学習者にとって有益な用例を漏らさないためのフレームを考える

アウトライン

• 前提：用例はたいせつ
• 第1部
  • ことの起こり
  • “认识”の記述に欠けているもの
  • “介绍”の記述に欠けているもの
  • 日中辞書ならだいじょうぶ？
  • 漏れを防ぐには演繹的な手法が必要
  • “认识”を構成する参与者を考える
  • 付録：“考试”を構成する参与者を考えることによって得られるもの
• 第2部
  • “感冒”の記述に欠けているもの
  • 日中辞書ならだいじょうぶ？(2)
  • “感冒”の参与者？
  • 「風邪」に関する暗黙の了解／前提知識を明示的に記述する
  • 「風邪」のフレームおよびその上位フレーム（病気）

前提：用例はたいせつ

• その語のより深い理解のため
• 産出のためのガイド（とくに辞書しか頼るもののない孤立した学習者にとって）

第1部

ことの起こり

• “认识”の項を見ても，“介绍”の項を見ても「××の紹介で知り合った」のような用例（“经朋友介绍，蔡金柱认识了相关领导。”のように“经（过）”で「紹介者」を導入する用例）が得られにくい
• “感冒”を見ても「風邪をひいて学校を休んだ」（“感冒没去上学”）「風邪を引いて鼻水が出る」（“感冒流鼻涕”）「風邪を引かないように......」（“免得感冒”）ような用例が得られにくい

“认识”の記述に欠けているもの

※用例は，目下の議論に関係するもののみ（＝「人が人を知る」ばあいのみ）

《东方》

1. 你怎么跟她认识的？
2. 我们早就认识了。
3. 我们先互相介绍，认识一下。
4. 你不认识我了？

《讲谈》

1. 我不认识他
2. 我介绍你俩认识一下
3. 他们以前就认识

《小学》

1. 这个人我不认识
2. 你在哪儿认识她的？
3. 我介绍他跟你认识认识

《大修》

1. 我们一年前就认识了。
2. 我认识你很高兴。
3. 我们先自我介绍，认识一下吧。
4. 你怎么跟他认识的？
5. 他要认识你。

《白水》

1. 这半年我认识了不少朋友。
2. 我是去年跟他认识的。
3. 我们俩已经认识了一年多了。
4. 我一时不认识他是谁。

“介绍”の記述に欠けているもの

※用例は，目下の議論に関係するもののみ（＝「人が人を紹介する」ばあいのみ）

《东方》

1. 介绍对象
2. 介绍朋友
3. 让我给你们两位介绍介绍

《讲谈》

1. 介绍朋友
2. 把他介绍给大家
3. 他介绍我认识了小刘
4. 我来给你们介绍一下，这位是新来的李老师

《小学》

1. 自我介绍
2. 介绍对象
3. 我给你介绍一下，这就是王先生

《大修》

1. 我给你们二位介绍介绍
2. 给我们介绍介绍

《白水》

1. 我给你介绍一下，这位是张先生
2. 让我介绍一下儿参加会议的先生女士
3. 我把他介绍给你
4. 经过表哥介绍，我跟他成了学习上的好朋友
5. 他向我介绍她是从中国来的留学生
6. 介绍对象
7. 我介绍了他们三个人

日中辞書ならだいじょうぶ？

......そうでもない

※用例は，目下の議論に関係するもののみ（＝「人が人を知る」ばあいのみ）

《小学》：「知る〜知り合う」

1. 山本我很熟悉
2. 欸，你认识桥本吗？
3. 你知道那个人是谁吗？
4. 在街上经常有不认识的人向我打招呼
5. 你们两个是怎么认识的？
6. 你和她认识多长时间了？
7. 他们只相识三个月就结婚了
8. 我们刚认识马上就成了亲密知己

《讲谈》：「知る〜知り合う」

1. 陌生人
2. 昨天的晚会上净是不认识的人，很没意思
3. 我从小就认识他
4. 幸亏没碰上熟人
5. 我跟他并不是不认识
6. 我和他认识三年了
7. 我跟现在的女朋友是在音乐会上认识的

A辞典にはある，B辞典にはない......ではいけない（恣意的に用例を選んでいる？）

※用例は，目下の議論に関係するもののみ（＝「人が人を紹介する」ばあいのみ）

《小学》：「紹介」

1. 把女朋友介绍给父母。
2. 请按顺序自我介绍一下。
3. 介绍一下，这位是王敏教授。
4. 写推荐信
5. 介绍一下（我的）朋友铃木学先生。
6. 我是刚才承蒙介绍的佐藤商事的田中。
7. 是（经）山田经理的介绍，前来拜访的。
8. 能把我介绍给那个人吗？

