutenberg.html) に著作権の切れた英語版の作品テキストが膨大に保存されており、学習者のレベルと興味に応じて授業外で幾つかの作品を読ませ extensive reading の活動を行わせることも可能である。提供されている作品は平易なfables から難解な文学作品 まで多岐にわたっている。文学作品ではないが extensive reading につながる活動としては東 (1995) がある。通信販売のカタログなどを大量に読ませ reading 力や背景知識がつくように指導し、最後にはパソコン通信やI-net 上で個人輸入を行うというものである。いずれにせよ、学習者の興味に応じて大量に英語を読ませるには I-net は有効な道具と言えよう。

4.2.3 Vocabulary


Vocabulary に関しては、授業の準備段階や教材作成の面で利用価値のある resources が提供されている。例えば英語のusage の面で教員が情報を得るには、newsgroup の alt.usage.english などが便利である。英語の用法に関しての質問を出すとこれを読んだ人々からの返事が届き、その用法の今の姿を知ることが出来る。辞書などで調べても判断のつきかねる場合、native speakers に尋ねても判断が割れる場合など、より多くの意見を求めるために利用できる。ただし情報の一方通行にならぬようにこちら側からも情報を提供する姿勢は忘れてはならない。

単語の学習に関しては http://www.dsu.edu/projects/word_of_day/word.html の the cool word of the day 、http://syndicate.com/ のword puzzle などが活用できる。Idioms の学習では、Comenius Group (http://www.comenius.com/) の the Virtual English Language Center の中で提供される Weekly Idiom が参考になる。よく利用される idiom が用例と音声サンプルとともに提供されており教員の教材作りへのヒントとなる。I-net 上で頻繁に利用される英語 jargon 集なども http://fount.journalism.wisc.edu/jargon/jargon.html や http://www.ccil.org/jargon/jargon.html などから入手することができる。

辞書の利用もI-net 上では可能であり、例えば http://www.aix.or.jp/kenkyusha/で『リーダーズ英和辞典』をはじめとした各種辞典を検索することができる。(現在は無料であるが、将来は有料になることが予想される。)国外では http://c.gp.cs.cmu.edu:5103/prog/webster/ でWebster の検索が行える。スペルチェッカーとしては、Webster Spell Checker (http://www.eece.ksu.edu/~spectre/newspell/) が利用できる。

4.2.4 Listening/ Speaking


マルチメディア対応の I-net といえども、現時点ではテキスト並の容易さを持ってふんだんに音声を取り扱うことは難しい。ただし前出の Impact や Comenius では単語やイディオム、例文などに音声を付与してlistening や speaking にも注意を払っている。また voice-mail (e-mail に音声を付与したもの)や t/v-conf. (e.g., Cu-SeeMe、ShareView、Internet phone、Netphone)機能の発達も目覚ましいため、近い将来、音声を十分に利用した外国語教育をI-net 上で展開出来る可能性は高い。

現時点では、listening であれば、ホワイトハウスのHP (http://www.whitehouse.gov.) に入り大統領のスピーチの音声版データおよびスクリプトを入手しおき、これを学習者に聞かせてlistening 活動を行う (竹内、1996b, c)、President's Radio Address (http://sunsite.unc.edu/gov/radio/radioaddresses.html) へ入り大統領のラジオ演説を入手しておき、これを利用してlistening 活動を行う、English as a Second Language (http://www.lang.uiuc.edu/r-li5/esl/) へ入り、そこで提供されている教材を利用してlistening 活動を行う、National Press Club (http://town.hall.org/Archives/radio/IMS/Club/)、ABC Radio News (http://www.realaudio.com/contentp/abc.html)、World Radio Network (http://www.wrn.org/audio.html)、 National Public Radio (http://www.realaudio.com/contentp/npr.html) などに入り、そこで提供されているインタビューやラジオ番組を利用してlistening 活動を行う、などが考えられる。

speaking であれば、学習者にWWWのHPを作らせそこに簡単な音声メッセージを付与させる、先述の English as a Second Language の Conversations for ESL students (http://www.lang.uiuc.edu/r-li5/book/index.html)で提供されている教材を用いてspeaking 活動を行うなどの利用法が考えられる。

筆者の場合、I-net 上で集めた新聞記事などの materials を前もって学習者に読ませ、それと関連した topic の CNN news を聞かせるなど、I-net を利用したreading 活動 と関連づけてI-net 外で listening 活動を行っている。また speaking の場合、学習者にI-net を使って情報収集を行わせ、それに基づき oral presentation をさせるなど、presentation 技術向上を目的とした 活動と関連づけて利用している。

