テーマ:「電子的な学術情報サービスの現状と課題」
発表者:筑木一郎(京都大学附属図書館電子情報掛)
日時:2007年9月29日(土)14:30〜16:30
会場:京都大学時計台記念館
今回は京都大学附属図書館電子情報掛の筑木一郎氏に、京都大学における電子的な学術情報サービスの現状と課題についてお話しいただいた。
まず、電子的学術情報サービスを、学内の情報をデジタル化して学外に発信する情報発信と、学外の情報源を学内に提供する情報配信の2つの側面に分けて捉え、情報配信にはOPAC、データベース、電子ジャーナルなどが、情報発信には貴重資料画像、学術機関リポジトリ、学位論文DBなどがあると整理された。
次に、情報配信の代表的な存在として電子ジャーナルを取り上げ、中でも最近利用が増加しているリンク・リゾルバについて紹介された。リンク・リゾルバとは簡単に言ってしまうと、電子ジャーナルの記事などの所在(アドレス)情報をつねに最新状態に保ち、リンクの維持管理を行うソフトウェアを指す。現在いくつかの製品があり、京都大学ではSerials Solutions社のArticle Linkerという製品を導入した。これにより、電子ジャーナルリストの管理の改善を図るとともに、二次データベースから電子ジャーナルへのナビゲーションも格段に改善される。たとえば、これまでなら二次データベースで雑誌の記事情報を得た後、今度はその記事の掲載されている電子ジャーナルを別のリストで探さなければならなかった。しかし、リゾルバ導入後は、二次データベースから直接電子ジャーナルのフルテキスト記事にリンクが張られ、シームレスな利用が可能となる。実際、電子ジャーナルのリンク・リゾルバの利用は導入後約1年でブラウザからの利用を上回ったという。
リゾルバのポイントとして、ナレッジベースのスピード、正確さ、TargetへのOpenURL引渡し設定、Sourceの大きさ、Targetの多さ、メタデータの標準化を指摘された。今後考えられる展開として、はERMSや統合検索システムの導入などにより、より多様なリンクの提供と一層継ぎ目のない利用の実現へ向けての方向が示された。
次に、情報発信のひとつであるリポジトリ事業の現状と課題について報告された。まず京都大学のリポジトリ事業について、図書館を「エンジン役」として、全学一体となって「確かな"知"を社会に提供する取組み」を推進することを目的としたもの、と位置づけられた。本報告から、研究者にとってのメリット、また電子化のニーズを持つ各部局、とりわけ電子ジャーナル化の進んでいない領域にとってのメリットを明示することにより、全学一体の事業として推進していこうという取組みの一端がうかがわれた。これはまた課題でもあり、より広い範囲への広報、利用の促進、部局との連携が必要であることが示唆された。また著作権処理の困難もある。最後にこの事業が長期的に持続可能なものとして維持されていくためには、低コストで高効果を目指すことが必要であることが指摘された。
(文責:村上泰子)