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関西大学社会安全学部・大学院社会安全研究科

MOTOYOSHI Laboratory
Graduate School and Faculty of Societal Safety Sciences
Kansai University

研究紹介Research

研究の紹介

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 「オプティマル・リスク・マネジメントに基づく持続可能で安全安心な社会を築くための心理学的アプローチ」という長くて,よく意味の分からないものをキャッチフレーズとして研究を行っています。長い時間をかけて,このキャッチフレーズの実質的な意味づけを行って行きたいと思っています。以下の研究内容から少しでもこのキャッチフレーズを理解していただければうれしく思いますが・・・。


大阪府北部地震発生後の人々の行動

  2018年6月の大阪府北部の地震により被災されたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。
 関西大学社会安全学部災害心理学研究室では、インターネット調査会社に登録しているモニターを対象として、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県に在住で働いている方で、地震発生時に、通勤中に鉄道を利用していた500名(男性394名、女性106名)に当日の行動をたずねるアンケート調査を行いました。
 まず6504名を対象に当日の状況をたずねたところ、自宅にいた人は39.6%(2574名)、通勤中だった人は29.8%(1939名)、勤務先にいた人は25.6%(1663名)でした。通勤中だった人のうち、電車の中にいた人が最も多く36.7%(712名)、自家用車の中にいた人は18.7%(362名)でした。調査対象者のうち約1割の人たちが鉄道利用中に地震に遭遇したということです。
 地震発生時に鉄道を利用していた500名に対象をしぼってさらに調査した結果、地震のときに利用していた鉄道は、JR西日本がもっとも多く37.6%(188名)、大阪メトロが18.0%(90名)、阪急鉄道が13.2%(66名)、近畿日本鉄道が10.0%(50名)などとなっていました。また地震の後、勤務先に行った人は60.8%(304名)、自宅に戻った人が39.2%(196名)でした。自宅よりも勤務先に近い場所にいた人(233名)のうち勤務先に向かった人84.5%(197名)が多いのは当然ですが、勤務先よりも自宅の方が近い場所にいた人(173名)のうち勤務先に行った人も35.8%(62名)いました。災害時に無理をしてでも勤務先に向かおうとする人々の行動は、社会的な混乱を大きくする可能性があります。
 当日、情報を得るのに役だったものとしては、「インターネットニュース」が51.6%と最も多く、続いて「鉄道や駅係員からの案内情報」(42.2%)、「LINE」(31.6%)となっていました。Twitterは11.0%でした。今回の地震では、スマートフォンを使って情報収集を行った人が多くいることがわかります。当日困ったことは、「電車の復旧状況がわからなかった」が51.4%、「長い時間、電車内や駅で待たされた」が47.6%と多かったですが、「この先どうなるかわからず不安だった」は9.4%、「先の見通しが立たずイライラした」は8.8%と少なく、長い時間がかかっても、比較的冷静に行動していたことが推察されます。
 鉄道会社や駅員の対応については、復旧の遅くなったJR西日本に対する評価が非常に低く、復旧状況については「まったく不十分」と「やや不十分」あわせて68.6%でした。このような対応のため、阪神、京阪、南海、大阪メトロ、阪急、近鉄に対しては、「やや信頼できる」と「非常に信頼できる」をあわせると50%以上の評価でしたが、JR西日本だけは、26.4%にとどまりました。
※詳しい調査結果は→こちら


広域避難者支援マニュアル

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 日本では地震や火山、水害などによる大規模な災害がたびたび発生します。そのような大災害によって被災者は長期間におよぶ避難生活をしなければならないときがあります。東日本大震災でも福島第一原子力発電所事故の影響等により、非常に多くの方々が長期にわたる避難生活を続けていく中で、様々な問題を抱えています。そして、避難者を支援し一緒に問題解決しなければならない支援者の方たちも、支援をしていく中で多くの課題や問題を抱えているのです。このパンフレットは、被災者や避難者の支援に関わる方たちが支援活動に携わる際に必要だと思われることをわかりやすくまとめたものです。もちろんこれだけで十分だというわけではありませんが、支援活動を行っていく上で、参考にしていただければ幸いです。
※ダウンロードは→こちら。マニュアルの送付を希望される方は元吉までメールでご連絡ください。