なお、listening 教材を送付してくれるメイリングリストも存在ている。Majordomo@tenet.edu の中にあるcnn-newsroom は、CNNで放送されたニュース(JST 17:30より放送のNewsroom)に関する練習問題を作成し1週間に5日送付してくれる(教室使用であれば教材複製も可)。ただし難易度は上級学習者向けで問題量も多いため、一般学習者を対象として使用する場合には手直しが必要である。登録(無料)方法は、電子メイルのsubject 欄を空にして、subscribe cnn-newsroom とend (subscribe とendの行とは改行しておく)からなるメイルをMajordomo@tenet.edu へ送れば返信が送られてくる。

4.2.5 異文化に関する情報


異文化に関する情報は、教師や文献を通して提供される場合、フィルターを通して提示されたことになり、またある程度のtime-lag が生じ情報が古くなってしまうこともやむおえない。しかしI-net を通して学習者自身が異文化の人々と直接知り合い、real-time に情報を入手できれば、フィルターの影響や time-lagの問題をある程度解決できる。そのための手段として、学習者に newsgroup の soc.culture.usa などを利用して文化情報を質問させたり、あるいは soc.culture.japan 上での質問に答えさせたりすることが考えられる。また、The Web of Culture (http://www.worldculture.com/) で提供されている Culture Assimilators などを利用して、文化的差異に気付かせることもできる10)。日本事情・文化に関する英語解説を学習者に作成させHP上で公開し、その解説作成過程や解説への読者からの反応を通して、日本文化や日本人のコミュニケーションパタンを認識させることもできる。Virtual Tourist (http://wings.buffalo.edu/world/) 、CIA World FactBook (http://www.odci.gov/cia/index.html からPublication を選択)なども文化情報、地理情報を得るためには有益である。さらに I-net を利用した writing、 reading などの活動を通して、学習者自身が間接的に異文化に関する情報を感じ取ることも可能であろう。

4.3 英語以外の外国語教育


I-net 上では圧倒的に英語関係のresources が多い。しかし、英語以外の外国語教育に役立つresources も幾つか見受けられる。例えばスペイン語学習の場合、HPとしてはhttp://www.sussex.ac.uk/langc/spanish.html や http://gpu.srv.ualberta.ca/~scoleman/index.html (Web Site for Hispanists)、 MOO (Notes 5.参照)としてはhttp://web.syr.edu/~lmturbee/mundo.html などがある。外国語として日本語を学ぶ学習者用メイリングリストとしては、Gakusei (listproc@hawaii.edu) などがある11)中国関係の時事情報 HP/メイリングリスト には CND: China News Direct (http://www.cnd.org/ ) 、中国語学習 HP としては http://www.marshall.edu/~jmullens/lang.htmlなどがある。ドイツ語の場合はhttp://www.sussex.ac.uk/langc/german.htmlなど、フランス語ロシア語の場合は http://www.sussex.ac.uk/langc/russian.html などがあげられる。英語以外の外国語では、国防省外国語学校のHP (http://lingnet.army.mil/)も有益であろう。

5. Internet の外国語教育研究での利用


5.1 E-mail、Mailing list、Newsgroup


e-mail は研究者間における情報交換の必須ツールとなっている。1対1の情報交換ばかりでなく、効率の良い複数間情報交換のためにメイリングリストを利用する研究者も増えている。日本の外国語教育関連メイリングリストに限って紹介すると、 lla-conf、net-lang 、jalt-call、eflj などがある。lla-conf は語学ラボラトリー学会 (LLA) のメイリングリスト(中部大学の大場毅氏らが中心)で、2月23日現在で登録会員数25名、通算メイル数104通である。討論内容は「メディアと外国語教育関係」である。残念ながら、LLA会員にもその存在が十分知られていないこともありトラフィック数が少ないが、今後の発展が期待される。登録方法は subscribe lla-conf と end (2文は改行しておく)からなるメイルを Majordomo@clc.hyper.chubu.ac.jp へ送付すると(電子メイルのsubject には何も記入しない)、折り返し使用法などが返信されてくる。登録後は lla-conf@clc.hyper.chubu.ac.jp へメイルを送れば登録会員にそのメイルが送付される。なお、登録後は自己紹介メイルをポストする事が望ましい。

