第1章 今後の税制改革のあり方について

第1節 税制改革の課題と租税原則

短期的課題 経済活性化
長期的課題 高齢化への対応、地方分権の促進
 
租税原則 「公平」「効率」「簡素」

(1)公平性

水平的公平   同じ経済状態にある人々に対して同じ税負担を要求するもの
 クロヨン 納税者比率 
      合法的な節税
      所得捕捉率格差
         石(1979)、本間・井堀・跡田・村山(1984)、林(1985)
      所得税より消費税の方が水平的公平に合致
 
 
垂直的公平  異なる経済状態の個人間に異なる取り扱い
       消費税の問題点:税負担率の逆進性
       →複数税率化 例:イギリス、ゼロ税率
       →支出税の採用
         カルドア、ミード報告
 
     所得税は、累進課税の採用によって垂直的公平を満たすことができる。
 
 
「累進課税」
マスグレイブ=シンの累進性の定義
平均税率累進性:所得が上昇するにつれて税負担率が上昇する場合
 
フラット・(レート)・タックス
均一の限界税率と課税最低限を持つタイプの所得税制、線形所得税
 
課税最低限を300万円とし、税率を10%に一本化
(500-300)×0.1=20万円 負担率は4%
年収1000万円なら税額は70万円で負担率は7%
 
アメリカのホール・ラブラシュカ提案、財務省報告
 

(2)効率性

 1980年代 アメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権の誕生
               ↓
           新保守主義の台頭
 
サプライサイド経済学
 ラッファー・カーブ
 
最適課税論
 「次善(セカンドベスト)」の最適課税論
   1927年 ラムゼー
逆弾力性命題 ラムゼールール
需要の価格弾力性の高い財(奢侈品)に軽課、
需要価格弾力性の低い財(必需品)に重課
          ↓
        超過負担の最小化
 
最適所得税論
 マーリース 1996年にノーベル経済学賞を受賞
 
 
犠牲説
均等絶対犠牲説: 税負担による犠牲の絶対量を均等化
均等比例犠牲説:所得から得られる効用に占める税負担による犠牲の比率を均等化
最小犠牲説:社会全体の総犠牲を最小化
 
「最小犠牲説」≒最適課税論
 
Max   W=U(C)+U(C
Sub.to. T=T+T
 W:社会的厚生水準、U :第i個人の効用、Ti:第i個人の負担する税額、C(=Y−T):第i個人の粗所得をYとしたときの可処分所得
            ↓
        可処分所得の均等化
 
最適所得税論は、最小犠牲説を課税の効率性を配慮した形に精緻化したもの。
→能力の上限と下限で限界税率ゼロ、S字型の税率表が最適
 
簡素化
源泉徴収制度
 低コスト
納税者番号制度
  基礎年金番号、住民基本台帳番号制度
電子申告
 

第2節 税制改革の短期的課題

(1)景気の現状

 

(2)ライフサイクル消費の変化

図1-1 ライフサイクルの実質可処分所得と実質消費の推移(1940年生まれ)
図1-2 ライフサイクルを通じた実質可処分所得と実質消費支出の推移(1950年生まれ)
図1-3 ライフサイクルを通じた実質可処分所得と実質消費支出の推移(1960年生まれ)
 
 

(3)実効限界税率の変化

表1-1 所得税・住民税における実効限界税率の変化
所得分位
T
U
V
W
X
Y
Z
[
\
]
改革前 改革後
9.45%
10.95
10.95
10.95
15.61
15.61
17.61
17.61
26.40
29.08
9.45% 
10.95 
10.95 
10.95 
11.71 
15.61 
15.61 
17.61 
17.61 
26.40