タイムラインで学ぶ防災対策

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 災害発生前のどの時点で誰が何をすべきかを考え、事前に具体的な準備をしておくタイムライン(事前防災行動計画)は、新しい防災対策の取り組みとして大きな成果を上げています(最近では三重県紀宝町の役場や防災関係機関がタイムラインの作成に取り組んでいます)。タイムラインは台風災害においては特に効果的な防災対策です。  自然災害には「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫だろう」とか「まさか自分の住んでいるところで災害なんて起きないだろう」という考え方は通用しません。災害は進化します。地球温暖化などの理由によって、これまでには想像もできないような大きな水害が発生してしまうことが予測されているのです。災害は悲惨で恐ろしいものですが、「具体的な準備や防災対策をすることで、災害が起きても自分の命は守ることができるのだ」という自信を子どもたちにもって欲しいと願い、このワークブックを作成しました。
※ダウンロードは→こちら。ワークブックの送付を希望される方、またワークブックを使った防災教育に興味がある方は元吉までメールでご連絡ください。


地域の守り手を守るコミュニティ防災の創造

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 東日本大震災や集中豪雨による洪水や土砂災害など、近年の大規模災害では、「地域の守り手」である消防団員、民生委員児童委員、自主防災組織のリーダーなどが、自分だけでは避難できない住民や避難が遅れた住民を助ける途中で、危険な状況に遭遇してしまうケースが多くなっています。地域の守り手が動けない状況になると、救えるはずだった命も救えなくなってしまうのです。このような惨劇をなくすためには、地域の守り手が安全に行動できる環境作りと同時に、コミュニティ全体の防災力の向上が望まれます。少子高齢化がますます進む今後の社会では、コミュニティ全体で災害に対処しなければ、人々の命は守りきれません。東日本大震災では、中学生が地域の守り手となって住民の避難を促し、多くの命を救ったという事例もありました。子どもたちは、地域コミュニティの一員であるとともに、将来の地域の守り手となり、コミュニティを救う人材となって重要な役割を果たすという可能性を持っています。これからの防災教育では、学校と地域の守り手が一緒に活動を行っていくことで、地域の守り手について子どもたちに知ってもらい、学校と地域の守り手との連携を強くしていく必要があります。そのための防災教育教材を作成しました。
※ダウンロードは→こちら。パンフレットの送付を希望される方は元吉までメールでご連絡ください。


リスクの社会的増幅プロセスに関する研究

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 社会的増幅理論は、あるリスクがさまざまな社会的なプロセスによって「増幅」され、派生的なリスクを生じさせながら、直接的な被害者だけでなく、広く社会全体に影響を与えて行くプロセスを理論化したモデルです。米国クラーク大学のKaspersonらのグループが1988年に提唱したもので、これまでに多くの研究が行われてきています。さまざまなリスクの社会的増幅のプロセスを、多視点(当事者、周辺の、マスコミ、社会)、多次元(時間、空間、影響範囲)、多種類(調査、面接、社会経済的指標)データを用いた階層化分析手法によって把握することを試みています。たとえば、メタミドホス入りの餃子の直接的なリスクである「食べた場合の中毒」という事態が、中国製品への買い控えや企業の信頼の失墜、政府の対応、国交関係など、巨大なインパクトを社会全体に与えることがよく説明できると考えています。このようなプロセスを緻密に理解することは、リスクの社会的対応のあるべき姿に示唆を与えるものと考えています。