net-lang はHyperMedia Works Group のメイリングリスト(中部大学の尾関修治氏らが中心)で、2月23日現在で登録会員数133名、通算メイル数1079通である。「デジタルメディアと外国語教育、デジタルメディアの情報、新しい教育の試み」などが議論されている。会員は外国語教育関係者ばかりではなく、そのためかえって議論の広がりが感じられる。登録方法は subscribe net-lang と end からなるメイルを Majordomo@clc.hyper.chubu.ac.jp へ送付すると(電子メイルのsubject には何も記入しない)、折り返し使用法などが返信されてくる。登録後は net-lang@clc.hyper.chubu.ac.jp へメイルを送れば登録会員にそのメイルが送付される。なお、登録後は自己紹介メイルをポストする事が望ましい。

jalt-call は全国語学教育学会 (JALT) のメイリングリスト(名古屋芸術大学のS. McGuire 氏らが中心)で、2月23日現在で登録会員数126名、通算メイル数2915通である。討論内容は「外国語(特に英語)教育一般」で、JALT会員の多くが英語を母国語とするため議論は英語で行われている。外国人教員の公募などの連絡もなされている。登録方法は subscribe jaltcall と end からなるメイルをMajordomo@clc.hyper.chubu.ac.jp へ送付すると(電子メイルのsubject には何も記入しない)、折り返し使用法などが返信されてくる。登録後は jaltcall@clc.hyper.chubu.ac.jp へメイルを送れば登録会員にそのメイルが送付される。なお、JALT会員以外でも登録できる。

eflj はHyperMedia Works Group が主催するメイリングリストの一つ(東海大学の朝尾幸次郎氏らが中心)であるが、大学英語教育学会 (JACET) の会員を登録メンバーに想定しており、「日本における英語教育全般」が主な議題になっている。なお、JACET会員以外でも登録できる。2月23日現在で登録会員数85名、通算メイル数155通である。登録方法は subscribe eflj と end からなるメイルを Majordomo@clc.hyper.chubu.ac.jp へ送付すると(電子メイルのsubject には何も記入しない)、折り返し使用法などが返信されてくる。登録後は eflj@clc.hyper.chubu.ac.jp へメイルを送れば登録会員全員にそのメイルが送付される。なお、登録後は自己紹介メイルをポストする事が望ましい。

外国語教育とは少し離れるが、コーパス(言語データベース)研究のメイリングリストCorpist (北大の園田勝英氏らが中心)などもあり、登録方法は subscribe corpist と end からなるメイルをMajordomo@ilcs.hokudai.ac.jp へ送付すると、折り返し使用法などが返信されてくる。登録後は corpist@ilcs.hokudai.ac.jp へメイルを送れば登録会員全員にそのメイルが送付される。

海外のメイリングリストとしては TESL-Lが知られており、登録にはlistserve@cunyvm.cuny.edu に宛てて subscribe tesl-l YourFirstname YourLastname (YourFirstname/Lastnameには個人名をローマ字で挿入)という文をsubject を空にして送付すると、折り返し使用方法などが返信されてくる。このメイリングリストは会員数が6,000人を越えており、一日あたり30通程度のメイルが届くことも希ではない。このためメイルボックスに制限のある商用パソコンネットワークから利用する場合には、メイルボックスがあふれないように毎日チェックするなどの注意が必要である12)。長期にわたりメイルボックスが開けられない場合には、 unsubscribe tesl-l という文を送付し登録を解除するほうが良い。

アジア諸国での英語教育に関するメイリングリストとしては、ELTASIA-Lがある。これは昨年10月よりタイのG. Williams 氏 (タマサート大学:gwyn@ipied.tu.ac.th) らを中心に始められたもので、主な討論内容はアジア諸国における英語教育の方法論、問題点、教師養成法、第二言語としての英語の特徴など多岐にわたっている。参加するためにはmajordomo@nectec.or.th へ subject を空にして、subscribe ELTASIA-L というメイルを送付すればよい。現在のところ、一日あたり4、5通程度のメイルが送付されている。

newsgroup を利用して研究活動を行うグループには misc.education.language.english、alt.usage.english などがある。登録の必要はなく、自由に内容を読み、投稿することができる。

