「専門演習」

「専門演習」2020年度

概要

テーマ:情報保障と言語権〜あなたが日本語と英語以外でできること

【情報保障について】

「情報保障」という用語は「知る権利」を保障する行為の意味で使われることが多い。誰の「知る権利」かというと、この社会の多くの人々(=多数派)がふだん使っている情報伝達の方法ではじゅうぶんな情報が得られない人の「知る権利」である。たとえば、視覚に障害があり駅の構内の案内表示が見えない人には、さまざまな代替的手段(たとえば、音声によるナビとか、点字の案内板)を用いて、構内の情報を手に入れられるようにしなければならない(保障をするのは、情報を提供する側の義務である)。これが「情報保障」である。

しかし、現代の日本社会は多くの移民を抱えており、日本以外のさまざまな地域の出自者とその子孫も、日本の社会の重要な構成員である。いろいろな出自の背景をもつ人々は、とうぜんながら、いろいろな言語的背景をもつ。つまり、多様な言語の使用者がいる社会では、多言語による情報保障にも切実なニーズがあるということである。

公共交通機関であっても、医療機関であっても、役所であっても、そして学校であっても、日本の社会で提供される情報は、日本語による情報が圧倒的に多い。日本に生まれてずっと日本に住み、日本語だけを使って成長すると(そういう人が日本では多数派である)、自分に必要な情報がすべて日本語だけで提供されても、何ら不都合を感じない。しかし、日本語の能力がさほど高くない人は、日本語だけでは困ってしまう。それは、旅行者(一時的ではあれ社会の構成員であることに変わりはない)であっても、長期滞在者であっても、移民とその子孫であっても同じである。

こうしたことを考えるとき、視覚や聴覚の障壁をもつ社会の構成員に対する情報保障が必要なのと同じく、多様な言語的背景をもつ構成員についての情報保障が必要なことがわかる。

この授業とこれに続く卒業演習では、これらの問題(上述の2種類の情報保障)に関する基本的な文献を読み、日本の状況を把握するのと並行して、実際に地域社会や各種機関に出かけ、「情報保障」の現状を探る活動をする。そして、自分が多少なりとも使える言語を使って、この社会に対して何ができるか、考えてゆく。

なお、日本では、日本語に次いで英語での情報が多く提供されているので、英語での情報保障は他の人に任せておく。外国語学部の学生は、日本語と英語以外の言語が多少なりともできるはずなので、その「多少」の能力でできることを考えていく。

【言語権について】

言語権とは、その人の民族性・国籍・属する集団の規模に拘わらず、公的な場であれ私的な場であれ、その双方の領域で意思疎通を図るために、自らの望む言語を選択する人権・市民権に関する権利のことである。

こんな例を考えていただきたい……ブラジルからやってきた家族の中のこどもが日本の小学校に通うことになったとき、さまざまな情報は、そのこどもが理解できる言語(例えば、母語である○ ○語とか、「やさしい日本語」とか)で提供されなければならない……これが「情報保障」である。

では、情報保障だけなされていればよいのか……そうではない。このこどもは、暮らしているのが日本であっても、自らがもっとも慣れ親しんでいる母語を日常の中でも使い、それを自分の中で発達段階に応じて育てていく権利を有する。また、母語でなくとも、自分を取り巻くファミリーが使っている言語を、ファミリーとのコミュニケーションのために使い、育てていく権利を有する。これが基本的人権の一部であるところの「言語権」である。いま、日本では、この権利の侵害がいたるところで起きている(これは「言語剥奪」と呼ばれる)。

また、言語権の問題は、「移民」に関してだけ起こるのではないことにも注意を向ける。「先住民族」の言語、ろう者にとってもっとも自然に習得できるはずの手話言語などの言語権についても考えていく。

この授業とこれに続く卒業演習では、情報保障と併せて、言語権についても、日本の社会が抱える問題点を探る活動をする。

計画

段取り

この期の成果物

授業を通して学んだ事実を振り返るレポート

4年次春学期「卒業演習a」の計画

「情報保障と言語権」に関して、自分がもっとも関心のあるテーマを選び、個人作業で調査を進め、随時、授業で報告をする。学期の最後には、秋学期の「卒業演習b」でおこなう作業の計画を報告する。この授業の成果物は、自分の調査報告と、秋学期の作業計画である。

4年次秋学期「卒業演習b」の計画

「情報保障と言語権」に関して、自分にどのような社会貢献ができるかと考え、実際にそれを遂行し、その成果を報告する。

科目一覧

学部専門科目

学部教科教育法

院(前期課程)