「マルチメディアと図書館」研究グループ

第36回研究例会報告


テーマ:「神戸大学電子図書館システム−電子アーカイブ構築を中心に」

発表者:渡辺隆弘(神戸大学附属図書館)

日時:1999年7月24日(土)15:00〜17:00

会場:大阪市立大学学術情報総合センター


<はじめに>

今回は神戸大学附属図書館の渡辺氏を講師に迎え、電子図書館システム構築の概要をお話いただいた。神戸大学では、電子アーカイブだけでなく、学内蔵書検索や附属図書館案内、市販データベースの提供、などの機能も含めた全体を電子図書館と位置づけ、今年よりこの電子図書館システムを稼動させている。サービスは学内LAN(KHAN)を通じて提供されている。

<電子アーカイブ>

神戸大学の電子図書館は、貴重書や学内研究成果等の所蔵資料を電子化し、広く情報発信する外部発信型である。発信する情報としては、次のものがある。

  1. 阪神・淡路大震災関係資料   

    平成7年の震災を経験した地元大学として、これまでに「震災文庫」として網羅収集した多様な資料を中心に電子化したもの

  2. 経済・経営関係資料   

    商科を前身とする大学であることから、関連の貴重文庫資料や台湾、満州を含む新聞切抜資料を電子化したもの

  3. その他   

    紀要、学位論文、科研報告書等、学内研究成果物を電子化したもの

<震災資料>

震災文庫は現在約16,000件に達し、資料媒体も図書、雑誌からパンフレットやチラシ、ポスター、地図、写真、音声、映像、電子媒体に至るまで多様であり、資料の単位も抜粋、抜刷、切抜なども含まれる。また、震災関係の資料は二次資料類が未整備で、検索手段が確立していない。そのため、神戸大学では収集した資料を電子化して、多様な検索に対応できるシステムの構築を計画したのである。

<メタデータ>

震災資料の組織化における最大の特徴は、メタデータの整備を重視している点である。

震災資料のメタデータはDublin Core15項目を拡張して、約20の基本項目を加えたものである。

メタデータにはまず、リソース種別として「アーカイブ種別」(文庫の種類を示すもの。震災文庫、学内紀要、等)、「資料種別」(図書資料、雑誌資料等)、「エレメント種別」(シリーズレベル、ブロックレベル、章・節レベル、写真レベル、等)、の3種類の種別情報が付与される。

メタデータは、このリソース種別に応じた拡張項目をもつ。

また、メタデータ間の階層構造も維持されている。

一次資料はメタデータと一対一でリンクされるよう、ページごとではなく章・節等意味のあるまとまりでファイル化される。

メタデータはSGML化されるが、全文は資料に応じてPDF、HTML形式等で保存される。全文テキストのSGML化は考えられていない。

<その他>

検索システムはOpenTextによる全文検索で、階層関係の表示や複数ヒット時の統合に工夫がなされている。

メタデータは現在巻号レベルまで、一次情報は一枚もの資料の画像イメージまでが完了しており、より精細なメタデータの整備や、学内関係資料、ボランティア団体資料、写真資料などの一次情報の電子化が計画されている。

今後は震災資料のレファレンスデータベースとして十分なものとしてゆきたい、そのためにも検索機能を高めるためのメタデータの整備に力を入れたい、とのことであった。

<質疑>

開発費やメタデータ作成ペース等、システム運営面についての質問があった。メタデータへの関心も大きく、エレメント種別について幾つかの要素が交差しているのではないか、入力規則のようなものは維持されているか、といった質問がなされた。メタデータに関しては、現状の制約の中で苦心の末に決定したもので、完全なものとは考えていない、今後整備していきたい、とのことであった。

震災文庫の収集等に関しては『大学図書館研究』所収の次の文献に詳しい。

稲葉洋子「震災資料の保存と公開 : 神戸大学「震災文庫」を中心として」
『大学図書館研究』55 1999.3: pp.54-64

なお神戸大学附属図書館のURLはhttp://www.lib.kobe-u.ac.jp/

(文責:村上泰子)