5.2 WWW


WWWでも多くの研究情報が共有されている。例えば、オハイオ大学 (OU)CALL Lab のHP (http://www.tcom.ohiou.edu/OU_Language/OU_Language.html) では外国語教育・研究のための情報が数多く提供されている。さらにこのHPよりTeaching Resources HP (http://www.tcom.ohiou.edu/OU_Language/teachers.html) へ入りることが出来る。ここには英語、フランス語、ドイツ語、インドネシア語など色々な言語の resources が提供されている。このうちEnglish Resources HP (http://www.tcom.ohiou.edu/OU_Language/teachers-language-engl.html) には多くのリンクがはられており、画面上のボタンを押すだけでそのHPを呼び出すことが出来る。代表的なリンクとしては英語教師のための電子雑誌 EFL Web (http://www.u-net.com/eflweb/) やネットワーク上でのみ公開されている英語教育研究誌 TESL-EJ (http://violet.berkeley.edu/~cwp/TESL-EJ/index.html)、学会関係ではTESOLの情報などがある。オハイオ大学 CALL HP 以外では Yahoo の言語学研究HP (http://www.yahoo.com/Social_Sciences/Linguistics_and_Human_Languages/) 、the WWW Virtual Library の応用言語学 HP (http://www.bbk.ac.uk/Departments/AppliedLinguistics/VLProgs.html) 、ブリストル大学のEFL HP (http://www.ssa.bris.ac.uk/~edjmt/home/) 、Linguistic Funland TESL 研究 HP (http://www.scs.unr.edu/homepage/kristina/tesl.html)、日本の Internet TESL Journal (http://www.aitech.ac.jp/~iteslj/) 、Sussex 大学のCALL HP (http://www.sussex.ac.uk/langc/CALL.html) などがある。

日本の学会でもHPを持つところが多くなっている。外国語教育にのみ限定すると、LLAのHP (http://langue.hyper.chubu.ac.jp/lla/)、JACETのHP (http://langue.hyper.chubu.ac.jp/jacet/)、JALTのHP (http://langue.hyper.chubu.ac.jp/jalt/) などがあげられる。このうちLLAのHP(図1参照)は、中部大学の大場毅氏らの尽力で作成されたものである。現在のところ学会紹介、学会・支部情報、入会手続き、IALLへのリンクなどに限定されているが、今後は本格的な学術情報の提供も考える必要があろう。

5.3 Search Engine (検索システム)


 WWW上の膨大な量の情報を効率的に検索・収集するためにはKey Word 検索が重要になる。このKey Word 検索のためのシステムを search engine (以後、SE) と呼ぶことがある。代表的なSEとしては、初心者にも使いやすい Yahoo! のSE (http://www.yahoo.com/)、Yahoo! の子供向けバージョンである Yahooligan! のSE ( http://www.yahooligans.com/The_Scoop/Comics/)、HPの中にある語句までも検索できるOpenText のSE (http://www.opentext.com/) 、検索速度が世界最高といわれるAltaVista (http://altavista.digital.com/) 、登録サイト数が世界一といわれる Lycos のSE (http://www.lycos.com/) 、検索に利用したKey Wordと検索された内容の適合性を確率で示してくれるExcite の SE (http://www.excite.com/)、 欧文検索の際に英語アルファベット以外が使えるNTT通信技術研究所のSE (http://isserv.tas.ntt.jp/chisho/titan.html:試験運用中 ) などがある。日本語Key Word 検索としてはNippon Search Engine (http://www.juno.sf.keio.ac.jp/NSE-NS/) や NTT Directory (http://navi.sl.cae.ntt.jp/) などが知られている。ここで重要になってくるのはKey Word の設定の仕方であり、そこに研究者の思考の柔軟性が問われることになる。なお上記のSEは、現在のところ無料で使用することが出来る。また、このうち幾つかは、URLを打ち込まなくても、Netscape の HP (http://home.netscape.com/) 上からNetsearch を選択して利用することができる。

6. 今後の留意点:教育の観点から


6.1 情報倫理


I-net を教育で利用していく際に留意すべき第1の点は情報倫理であろう。情報を発信する立場におかれれた時、意図的な差別的発言はもとより、不用意な差別的発言をすることにより国際理解を妨げ偏見を助長する可能性がある。杉浦 (1995) は Cu-SeeMe の機能を利用中に遭遇した日本人に対する差別発言に関して言及し、I-net によって「国境がなくなる一方で、国意識による偏見が過渡的にでも 世界中で流れ出す危険性」があることを指摘している。外国語教育の目的の一つは国際理解である。その目的を達成するためにも、学習者に差別的発言の危険性・愚かさを、歴史教育などと関連させながら、十分に認識させた上で 利用していく姿勢が求められる。

