「マルチメディアと図書館」研究グループ

研究例会報告


テーマ:「カレントアウェアネス・ポータルとオープンソース」

発表者:村上浩介(国立国会図書館)

日時:2008年2月9日(土)14:30〜16:30

会場:佛教大学11号館


今回は国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係の村上浩介氏をお招きし、カレントアウェアネス・ポータルの構築の経緯についてお話しいただいた。

国立国会図書館では、1972年に雑誌『カレントアウェアネス』を創刊し、「図書館・情報センターの世界におけるカレントなトピックスについての解説記事」を館内向けに提供し始めた。1989年からは一般への販売を開始し、2002年の関西館オープンを機に、月刊から季刊に刊行頻度を下げ、その代わり内容を解説的なものにして分量も増やし、外部執筆者にも執筆依頼をするようになった。また、それと同時にメールマガジン『カレントアウェアネス-E』が月2回発行され、「解説ではなく事実を伝える短い」記事を提供することにより、紙版の間隙を埋める役割を担った。これらのコンテンツは2003年より、国会図書館のホームページ内の「図書館に関する調査・研究のページ」でも提供されている。しかしながら、こうした情報提供を行う中で「もっと早く、もっと多く、情報を発信したい」という思いが生じてきた。そうした課題を解決したのが、カレントアウェアネス・ポータルであった。

2005年時点で、情報量の増大、刊行のタイムラグ、ホームページ更新作業の負荷、情報の浸透不足といった課題が浮上しており、ブログ、RSS、CMSによる簡易なホームページの更新、リンク集を備えたポータルサイトの構築が目指された。そして限られた予算、限られた時間、限られたスタッフでこれを実現するために採られた方法は、ハードウェアはNDL内の既存機器を使い、ミドルウェア・ソフトウェアにはOSS(LAMPとXOOPS)を使い、スタッフが自前で構築するという方法であった。

こうして構築されたカレントアウェアネス・ポータルの2007年時点における評価ポイントとして、アクセス数が増大したこと、館内外や海外から好評を得たこと、職員の自己開発の機会となったこと、アクセスログや外部のソーシャルブックマークサービス等を利用したマーケティングが可能となったこと、読書からの情報提供やデータ利用申請が来るなど「つながり」が強化されたこと、が挙げられる。

その一方で、システムの不安定さ、メタデータがないこと、海外への情報提供の不足などの課題も上がってきた。特にオープンソースを使っているがゆえの課題として、オープンソースを作る"利己的動機"と、その途上で行わなければならない保守という"利他的行為"との相反がもたらす危険性が、ポータルを運用管理していく中でより身近な問題として迫ってきた。現在使用しているオープンソースが突然開発中止になる可能性もあること、何か問題が発生したときに誰かに対処してもらえると考えていてはいけない、最終的には自分たちで対応しなければならないことがあること、そして常にそれに対応できる職員が配置されているとは限らないこと、が今後の留意点である。

そのためには、スタッフの確保やスキルアップ、予算措置、ドキュメントの整備、協力者の発掘などが必要である。

ポータル構築にゴーサインが出るまでの意思決定の過程、OSSの解説も交えてお話いただいた。また、図書館におけるプログラミングスキルを持ったスタッフの重要性にも言及された。

(文責:村上泰子)