テーマ:「大阪市立大学電子出版システム」
発表者:北克一(大阪市立大学)
日時:1997年9月27日(土)15:00〜17:00
会場:大阪市立大学学術情報総合センター
<はじめに>
今回は図書館OPACの機能という側面から、今後の図書館の役割について考察がなされた。最近多く議論がされている電子図書館については、町の小さな公共図書館、大規模な公共図書館、そして大学図書館、専門図書館とでは有り様が異なると考えられるが、現在の議論はそれが混在した状態で行われているところに問題がある、という指摘がなされた後、ここでは「学術情報」、主として大学図書館(少し広げると専門図書館の一部も含めた)に限定するという前置きがあった。
<図書館OPACの歩み>
図書館の「蔵書」が紙媒体資料のみであった時代から、各種媒体資料さらにはデジタル資料と新たな媒体資料が増えていくのと並行して、アクセス提供形態もカード目録からOPACへ移行し、OPACの機能も拡張していったこと、OPACは初期には単にカード目録を物理的置き換えたものであったが、アクセスポイントと絞り込みキーの拡大が進んだこと、さらには、すでに実用化されているものもそうでないものも含めて、目録構造自体の拡張、検索手法の拡張、主題検索などへの取り組みが進んでいること、について詳細に述べられた。以下はOPACの世代進化のポイントを簡単に列挙したものである。
カード目録の物理的置き換えとしてのOPAC。対象資料も紙媒体資料に各種媒体資料が加わっていった。ホストコンピュータによって管理される自館閉鎖ネットワークで、発展形として書誌、ILL等ユーティリティに接続していった。
分散型コンピュータにより管理され、インターネットの空間に存在する。他のOPAC、商用データベース、その他へのゲートウェイ機能を持つが、まだそれらは個別な存在であり、それぞれの検索特性等を利用者が意識する必要がある。対象資料にはデジタル資料が加わってくる。
今後のOPAC。利用者にとってのシームレス化が進む。
OPACの機能拡張の歴史における積み残し課題として、次の諸点が指摘された。
<「蔵書」のデジタル化の持つ意味>
「蔵書」がデジタル化することによって、所有とアクセシビリティの間に桎梏が生じてきたこと、「著作権」典拠管理ファイルと利用者属性ファイルの維持により、アクセシビリティをシステム的に管理することが必要であること、課金情報管理システムが必要であることが指摘された。
<図書館OPACを越えて>
図書館OPACの今後の方向性および課題として次の7点が指摘された。
<図書館員の専門性と課題>
上記のような変化の時代における図書館員の専門性とは何か、そのための課題は何かということについて、テクニカルサービスとパブリックサービスに大別して述べられた。
テクニカルサービス面では、資源共有理念に加えて情報共有体制の確立が必要であること、ネットワーク環境の維持・管理が必要であること、オープン・ネットワークによってシステム・セキュリティの保持がますます重要であること、の3点が指摘された。
パブリックサービスに関わっては、ネットワーク・リテラシー、メディア・リテラシー教育、ネットワーク環境の諸ツールの利用教育等々、ユーザー支援サービスが必要であることが指摘された。
<さいごに>
しめくくりとして、何をデジタル化するのか、保持される情報と失われるものへの意識が重要となっていくこと、図書館員の「専門性」の裸の力が今問われていること、システムに完成はなく、外部情報源は絶えず変化しており、計画の定期的見直しが必要であること、などが指摘された。
<質疑>
1) OPACにおける検索結果の表示に関わって、利用者の使用した検索キーを手がかりにソートさせるような方法は、レスポンス・タイムなどシステムに多くの負荷がかかるのではないかという質問が出された。これに対して、ソートには、インデックスをその都度ダイナミックに作成してそれを手がかりにソートさせる方法と、「あらかじめインデックスを作成しておく方法とがある」、「ダイナミック・インデックスの場合は確かにレスポンス上問題がある」、「インデックスを予め作っておく方法の場合は、そのインデックスをいつ更新するか、更新までの間に追加されたデータの並べ順をどうするか、という問題を解決する必要がある」、と説明された。
2) 資料の電子化に関わって、SGMLの可能性について質問があった。これについては、法令情報や、大規模なメーカーのマニュアルなど、決まった形式の文字を主体としたものにとっては有効であること、標準のSGMLでは数式、画像が扱えないこと、拡張は可能だが標準ではないので他のシステムとの間でデータの交換ができないこと、との回答がなされた。
3) 「蔵書」の電子化にあたっては各人で「何を」電子化するかのプライオリティが異なるので、電子化の基準をどのようにして決定していけばよいのか、という質問があった。この問題はその組織の目的と密接に関わる問題で、組織全体として話合う機関を設けることが必要であるとの見解が示された。また、これは高額資料の購入やネットワークの構築などにおける意思決定と同じあり様であることが付け加えられた。
(文責:村上泰子)