ネット上でのエチケット(ネチケットと呼ばれる)に関しても徹底していく必要があろう。村井(1995) はネット上でも「いじめ」が発生していることを報告しているが、「いじめ」の他にも「中傷合戦」など、いわゆる flame/flame war と呼ばれる現象が 存在する。I-net を利用する人々に対してネチケットに関する啓発を行う必要は、今後ますます高まる可能性がある13)

I-net は自然発生的に拡がったもので、そこを流れる情報を検閲する管理者を持たない。そのため I-net 上では青少年の教育上問題のある情報も氾濫している。また、オンラインショッピングをめぐる詐欺まがいの行為や著作権侵害行為なども後を絶たないようである。このような状況を受け「ネット警察」を導入する提言なども出されている(朝日新聞、1995)。また実際に日本では、1996年2月1日にわいせつ画像をI-net 上で流したとして初の摘発が行われ (朝日新聞、1996)、米国でも2月8日に、I-net 上でわいせつ画像・危険な情報(e.g., 爆弾製造法)を流したものに対する処罰を定めた通信法改正案が可決されている(いわゆるDecency 法案:なお同改正法に対する違憲訴訟もなされており、1996年6月13日に違憲の判決が出された)。このような情報に対する検閲が起こらないようにするためには、利用者1人1人が自覚を持つしか方法がない。特に教員はどのようにして有害と考えられる情報を未成年学習者から遠ざけておくか、どのような発言が差別発言としてとられるのか、著作権の侵害とはどのような行為を指すのかといった問題を、教育への利用以前に組織的に検討・学習しておく必要がある14)

6.2 教育格差


第2の留意点は格差の発生である。I-net の恩恵を十分に教育・研究に生かすためにはそれなりの人的投資、設備投資、それに維持費用が必要となる。このような投資が不可能な、あるいは必要性を認識できない教育機関では次の時代に向けた教育を十分に展開することが難しくなる。その結果、インフラの違いにより歴然とした教育格差が生じる恐れがある(大前、1995)。日本の教育機関では図書館やAVセンターがインフラとして必要であるとの認識が拡がり、設備・内容が充実しつつある。しかしながらネットワークの必要性に関しては欧米の教育機関ほどには認識されていない。ネットワーク環境はすでに教育機関のインフラとなっていることを認識し、教育・研究環境の改善を図っていかなければ教育格差の問題が深刻化する可能性がある。教育格差はひいては社会格差を生み出す場合もあることを注意するべきであろう。なお、人的な面ではコンピュータリテラシーを十分持った教員の育成とそれを支援する技術スタッフの充実が急務と言えよう(竹内、1995)。

6.3 教育方法の転換


本論第3節でも指摘したように、I-net 社会では、教師は自分が教えられた一斉授業型の方略を見直し、学習者のfacilitator/adviser となるような新しい教育方略を採用していかなければならない。教育方略の転換は多くの負担を教員に強いるものではあるが、新しい教育を行う上では避けて通ることのできない重要なステップである。その際、どのような教育方略が有効なのか、さらには I-net を利用する方が本当に有効なのかなどの問題を教員自身が実証的に検討していかなければならない15)。I-net を万能と考えることは、I-net を避けて通ることと同様に危険な態度といえよう。

教育方法の転換と関連して、I-net を利用した外国語授業と利用しない外国語授業の連携も重要な問題といえる。現時点では、例えば複数の外国語授業が提供されている場合でも、I-net 利用の外国語授業と他の外国語授業とがあまり連携せずに行われている場合が多い。特に大学では教員の独自性が強いためその傾向は顕著である。しかし、これでは折角の利用も十分な効果を生み出せない可能性がある。外国語教育の目標を明確化させ、カリキュラムの全体像にどうI-net 利用の授業を埋め込んで行くのかを十分検討する必要があろう。また、コンピュータ・リテラシー教育や歴史教育の授業などとも連携をもたせていくことは、外国語授業間での連携と同様に大切な課題といえよう。

最後に、I-net の使用により直接体験が減少する(増加しない)ことが予想される。新しい教育方法ではこの点に対しても十分な配慮をしなければならない。間接体験で得られた知識・技術をどう直接体験へ転化していくか、仮想空間をどう現実空間とすり合わせていくかが今後の重要な研究課題の1つといえよう。

