400字要旨:
2005は辞書における動詞と名詞の品詞表示の分布と兼類の理論的解釈を試みたが,本研究では特に,動詞と名詞にどのような用例を掲載するのが適切かという問題について検討する。本研究はいわば山崎2005のコンセプトを活用し,三宅2005を発展させたものとして位置づけられる。
サンプルとして,“调查”“研究”などのような動詞と名詞の兼類として扱われることの多い語の中から,用例の豊富なものを中心に取り上げる。
まず近年日本で出版された辞書における記述から,“研究自然科学”のように目的語を伴う動詞としての典型例,数量詞の修飾を受ける名詞的な用例というように,いくつかの用例パターンを抽出する。次にその辞書の品詞表示が用例に適切に対応しているかどうかについて分析を加え,問題となる用例提示の例を批判的に検討することを通じて,学習者にとって適切な用例とは何かについて建設的な提案を行いたい。
本研究では,中国語の動詞と名詞の区分と辞書における用例提示の問題について述べる。三宅2005では様々な辞書における動詞と名詞の品詞表示そのものの分布と兼類の理論的解釈を試みたが,本研究では特に,動詞と名詞にどのような用例を掲載するのが適切かという問題について検討する。本研究はいわば山崎2005のコンセプトを活用しつつ,三宅2005を発展させたものとして位置づけられる。
主に日本で出版された辞書5種における用例を調査する。議論の過程で中国で出版された辞書の記述にも触れる。
サンプルとしては,動詞と名詞の兼類として扱われることの多い,三宅2005で調査した100語の中から,用例の豊富なものを中心に取り上げる。また,これら以外の語についても,辞書記述上問題となるケースがあれば随時取り上げる。
それぞれの辞書の用例を,形式面から分類・整理する。すなわち,目的語や補語を伴う例,アスペクト助詞を伴う例のような,動詞らしい用例や,数量詞の修飾を受ける例のような名詞らしい用例,さらにはそのいずれの品詞とも理解しうるような用例というように,品詞ごとに多い用例パターンを抽出する。次にその辞書の品詞表示が用例に正確に対応しているかどうかという観点から実例を分析し,問題となる用例提示の例を批判的に検討することを通じて,学習者にとって適切な用例とは何かについて建設的な提案を行いたい。
400字要旨:
本報告は,現代中国語における動詞と前置詞の間に存在するコロケーションが現行辞書の中でどのように記述されているかその現状を概観し,また,どのように記述すべきかについて,中国語教学の観点から検討しようとするものである。
一般に前置詞の選択は,(1)動詞との結びつき(给~介绍,跟~联系,为~服务),(2)目的語との関係(上下関係など,例:向/给~介绍),(3)動詞の文体的特徴などの条件が絡み合って行われていると考えられる。したがって,辞書の記述にそれが反映されていれば,非母語話者である我々にとって非常に有益である。本報告では,前置詞を用いることの多い動詞をいくつか選び,各辞書の記述を比較し,使用頻度や複数の前置詞を用いる場合の相違点について述べ,動詞に関わる前置詞の記述を辞書でどう行うべきかについて問題提起をしたい。
人は言葉を発するとき,文章を作る際に必要な前置詞を選んで作っている。
いずれにせよ,これらの条件が絡み合って前置詞を選んでいるとしたら,辞書の記述にそれが反映されていないといけない。
もちろん,使用頻度も考えて記載されていることが好ましい。
あまりにも頻度の低いコロケーションを載せる必要はないだろう。
ただ,高度に使いこなす場合にはこれも必要になるだろうか。
400字要旨:
ウェブ上で“认识”の用例を検索すると,“经朋友介绍,蔡金柱认识了相关领导。”のような構造の文を多数得ることができる。しかし,既存の辞書では,この種の用例は見られない。つまり,学習者にとり利用価値のある有益な構文を提示しそこなっているということである。しかし,これまでに構築されてきた格フレーム(動詞と共起する項との組み合わせを公式化したもの)では,このような用例を捉えきれないかもしれない。
このような漏れを防ぐためには,ある行為(例えば「认识/知り合う」)を構成するさまざま要素(行為の参与者,行為成立の前提,行為の結果が含意する状態……)を図式化した「フレーム(知識の総体)」を規定し,それにより漏れている事項の有無をチェックする必要がある。本報告では,この観点から,Fillmore and Atkins1992などで提案されているフレーム意味論を援用して語彙を記述することを試みる。
ウェブ上で “认识 ”の用例を検索すると,次のような用例が頻出する(辞書ではふつう取り上げられていない)。
