第7章 地方交付税

7.1 地方交付税の意義

<財源保障機能>

財源保障機能:どの地方団体においても最低限必要な行政サービス水準、ナショナル・ミニマムを確保するもの
                       ↓
 ただし、現実にはどこまでがナショナル・ミニマムとしての行政サービスの範疇に入るかの線引きは難しい。

 

図7-1 日本国憲法第25条
(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生
  の向上及び増進に努めなければならない。
  

<財政調整機能>

 財政調整機能:経済力の低い地方団体に手厚く配分することで、地域間再分配(財源の均衡化)の役割を果たす。
                                ↓
                         間接的な財政調整

 

<国と地方の財源配分機能>

   国税収入の一定比率が交付税財源となる
   基礎的な行政サービスの水準としての基準財政需要によって実際の配分額が決まる
               ↓
     国と地方の財源配分機能も果たしている。
 

7.2 地方交付税の仕組みと現状

<地方交付税の概要>

地方交付税  普通交付税 交付税総額の96%が普通交付税(2015年度までは94%、2016年度は95%)
         特別交付税  災害など特別な財政需要のある地方団体のみに交付される
                   →東京都も含めてほとんどの地方団体が特別交付税を交付されている。
 

<入口ベースの交付税−交付税財源の決定> 

図7-3 地方交付税財源の算定       

交付税財源=(所得税+法人税)×33.1%(2015年度から)
         酒税×50%(2015年度から)
         消費税×22.3%(2014年度から)
         地方法人税の全額(2014年度から)

         

 

 

<出口ベースの交付税−地方団体への配分>

各団体の交付税額:基準財政需要額と基準財政収入額の差額
                ↓
地方団体に配分される交付税総額(交付税特会から見れば出口ベース)は、各団体ごとの差額を合計したもの
 
<基準財政需要額の算定>

 基準財政需要:各地方団体が行政サービスを行うために必要な財政需要を各々の行政項目ごとに経常的経費、投資的経費として算定した合計額

 基準財政需要額
    「行政項目」1.消防費、2.土木費、3.教育費、4.厚生費、5.産業経済費、6.その他の行政費、7.公債費、8.農山漁村地域活性化対策費に大きく分類

    「測定単位」行政項目に係る財政需要の大きさを合理的・客観的に反映する指標
            →消防費についてはその自治体の人口、教育費については児童数や学級数など

    「単位費用」自治体が標準的な行政を行う場合に必要な一般財源の額を、測定単位1単位当たりで示したもの



    「補正係数」各地方自治体の自然的・社会的条件による行政経費の差については測定単位の数値を割り増しまたは割り落とすために使用
       →人口の大きさによる規模の経済を考慮する段階補正、人口密度等を考慮する密度補正、都市化の程度などによる財政需要の差を考慮する普通態容補正
 
   各行政項目の基準財政需要額=測定単位×単位費用×補正係数
 
 
<基準財政収入額の算定>

 基準財政収入額=標準的な地方税収×75%+地方譲与税等
   

   25%相当は留保財源
           ↓
  ・各地方団体に地方交付税の基準財政需要に反映されない自主的な施策を実施する余地を残しておくため
  ・各地方団体の税源拡大へのインセンティブを確保するため

*三位一体の改革
「税源移譲等に伴う増収分については、当面基準財政収入に100%算入」
→団体間の収入格差拡大を防ぐため

 
<地方交付税の地方団体ごとの配分>

図7-5 地方交付税の配分の仕組み

 

 

 

<地方特例交付金>

*1999年度(平成11年度) 「第一種交付金」
(当該年度の恒久的な減税に伴う減収見込額の総額の4分の3に相当する額から、国と地方のたばこ税の税率変更による地方たばこ税の増収措置及び法人税に係る地方交付税率の引上げによる措置額を控除した額)

 1999年度からの恒久的な減税による地方税の減少を補填
                    ↓
当分の間、都道府県、市町村及び特別区に地方特例交付金が交付

1999年度の決算額  地方特例交付金の金額 6,399億円


*2003年度(平成15年度) 「第二種交付金」 国庫補助負担金の見直しに伴う暫定措置
   →2004年度 「第二種交付金」廃止

  2005年度 税源移譲予定特例交付金創設 義務教育費国庫負担金の減額に対応
   →2006年度  税源移譲予定特例交付金廃止


2006年度 児童手当特例交付金創設    児童手当対象年齢引き上げと所得制限の緩和の地方負担増への対応

2008年度 減収補填特例交付金     三位一体の改革により低所得層が国税で住宅ローン減税の恩恵を受けられなくなったため
                          国税で控除できなくなった部分を個人住民税から控除することへの対応

2010年度 子ども手当特例交付金   民主党政権での子ども手当創設への対応

2012年度 児童手当及び子ども手当特例交付金と減収補填特例交付金(自動車取得税分)廃止

                         ↓
     地方特例交付金は、住宅ローン減税の地方負担分をおぎなう制度へ
   

<地方交付税の現状>


普通交付税の金額

  平成27年度(2015)
       総額    15兆 7,495億円 
       道府県分  8兆 3,705億円
       市町村分  7兆 3,790億円
 

P143
図7-6 地方財政の歳入構造の推移


90年代に拡大、2000年代低下傾向

 