6.4 コミュニケーション・スタイル


I-net 上では言語重視で直線的論理を多用する欧米型のコミュニケーション・スタイルが主流である。そこでは以心伝心的要素を重視する日本人型コミュニケーション・スタイルは通用しない場合が多い。また、日本人学習者は外国語を利用して何を伝達したいのかという視点に欠けている場合が多く、伝達内容もデータの裏付けなどに乏しい場合が多い。室(1995) はこのようなコミュニケーション・スタイルの違いが、ネットワークの公用語ともなっている英語の運用力不足とともに、日本人にとって不利に作用する可能性を指摘している。外国語教育ではこのようなスタイルの違いを学習者に十分認識させる必要があるが、同時に欧米型スタイルに学習者を同化させるのではなく、必要に応じてスタイルの切り替えが出来るように指導すべきであろう。

7. おわりに


新しいメディアが台頭すれば、それに伴う摩擦が生じる。そのメディアが従来のアナログメディアをすべて取り込み、再編成する可能性を秘めたデジタルメディア ( I-net な ど)であればなおさらのことであろう。しかしこのような摩擦は、すべてのメディアの交替期に生じることであり、かならずしもI-net の登場に限られたことではない。我々にとって大切なのは、新しいメディアの登場に目を閉ざさず、常に学習者の利益(学習の進展)という立場から対応するという姿勢であろう。「I-net の有効性はまだ十分に立証されたわけではない」との立場をとる教員も多い。これはある面では真実かもしれない。しかし、その有効性の検討は利用の過程でのみ可能になる。I-net を利用しながらその利点・欠点を検証していくという姿勢は、特にLLAのような学会の会員には強く求められているのではなかろうか。I-net の利用から明らかになるであろう外国語学習過程に関する知見に期待を寄せながら本論を終えたい。

    

(Received: 1996.2.29)
(Revised: 1996.7.7)

Notes


*本論はLLA関西支部メディア部会(現在はマルチメディア&インターネット研究部会)での研究成果を一部利用したものです。作成にあたり Windows 関係の情報を提供下さった三根浩氏(同志社女子大学)に感謝します。本論中で紹介されているデータ(URL、価格など)は1996.2. 現在で確認されたもので、その後に変更された可能性もあります。なお、筆者への問い合わせは takeuchi@res.kutc.kansai-u.ac.jp までお願いします。

1) アンケート送付は1995年11月。有効回答は全国の大学427校中、297校。なお、同誌には短期大学でのHP開設調査も報告されている。

2) 100校プロジェクトに関しては、http://www.cec-jf.or.jp/CEC/100p.html を参照。

3) デジタル化とは、情報を0と1という2進法に変換し、コンピュータで処理できるようにすることを意味する。詳しくは竹内、三根 (1994)など参照。

4) I-net 関係の統計はこのftpサイト以外にも、http://www.netgen.com/info/growth.htmlなどから入手することが出来る。

5) SchMOOze のMOO とは、Multi-User Dungeons (MUD) のObject 指向版であるMUD Object-Oriented の略称。これを利用すると、参加者間のリアルタイムディスカッションなどが可能になる。WWW上でhttp://schMOOze.hunter.cuny.edu:8888/ としても利用できる。詳しいSchMOOze の利用法に関しては、淡路佳昌氏のHP (http://www.cc.rim.or.jp/~awaji/schMOOze/)より入手できる。

6) 商用パソコンネットワークからUNIXワークステーション(パソコンより高度な情報処理能力を持つコンピュータ)をtelnet で操作する場合、字化けを防ぐため日本語設定をEUC にしておく必要がある。

7) 音声データを保存するファイルの形式には au 、wav、ram、gsm など があり、au が最も一般的な形式(SoundMachine や naplay で再生する)。Windows の世界では wav 形式を利用することも多い。どちらの形式も音声ファイルを一旦パソコン側に転送、格納してから再生する形式である。これに対してram というファイルは RealAudio Player という再生ソフトを利用する形式で、この形式の場合、パソコンに格納せずリアルタイムで音声再生が可能となる。なお、RealAudio Player は http://www.realaudio.com より無料で入手できる。gsm は移動電話などでも用いられている形式で、http://www.cs.tu-berlin.de/~jutta/toast.html から再生ツールを入手することができる。最近では、音質重視のMPEG2と呼ばれる音声ファイル形式も増えている。これは動画ファイルの音声部分を用いたもので圧縮率も良いため、短い時間での転送が可能である。再生ツールは、http://www.iuma.com/ から入手できる。JPEG は静止画、MPEG は動画の標準ファイル形式の1つである。

