ユーザQoSを考慮した協力的なオーバレイネットワークの構築手法

古田 芳英

学士学位論文, 2009

Abstract

近年,ファイル共有や音声・映像通信などのサービスに対してサービスに参加するユーザ端末(ノード)からなるオーバレイネットワークを利用する動きが広まっている.ユーザはオーバレイネットワークを介してサービスを享受するため,オーバレイネットワークの構造がユーザの知覚するサービス品質であるユーザQoS (Quality of Service)に大きな影響を与える.一方で,各ノードはそれを操作するユーザの意思によってその動作が決定されることから,ノードの利己的な振る舞いによってシステム全体としてのサービスの可用性が低下する可能性がある.したがって,ユーザ間の協力関係を築いた上で,出来る限りユーザQoSを向上したオーバレイネットワークの構築が必須である.ユーザ間の協力関係については,近年,進化ゲーム理論を用いた研究が活発に行われている.進化ゲーム理論とは,元来,生物社会における個体間の競争関係の下,優れた遺伝子がより多くの子孫に受け継がれるという現象をゲーム理論によりモデル化したものである.この考えを,協力的なオーバレイネットワークの構築に適用した研究としてSLAC (Selfish Link-based Adaption for Cooperation)が挙げられる.SLACでは各ノードにおける接続関係を制御することで,ノード間の協力行動を促す.具体的には,(I1)ノードの接続関係の優位性の判断,(I2)協力的な関係を築いているノード群の逐次的な拡大,の2つの仕組みにより実現される.ただし,SLACではユーザQoSの向上を対象としていない.そこで本研究では,上記の2つの仕組みを再考し,ユーザ間の協力関係を維持しながら,ユーザQoSを向上するためのトポロジ構築手法を提案する.具体的には,(I1),(I2)においてそれぞれ比較相手,接続相手となるノードを選択する際に,ユーザQoSの向上につながることが期待されるノードを優先的に選択するための仕組みを導入する.各ノードは,計測可能でかつユーザQoSの向上につながることが期待される指標であるユーザQoS指標に基づき,上記のノードを確率的もしくは決定論的に選択する.提案手法の有効性についてはシミュレーションにより評価する.まず,ユーザ間の協力関係を維持するためには,(I1)においてユーザQoS指標に比例した確率で比較相手を選択することが有効であること,さらにそれがオーバレイネットワーク構築に要する時間の短縮にもつながることをそれぞれ示す.一方,ユーザQoSに関しては,ユーザQoS指標の例として2ノード間の伝搬遅延時間(Round Trip Time: RTT)の逆数を用いて,オーバレイネットワークとIPネットワークとの相関性とオーバレイネットワーク上での到達率の観点から評価を行う.その結果,後者の観点では改善の余地が見られるものの,前者に関してはオーバレイネットワーク上でのホップ数とIPネットワーク上でのRTTとの間の相関係数をSLACに比べて最大0.36向上できることを示す.

Downloads

    Text Reference

    古田 芳英, ユーザQoSを考慮した協力的なオーバレイネットワークの構築手法, Ph.D. Dissertation, 大阪大学, 学士学位論文, March 2009.

    BibTex Reference

    @phdthesis{furuta09bthesis,
        author = "古田, 芳英",
        type = "{学士学位論文}",
        title = "{ユーザQoSを考慮した協力的なオーバレイネットワークの構築手法}",
        year = "2009",
        month = "March",
        school = "大阪大学"
    }