防災に関する態度研究

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 災害に強い社会とは、災害が起きたときにどう対応するかという観点から考えることもできますが、災害が起こったときに、いかに被害を小さくすることができるかを事前に考えておくということ、すなわち事前の防災対策の方がずっとずっと重要です。しかし、災害は低頻度でしか発生しないために、それに備えることが非常に難しいのです。防災力を高めるためにどんなことが重要で、どんな風に防災力を高めるかについて、人々の災害や防災に対する態度を調査して、研究をしています。


学校危機マネジメントに関する社会心理学的研究

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 私が子どもの頃は、学校はそれなりに安全で安心できる空間でした。ところが近年、大阪教育大学附属池田小学校で児童や教師が殺傷されるという大惨事をはじめ、学校の安全を脅かすような事件がしばしば起きています。事件や災害などをきっかけに、組織内の多くの人々が巻き込まれ、組織全体が混乱し、その組織が、本来の機能を発揮できないような危機的な状況に陥ってしまうことがあります。学校では、事件や災害などの大規模な出来事だけではなく、不登校やいじめ、学級崩壊、非行や犯罪被害など、さまざまな危機が日常的に起きます。はじめに、「それなりに安全」と書きましたが、学校からこのようなさまざまな危機を完全に排除することはできません。危機の全くない無菌状態のような学校は子どもにとってはむしろ不健全でしょう。したがって、学校では、ある程度の危機の発生を許容し、これを適切にコントロールしながら、それをきっかけに組織全体が危機的な状況に陥ってしまうことのないようにすることが求められます。これまでに心理学は、危機に直面した被害者に対する心のケアや、危機発生時の対応マニュアル作りなどに対して貢献をしてきました。しかし、同じような危機に直面しても、その危機にうまく対応できる学校と、適切に対応できずに被害がより一層悪化し、まさに危機的な状況に陥ってしまう学校とがあります。また、予防的な観点から見ても、危機がめったに起こらない学校もあれば、次々と問題が起きていて、いつもその対応に追われているというようなところもあります。このような事実は、学校に限らず、何らかの組織に属している多くの人が、経験的に感じていることだと思います。一体、このような違いは何に起因するのでしょうか。この違いを説明する概念の一つが、高信頼性組織(High Reliability Organization)と呼ばれるものです。高信頼性組織の研究は、当初、原子力発電所や航空管制塔、救急救命棟など、不測の事態に常に直面し、失敗の許されない現場を対象としてなされていました。このような現場では、組織に、「正直さ」、「慎重さ」、「鋭敏さ」、「機敏さ」、「柔軟さ」などが強く求められます。学校もまた、多種多様なアクターが存在する複雑な組織で、常に不測の事態に直面している現場だととらえることができます。私は、学校組織を高信頼性組織という観点から分析し、これらの要素を継続的に測定することができるシステムを作り、多くの学校間のデータを比較しながら、心理危機マネジメントに生かすことを目指しています。また、医療や災害の分野では、事故には至らなかったけれどヒヤリとかハッとした事例を集めてデータベース化し、その後の事故防止などに生かす試みがなされています。学校では、毎日のようにヒヤリハット事例が起き、多くの場合、それらに適切に対処していると考えられますが、このような貴重な事例をきちんと整理し、危機管理に役立つデータベースとして活用することはありませんでした。このように学校における心理危機マネジメントに資する仕組みを整えることによって、危機に強い学校をつくることが可能となり、子どもをそれなりに安全で安心して育む環境を整えることができるのではないかと考え研究を進めています。 (名大トピックス209号(2010.10.15)より)


その他の研究

  • 新しい防災教材の開発
  • 東日本大震災における仮設住宅支援に関する課題分析
  • 放射能に関するリスク・コミュニケーション
  • 福島原子力発電所の事故による長期避難の心理的影響
  • 緊急時の避難支援行動に関する研究

関西大学社会安全学部
元吉研究室
MOTOYOSHI Tadahiro Laboratory
元吉研究室

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関西大学社会安全学部