8) 文科系大学生のリテラシー実態に関しては吉田、他 (1995) や 竹内、他 (1995) を参照。

9) HTML とはHyperText Mark-up Language の略称で、HP作成時に使用するコンピュータ言語の一種。詳しくは吉村、他(1995) などを参照。なお、最近では HP上でアニメーションや3次元画像を利用できるJava 言語が注目を集めている。Java 言語に関してはDecember (1995) 、中山(1996)などを参照。

10) Culture Assimilators とは、状況を設定し、その状況においてある特定文化に属する人物が行いそうな行動を選択肢の中から選ばせ、さらにその理由を検討させていく訓練用問題のこと。詳しくはSeelye (1984) などを参照。

11) subscribe LISTNAME YourFirstname YourLastname からなるメイルを本文中のメイルアドレスへ送ると登録(無料)できる。LISTNAME には、gakusei-1、 gakusei2-1、gakusei3-1のいずれか1つを入れる。gakusei 3 が上級者むけ。

12) 現在(1996/2/29)、NIFTY-Serve では50通が上限となる。ただし、1996年4月1日より200通まで拡張される。

13) 電子メイル関係ネチケットの例としては次のようなものがあげられる。a)メイルのsubject は半角英字とし、日本語などの2バイト言語を用いない、b) 英語で本文を書く際に大文字で単語を表記するのは極めて強い語調 (shout) になるので避けた方がよい、c) 本文は左揃えとし、適当な長さでリターンを入れておく、d) メイル末の署名は4行程度までに、e) 極端に長いメイルは避け、内容を明確にする、f) 相手のメイルの引用はほどほどに、g) 人を中傷するようなことを書かない、h) 著作権に気をつける、i) 商用利用(商品宣伝など)にならないよう気をつける、j) flame には近づかない。

14) 未成年者に、わいせつ画像や危険な情報を提供するHPを見せないようにするソフトウェア(SurfWatch など)も市販されている。なお、著作権に関しては岩村(1995) や中山 (1996)などを参照。著作権関係情報のHPとしては、 http://mci.rittor-music.co.jp/index.html./ がある。

