テーマ:「マルチメディア資料と著作権−−最近の動向について−−」
発表者:村上泰子(梅花女子大学)
日時:1997年8月9日(土)15:00〜17:00
会場:大阪市立大学学術情報総合センター
<はじめに>
昨年、著作権と図書館との関わりを図書館の各活動ごとにまとめて以来、マルチメディア資料と著作権をめぐっていくつかの新しい展開が見られた。そこで今回は1996年末から1997年7月までの主として日米における最近の動向について報告した。
これまでの状況を簡単に復習したあと、この1年の動向を以下に示す5つの方向からとらえた。
<WIPO新条約関連>
WIPO新条約の大きな特徴として、送信そのものとアップロードのように公衆に利用可能な状態にすることとを含む「インタラクティブ送信」の権利、すなわち「伝送権」が新設されたことが挙げられる。このほか複製権については見送られたこと、発行の概念について削除されたことを指摘した。
WIPO新条約を受けて、著作権審議会マルチメディア小委員会が提出した審議経過報告の概要について報告した。その中で見送られたコピープロテクショ解除装置の検討を中心に、著作権管理情報改ざん規制へ
図書館と深い関わりのある公正使用の問題について、米CONFUが1996年12月に公表した「デジタル時代の公正使用に関するガイドライン中間報告」から、図書館と関わる部分の動向について報告した。ディジタルライブラリについてはまだ流動的であり、ガイドラインの策定が保留されている。
<著作権をめぐる技術的問題>
NTTやNECなどによる実用化の動きとその考え方について
ディジタル録音と同様、機器に補償金を上乗せする方法で合意
IBM、NTTなどが提案している著作権処理を考慮した課金システムについて紹介した。
<その他の著作権問題>
ワシントン・ポスト紙等8社が、それらのホームページに無断でリンクを張ったトータル・ニュースを相手取り訴訟を起こした件、DVDソフトの製作に障害となっている件、コンピュータソフトウェア著作権協会が無料改変ソフトのオンライン送信に対して警告した件、著作権処理仲介業等に言及した。
<暴力・猥褻情報、プライバシー問題など>
著作権処理の自動化とそれに伴う利用記録の追跡から波及する問題として、米国での通信品位法案への違憲判決とそれ以降の自主規制の動向(Eチップ制度、各種フィルタリングソフト、接続業者の自主規制)および日本における自主規制の動き、プライバシーの侵害や倫理問題との関わりを概観した。
<その他>
その他、やや関わりは薄いが、周辺問題としてインターネット自由貿易圏、資金洗浄阻止策、特許情報データベース、ネット配送小説を取り上げた。
<質疑>
1)技術的問題に対して、検索エンジンによる著作権侵害の問題、アクセス元のIPアドレスを自動記録するクッキー、さらにそれから派生するプットの問題について指摘された。
2)図書館との関わりで避けて通れない問題として小額課金問題があることに関わって、料金徴収方法についての言及が必要ではないか、また電子雑誌の問題はどうかとの指摘があり、これについては再度調査の後報告することとした。
3)無断リンクと関わって、サーバーにアップロードしている以上無断でリンクされることも認めていると解釈してよいのではないかという意見に対して、ホームページより下階層のページにリンクされた場合の問題として、広告主との関係が指摘された。
(文責:村上泰子)