表7-2 不交付団体の推移


不交付団体数
  平成27年度
  
交付 不交付
道府県分  46     1
市町村分 1,659    59


7.3 交付税改革の課題

<シャウプ勧告における地方財政平衡交付金>
 1949年のシャウプ勧告  
    国税と地方税の税源の分離原則を採用
    地方財政平衡交付金を導入
         ↓
     交付額の総額は各地方団体の不足額を積み上げたもの
     しかし、現実には毎年度の平衡交付金の総額が現実の地方財源不足額を大きく下回り、地方団体の不満を生じていた
          ↓
     地方交付税では、国税収入の一定割合を自動的に交付
          ↓
      地方交付税の国税へのリンクは、地方団体の財源確保には貢献してきたが、地方団体が安易に地方交付税に依存する姿勢を助長

<交付税財源を大きく上回る交付額>

P146 
図7-7 交付税財源と交付税決算額の推移


 
財源不足額
交付税特別会計の借入金でまかなってきた。
   ↓
2001年度(平成13年度)
 国の一般会計からの臨時財政対策措置分
 地方自治体が自ら借り入れを行う「臨時財政対策債」
   ↓
ただし、その償還は、将来の地方交付税によって措置されることになっている。


  
<基準財政需要額の算定方法>
 基準財政需要のほとんどは人口で説明可能
 人口1人当たり基準財政需要額を各団体の人口(対数変換した値)で回帰
 
                                         自由度修正済み決定係数
1985年度 −3626.1+165.1×ln(人口)+20666.4×1/ln(人口)  0.851
1990年度 −5510.1+248.2×ln(人口)+31594.9×1/ln(人口)  0.889
1995年度 −7044.4+316.7×ln(人口)+40430.4×1/ln(人口)  0.903
1999年度 −7385.7+332.4×ln(人口)+42489.2×1/ln(人口)  0.893
 
  
P148
図7-8 人口1人当たり基準財政需要額と人口の相関

 
 
H19年度  包括算定経費(新型交付税)の導入
         人口と面積を基本とした簡素な算定をおこなう新型交付税
       
@ 「国の基準付けがない、あるいは弱い行政分野」(基準財政需要額の1割程度)の算定について導入
A 人口規模や宅地、田畑等土地の利用形態による行政コスト
差を反映
B 算定項目の統合により「個別算定経費(従来型)」の項目
数を3割削減
C離島、過疎など真に配慮が必要な地方団体に対応する仕組
みを確保(「地域振興費」の創設)

<交付税改革の方向性>
 
 国と地方の財政調整機能とナショナル・ミニマムを達成させるための地方の財源保障機能は、国と地方の役割分担を見直すことで対処すべき。
                                    ↓
           義務教育や生活保護などをナショナルミニマムと位置づけるのであれば、財源面で全額国の負担とするのも1つの方策
                                     ↓
             地方交付税の機能を地方団体間の財政調整に限定すれば、交付税の規模を大きく抑制することになる

 
7.4 諸外国の財政調整システム
<諸外国の国と地方の財政関係>
 単一国家     中央集権的な側面を持つため、地方政府の財源不足額を中央政府が穴埋めするという財源保証的な財政調整制度を持つことが多い
 連邦制の国家  地方政府間の財政格差を縮小するための最小限の財政調整制度
 
<イギリスの歳入援助交付金>
 1988年の地方財政法に基づいて90年から実施 歳入援助交付金(Revenue Support Grant)されている。

  歳入援助交付金=標準支出査定額−(事業用レイト配分額+標準カウンシル・タックス)
 標準支出査定額(Standard Spending Assesements) 平均的な地方団体の財政需要を測定するもの
 事業用レイト(Non-Domestic Rates)   1990年から国税化されたものであり、一般交付金として各自治体へ人口比で配分
 標準カウンシル・タックス(Counsil Tax for Standard Spending )  仮に全国一律の税率で課税した場合のカウンシル・タックス
                            ↓
標準的な財政需要から、地方の標準的な税収を差し引いた差額が歳入援助金として交付
歳入援助交付金が負の値になる場合には、不交付団体

 

<ドイツの調整交付金>

 州相互間での水平的な財政調整制度としての調整交付金が存在
  ・財政力測定値が調整額測定値を上回る場合には、その州は拠出
  ・財政力測定値が調整額測定値を下回る場合には、その州には交付金が配分

 財政力測定値とは、州の財源の豊かさを計るもので、州税収に市町村税収の半分を加え、港湾費用を控除したもの
 調整額測定値は、平均的な州の財政需要を測定するものであり、連邦全体の1人当たり平均財政力測定値に補正州人口を乗じたもの

<アメリカの歳入交付金制度>

 1986年に廃止されるまでは、歳入交付金(General Revenue Sharing)が存在
                  ↓
3要素方式(人口、課税努力、人口1人当たり所得の逆数を配分のウェイトとして採用)と5要素方式(3要素方式プラス都市人口と所得税収入をウェイトとして採用)で求めた値のうち、いずれか高い方で各州に、連邦政府から一般補助金として交付するもの
                   ↓
歳入交付金は、州や地方政府政府の歳出の非効率性を生じる恐れがあるなどの理由で廃止された。


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