15) I-net の使用がかえって生産性を低めるとの指摘も産業界ではなされている(朝日新聞、1996)。

References

Angell, D., and B. Heslop 1994. The Elements of E-mail Style. Reading: Addison-Wesley.
朝日新聞 1995. 4月10日夕刊記事、7月 31日朝刊記事
朝日新聞 1996. 1月12日、1月18日、2月1日、2月17日朝刊記事、2月23日夕刊記事
朝尾幸次郎 1995a. インターネット:語学教育革命の波  LLA(語学ラボラトリー学会)第45回中部支部研究大会発表(中部大学)
朝尾幸次郎 1995b. WWWによる情報発信型英語教育 ハイパーメディア研究会発表(中部大学)
Avots, J., and M.Grodberg. 1992. Telecommunications: Linking foreign language students to the global village. The Proceedings of the Second International Conference on Foreign Language Education and Technology. 247-255.
東淳一 1995. 個人輸入の実践とパソコン通信データの利用を通じたReading 指導の試み 『LLA(語学ラボラトリー学会)第35回 全国研究大会発表要綱』136-139.
ビトウイーン編集部 1996. 特集:インターネットが大学を変える 『ビトウイーン』1 月号
Campbell, DE. and M. Campbell 1995. The Students' Guide to Doing Research on the Internet. Reading: Addison-Wesely.
December, J. 1995. Presenting JAVA. New York: Sams Net.
Deci, E.L. 1975. Intrinsic Motivation. New York: Plenum.
Defense Language Institute, Foreign Language Center 1992. Video Teletraining Strategies. Monterey: DLI.
電気通信政策総合研究所 1995. 『商用インターネットワークの現状と課題』 (RITE92-J02b) 東京:(財)郵政国際協会、電気通信政策総合研究所
Engst, A.C. 1994. Internet Starter Kit for Macintosh. (2nd ed.). Indianapolis: Hayden Books.
Gardner, R.C. 1985. Social Psychology and Second Language Learning. London: Edward Arnold
浜野保樹 1995. 『大衆(マス)との決別』  東京:BNN.
長谷川剛 1995. インターネットの利用 『語学研究』(拓殖大学語学研究所)78, 41-95.
伊藤穣一(監) 1996. 『インターネット・イングリッシュ』 東京:ベネッセコーポレーション
岩村益典 1995. 忘れちゃいけない著作権のこと 『英語教育事典96』153-160. 東京:アルク
川浦康至 1995. 表現の蟻地獄から逃れるには 『マルチメディア学がわかる』 AERA Mook 7, 18-19. 東京:朝日新聞社
三宅なほみ、杉本卓 1985. 機能的な英語教育:コンピュータ通信機能を利用した実践 『青山学院女子短期大学紀要』 39, 65-77.
水越伸 1995. 朝日新聞朝刊記事(7月17日)
水越敏行 1995. インタラクティブという学習革命 『マルチメディア学がわかる』AERA Mook 7, 115-120. 東京:朝日新聞社
村井純 1995.『インターネット』 東京:岩波書店
室謙二 1995. 時代と日本のコミュニケーション 『マルチメディア学がわかる』 AERA Mook 7, 137-144. 東京:朝日新聞社
中山信弘 1996. 『マルチメディアと著作権』 東京:岩波書店
中山茂 1996.『HotJava 入門』 東京:工業図書
Negroponte, N. 1995. Being Digital. New York: Alfred A. Knopf.
西納春雄 1994. 英文記事コーパスと大型計算機上の簡易BBSを用いた時事英語教授の試み 『同志社大学英語英文学研究』64.161-177.
Nunan, D.(ed.) 1992. Collaborative Language Learning and Teaching. Cambridge: Cambridge Univ.
大前純一 1995. 情報テクノロジーのウエスタンが始まった 『マルチメディア学がわかる』 AERA Mook 7, 121-124. 東京:朝日新聞社
  Seelye, H.N. 1984. Teaching Culture. Lincolnwood: NTC.
清水真、山之上卓、藤木健士 1995a. 大学英語教育における分散ワークステーションシステムの使用 Discussion Paper 2, 20-23. LLA.
清水真、山之上卓、藤木健士 1995b. ネットワーク英語 『LLA(語学ラボラトリー学会)第35回全国研究大会発表要綱』 85-88.
塩沢正、今村洋美、Schiefelbein, S.、小栗成子、尾関修治 1995. インターネットを利用した英語コミュニケーション活動 『LLA(語学ラボラトリー学会)第35回全国研究大会発表要綱』81-84.
曽山典子 1994. 電子メイルを利用した国際教育交流 『第8回 私情教協会大会資料』 148-149.
杉浦正利 1995. hwg 1479 (1995/8/29) HyperMedia Works Group (HWG)メーリングリスト
Takeuchi, O. 1994 Language learning strategies in second & foreign language acquisition. 『同志社女子大学総合文化研究所紀要』8, 64-83. Also in 『英語学論説資料』26:5 (1994), 254-264. 東京:論説資料保存会
竹内理 1995. 情報化社会への対応:外国語(英語)科教職課程科目「教育と情報」のコース開発 『同志社女子大学学術研究年報 』45:1, 170-195.
竹内理 1996a. Internet と外国語教育 『英語教育への情熱:小田幸信教授古希記念論文集』 91-114. 京都:山口書店
竹内理 1996b. 一台のパソコンで広がる教育空間 LL Hotline 103, 22-33.  東京:日本ビクター
竹内理 1996c. インターネット英語学習法:ウェッブの音声英語に挑戦! English Network 6月号 30-33. 東京:アルク
竹内理、三根浩(編) 1994. 『情報化社会と外国語教育』  東京:成美堂
竹内理、三根浩、吉田晴世、吉田信介、長崎寿栄 1995. 情報機器の利用とコンピュータ不安に関 する意識調査(2) 『第9 回私情協大会資料』155-156.
田村毅 1996. 日本経済新聞朝刊記事(1月28日)
辻陽一 1995. Computer communication and language teaching: From e-mail to desktop videoconferencing. 1995年度語学ラボラトリー学会(LLA) 関西支部秋季研究大会 シンポジウム発表
吉田晴世、吉田信介、竹内理、長崎寿栄、三根浩 1995.  情報機器の利用とコンピュータ不安に関する意識調査:基礎的データの分析 『教育システム情報学会誌』12:2, 145-152.
吉村信、家永百合子、鎧聡 1995.『インターネットホームページデザイン』 東京:翔泳社
Warshauer, M. 1995. E-Mail for English Teaching: Bringing the Internet and Computer Learning Networks in the Language Classroom. Alexandria: TESOL.
Warschauer, M. (ed.) 1995. Virtual Connections Honolulu: SLTCC, University of Hawaii.