 
出所:橋本恭之『税制改革の応用一般均衡分析』関西大学出版部、87頁
 

第3節 税制改革の長期的課題

(1)所得税改革の課題
(2)法人税改革の課題
(3)資産課税の課題
(4)地方税改革の課題


[Reading List]
石弘光(1979)『租税政策の効果−数量分析』東洋経済新報社.
石弘光(1990)『税制のリストラクチャリング』東洋経済新報社.
石弘光(1991)『土地税制改革』東洋経済新報社。
石弘光(1993)『利子・株式譲渡益課税論』日本経済新聞社
井堀利宏(1984)現代日本財政論』有斐閣.
大蔵省財政史室編(1990)『昭和財政史昭和27〜48年度第6巻租税』東洋経済
大阪大学財政研究会編(1985)『現代財政−理論と政策−』創文社.
貝塚啓明(1986)「税制の基本的改革の方向[2]所得税」『日税研論集』Vol3.
貝塚啓明・石弘光・野口悠紀雄・宮島洋・本間正明編(1991)『シリーズ現代財政(全4冊)』有斐閣.
貝塚啓明編(1994)『日本の税制システム制度−設計の構想』東京大学出版会.
貝塚啓明(1996)「日本経済の構造的変化と税制改革の方向性」『税研』
貝塚啓明(1997)「基調講演「日本の税制改革」」本間正明・齊藤慎編『どうする法人税改革』納税協会連合会
木下和夫(1992)『税制調査会−戦後税制の軌跡』税務経理協会
佐藤博編(1998)『現代税制の課題』晃洋書房.
佐藤英明(1999)「納税者番号制度導入の可否−論点の整理」『税研』Vol.14,No.83.
佐藤英明(1998)「アメリカ連邦税における電子申告制度の展開とわが国への示唆−申告形態の多様化の可能性」『税研』Vol.13,No.77.
税制調査会編(1987)『税制の抜本的見直しについての答申・報告・審議資料総覧』大蔵省印刷局.
税制調査会編(1964)『「今後におけるわが国の社会、経済の進展に即応する基本的な租税制度のあり方」についての答申及びその審議の内容と経過の説明』大蔵省印刷局.
税制調査会編(1964)『税制調査会基礎問題小委員会』委員・専門委員報告書.
野口悠紀雄(1984)『公共政策』(モダン・エコノミックス)、岩波書店.
野口悠紀雄(1989)『土地の経済学』日本経済新聞社.
野口悠紀雄(1989)『現代日本の税制』有斐閣.
野口悠紀雄(1994)『税制改革のビジョン』日本経済新聞社.
野口悠紀雄編(1994)『税制改革の新設計』,日本経済新聞社.
中井英雄(1988)『現代財政負担の数量分析』有斐閣
橋本恭之(1997)「累進課税とフラット・タックス」『税研』Vol.12, 48-53.
橋本恭之(1998)『税制改革の応用一般均衡分析』関西大学出版部.
橋本恭之・上村敏之(1997)「村山税制改革と消費税複数税率化の評価− 一般均衡モデルによるシミュレーション分析−」『日本経済研究』No.34, 35-60.
橋本徹・山本栄一編(1985)『日本型税制改革』有斐閣.
八田達夫(1989)『直接税改革』日本経済新聞社.
八田達夫(1994)『消費税はやはりいらない』東洋経済新報社.
八田達夫・八代尚宏編(1995)『弱者保護政策の経済分析』日本経済新聞社.
藤田晴(1992)『所得税の基礎理論』中央経済社.
古田精司(1993)『法人税制の政治経済学』有斐閣
本間正明・跡田直澄編(1989)『税制改革の実証分析』東洋経済新報社.
本間正明・井堀利宏・跡田直澄・村山淳喜(1984)「所得税負担の業種間格差の実態−ミクロ的アプローチ」『季刊現代財政』第59号.
本間正明・宮島洋『3日間の経済学財政入門』JICC出版.
本間正明・大田弘子編『民から改革』清文社.
宮島洋(1986)『租税論の展開と日本の税制』日本評論社.
宮島洋(1992)『高齢化時代の社会経済学』岩波書店.
八代尚宏編(1997)『高齢化社会の生活保障システム』東京大学出版会.
吉田和男(1996)「消費税率をどこまで上げるべきか」『税研』96年7月号.
吉田和男(1998)『財政改革が日本を救う−高負担社会からの脱却』日本経済新聞社.
吉田和男(1998)『地方分権のための地方財政改革』有斐閣
吉田和男・八田達夫(1998)「特別対談:景気後退下の税制改革」『税研』

Brown,C.V. & P.M.Jackson (1978), Public Sector Economics, Martin Robertson
& Company, Ltd.1978.(大川政三・佐藤博監訳『公共部門の経済学』マグロウヒル好学社、1982年)
Kaneko,M.(1982),“The Optimal Progressive lncome Tax:The Fxistence and the Limit Tax Rates",Mathematical Social Science, 3,193-222.
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Mirrlees, J.A.(1971)," An Exp1oration in the Theory of Optimal lncomeTaxation",Review of  Economic Studies,31,175-208.
Musgrave,R.A.and P.B.Musgrave,Public Finance in Theory and Practice,5th ed., McGraw-Hill.(木下和夫監修大阪大学財政研究会訳『マスグレイブ財政学−理論・制度・政治−』T,U,V,有斐閣,1983年〜1984年)
Stern,N.H.(1976),“OntheSpecification of Models of Optimum IncomeTaxation",Journal of Public Economics, 6, 123-162.
Tuomala,M.(1984),"On the Optimal Income Taxation: Some further numerical results", Journal of Public Economics, 23, 351-366.
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