《讲谈》：「紹介」

1. 介绍一下，这是我哥哥
2. 承蒙介绍
3. 正式地把她介绍给我父母了

漏れを防ぐには演繹的な手法が必要

• コーパスから帰納して漏れを無くす？→balanced corpusが存在するか？
• コーパスを利用すると思わぬ発見をすることはあるけれど，遺漏を防ぐことは......
• 演繹的に考える必要がある→記述する語彙が示す事象について，我々が暗黙のうちに了解している知識を明示的に体系化する必要

“认识”を構成する参与者を考える

フレーム意味論的アプローチ

Commercial Transaction Frame （Fillmore and Atkins1992, 79）

• 動詞: BUY, SELL, CHARGE, SPEND, PAY, PAY, COST
• フレーム要素: Buyer, Seller, Coods, Money

RISK frame （Fillmore and Atkins1992, 79—100）

• 語彙: RISK, (expose, invest, gamble, bet)
• フレーム要素: Chance, Harm, Victim, Valued Object, (Risky) situation, Deed, Actor, (Intended) Gain, Purpose, Beneficiary, Motivation

“认识”というフレームを構成するフレーム要素：

1. 未知の人と知り合うことになる主体
2. (1)と知り合いになる者
3. 経路
   • イベント
   • 仲介者
4. 時期
5. 期間

余談：“考试”のフレームを考えることによって得られるもの

「試験」には2種類ある〜(1)全体を指すばあい, (2)「測定行為」のみを指すばあい

受験者の募集→測定行為→結果発表

“考试”のフレーム要素

1. 全体の管理者
2. 測定行為の管理者
3. 受験者
4. 試験問題
5. 結果（合否，得点，等級...）

類意表現の記述に役立つ？

1. 考试[动词]
2. 进行考试
3. 举行考试
4. 实施考试

第2部

“感冒”の記述に欠けているもの

《东方》

1. 我感冒了

《讲谈》

1. 我感冒了
2. 多穿点儿，小心感冒
3. 可能是得了感冒
4. 流行性感冒

《小学》

1. 患感冒
2. 得感冒
3. 流行性感冒

《大修》

1. 感冒假
2. 得了感冒

《白水》

1. 我有一点儿感冒。
2. 患感冒
3. 流行性感冒
4. 感冒药
5. 我感冒了。

日中辞書ならだいじょうぶ？(2)

......そうでもない

《小学》：「かぜ」

1. 得感冒 / 患感冒 / 伤风 / 着凉
2. 感冒好了〔痊愈〕
3. 好〔容易〕感冒了
4. 感冒老也不好
5. 因感冒不去公司上班
6. 感冒很流行
7. 弟弟的感冒好像传染我我了
8. 今年的感冒好像还会闹〔拉〕肚子
9. 感冒恶化

《讲谈》：「かぜ」

1. （得）感冒 / 着凉
2. 患重感冒
3. 感冒越拖越严重
4. 感冒好了
5. 流感蔓延
6. 被弟弟传染上了感冒
7. 有点儿感冒，发低烧

“感冒”のフレーム要素を考えればよいか？

• Fillmoreらのフレーム意味論は，やっぱり格文法的？
• “感冒”という行為の参与者を考えるだけでは不十分
• 「風邪，早く直そうね」と言うためにはどんな知識が必要か？

「風邪」に関する暗黙の了解／前提知識を，それら相互の関係を論理的に規定することにより明示的に記述する

オントロジー工学的アプローチ（溝口2005, 溝口（編）2006） で，暗黙知，共有知の明示化

「風邪」のフレームおよびその上位フレーム（病気）

風邪

• 「風邪」は「病気」の下位フレーム
  • 原状回復の可能性が高い病気
  • うつる病気
  • コントロールできる病気（意図的に防げる／直せる）
• 特徴
  • さまざまな症状が出る
  • 症状が風邪を特徴づける

病気

• 「人間の身体の状態」の下位フレーム
• 構成要素
  • 原因
  • 部位
  • 症状
  • 対応行動（休息する，薬を飲む，医者に行く......）
• 参与者
  • 病人
  • 看護者
  • 治療者
  • 対応（治療行為）
  • 病気によって妨げられる活動

※協力：山崎深雪

結論

上記のようなフレームを設定したうえで，そのフレーム内の要素を記述できているかを検証すれば，用例の漏れを防ぐことが可能になるかもしれない。