上記の例の“经(过)X”は,一般に使われる格フレームの任意項の範囲内だろうか,そうではないだろうか?また,このような用例(重要な用例だと思われる)の脱落を防ぐためには,どのような枠組みが必要だろうか?それに対しては,Fillmore and Atkins1992で提案されているようなフレーム意味論が解決策になるかもしれない。
フレームとは語の意味を規定する背景となる図式化された場面であり,それは特定の文化の中で,人々の日常の活動を通じて形成された経験的知識である。言い換えれば,言語表現の意味を規定するには,そのような背景知識からいかなる選択が行われたかを明らかにすることが必要となる(大堀2005より引用)。
“结婚”の用例を検索すると,次のような多数の用例を見つけることができる。
上記の,いわゆる可能補語が動詞に付加された形式“结不R”のうち幾つかは,辞書に載せる価値がある形式であろう。
また次のように,「結婚したらどうなる?」を問題にする例も多くある。 このような文例も必要であろう。
また,「結婚」にいかに多くの修飾語がつくかは,驚くばかりである。以下のとおり。
言うまでもないことだが,上記の3種の用例は,“结婚”が離合詞であることを理解するために欠かせないと思われる。
これらの例を拾うためには,やはりコーパスを利用するしかないのだろうか。コーパスを利用すれば,これらの例が漏れるのを防げるのだろうか。
しかし,上記の用例を重要だと判断し拾い上げるためには,「結婚」に対する次のような背景知識が必要だと思われる。
このような観点から,重要な事項の脱落を防ぐための枠組を考えていきたい。
近年,知識工学の分野では,「オントロジーの構築」が議論されている。ここでいう「オントロジーontology」とは,哲学の分野の主題であった「実在論,存在論」とは,やや趣を異にするもので,「人がある物に対して共通合意としてもっている知識や暗黙の了解など複数の概念を,それらの関係をも含めて,メタ言語でもって,明示的な仕様として記述したもの」と定義できる。
この報告では,例えば,“感冒”のオントロジーを構築してみたらどうなるかという試行をし,それが“感冒”に関わる有益な用例を拾いあげるのに役立つかどうかを検証してみたい。
“感冒”のオントロジーは,次のようになろうか(ここでは,記号を用いて記述せずに,自然言語で記述してある)。
上記のような知識の明示が用例に構築に役に立つかどうか,試してみたい。
Fillmore, C.J. and Atkins, B.T.S. 1992. "Towards a frame-based organization of the lexicon: The semantics of RISK and its neighbors." Lehrer, A and Kittay, E. (eds.) Frames, Fields, and Contrast: New Essays in Semantics and Lexical Organization. Hillsdale: Lawrence Erlbaum Associates. pp.75−102.
大堀壽夫. 2005. 「語彙記述におけるフレーム意味論」.日本認知言語学会論文集(JCLA)第5巻,pp.617−620.
溝口理一郎. 2005. 『オントロジー工学』. 人工知能学会(編集), 東京: オーム社.
400字要旨:
語義の記述は辞書の中核をなす。しかしながら,中国語辞書については,その内容については深い議論がなされていない。本報告では,遠藤2005を踏まえ,中国語辞書における常用多義語の語義項目の記述,(1)語義項目の配列と(2)語義項目数について議論する。
語義の配列方法には,(1)頻度順,(2)年代順(語義派生順),(3)意味関係順の3通りがある。本報告では,(3)意味関係順が当該見出し語の語義全体を最も効率よく把握できるものと考え,具体的事例を挙げ,各辞書の記述を検討しながら,その理由を説明する。例えば「講談社2版」で採用された「派生ツリー」の妥当性を検証する。
語義項目数については,過度の細分化には反対する立場を採る。というのは,固定的なコロケーションにのみ現れるような語義を一項目とするのは不経済だからである。
ケーススタディとして,「把」「叫」などの常用多義語について,それぞれの多義の体系を提示する。次に各辞書の記述を整理の上提示。「現漢」も対照させる。その上で,各辞書の語義配列などの特色および問題点などを指摘し,個別の語について語義項目配列案を提示する。