「マルチメディアと図書館」研究グループ

第47回研究例会報告


テーマ:「スウェーデンの大学図書館--リンショーピン大学見学記」

発表者:山中節子(京都大学附属図書館宇治分館)

日時:2000年12月2日(土)14:30〜17:00

会場:大阪市立大学あべのメディックス7階会議室


<はじめに>

今回は今年8月にスウェーデン、ノルウェーを回られた山中氏から、スウェーデンのリンショーピン大学図書館のサービスについての報告があった。

リンショーピンは首都ストックホルムから電車で約2時間のスウェーデン内陸部に位置するまちである。軍のまちとして栄えたが、70年代以降は学校まちとして発展してきた。

<リンショーピン大学図書館>

リンショーピン大学は1960年代創立の、2学部1研究所と30ほどのセンターを擁する新しい大学である。学生数は院生をあわせて21000人強、教員約2000人、職員約3000人である。学費は全額政府によって負担される。

図書館は1969年に創設され、蔵書数は図書40万冊、雑誌6000タイトル、電子ジャーナル4000タイトル、職員数はホームページで確認できる限りで100名程度であった。6つの分館のうち、人文科学中心の館がメイン・ライブラリー機能を担っている。山中氏が主に見学された自然科学系の分館は職員12名。月曜日から木曜日までは夜10時まで開館している。文献複写等はメールでの受付が主である。ホームページを介して電子ジャーナルも利用可能であり、主題別リンク集も準備されている。分館とは別に保存書庫があり、分館から利用の申し込みを受け付けている。広報や利用案内のパンフレット等はほとんど作成していない。ホームページがそうした情報提供の主たる手段と位置付けられている。

Horizonという名前のOPACでは図書の予約ができる。他大学の所蔵状況は全国総合目録であるLIBRISによって確認できる。

ILLは学内者がリンショーピン大学に申し込む複写は40pで20クローネ(日本円で約240円)、連盟加盟校からの申し込みはその倍、加盟校以外ではさらに倍の料金となっている。現物貸借は北欧圏内は無料である。

1996年10月からは博士・修士論文のリストを中心に学内出版物の電子出版のサポートを開始した。それに先駆けて1992年からは文字コード問題等の困難も指摘されているが、北欧文学のボランティアによる電子化プロジェクト、ルーネベリ・プロジェクトを進めている。

<その他の図書館事情>

スウェーデンの全国総合目録LIBRISの作成は、王立図書館が担当している。スウェーデンだけでなくノルウェー、フィンランド等の研究図書館の所蔵情報も含まれるほか、有料・無料のデータベースの提供もこのLIBRISのシステムを通じて実施している。1988年からはLIBRISによるILL業務もスタートし、現在利用者からの直接申し込みを目指している。リクエスト数は1998年現在年間50万件である。

国の納本図書館には王立図書館のほか、ルンド大学、ヨーテボリ大学といった大学図書館も指定され、ルンド大学図書館はナショナル・レンディング・ライブラリーとしての機能も担っている。

<質疑>

山中氏は報告の最後に、今回スウェーデンを訪問された感想として「米国のような派手さはないが、世界の動きを見据えて現状で可能なことについては遅れをとることなく実践している着実さ」が印象に残った、コメントされた。

さらに着実さに関連して目録の遡及入力についての質問があり、スウェーデン最古のルンド大学でさえも遡及入力は完了しており、年代で分けてウェッブで公開していることが報告された。

その他北欧の最近の動きとして、北欧3国でインターネット上の情報源の法定納本制度がスタートしていること、他所に比べてインターネット上の情報の数が少ないからこそできることではないかという指摘があること、などについてフロアから情報提供があった。

(文責:村上泰子)