P2Pファイル共有システムの実測と可用性に関する考察

合田 慎

学士学位論文, 2010

Abstract

近年,計算機の高性能化・低価格化やネットワークのブロードバンド化に伴い,P2Pファイル共有システムが広く普及している.P2Pファイル共有システムに参加する各ユーザは,システム全体としての効率・性能の向上よりも各自にとっての利益を優先して利己的に行動する傾向がある.そうしたユーザの振る舞いがシステムの可用性に与える影響は非常に大きいことが予想される.一方で,システム内ピア数の増加に伴いシステム内の状況やシステム全体の挙動を把握・管理・制御することは困難であるため,ユーザの振る舞いは未だ不明瞭な点が多い.そのため,既存のP2Pファイル共有システムには不確定要素であるユーザの振る舞いを考慮した設計が十分に行われていない.そこで本研究では,P2Pファイル共有システムにおけるユーザの振る舞いがシステム可用性に与える影響をBitTorrentシステム上で実測を行うことにより明らかにする.BitTorrentはハイブリッドP2P型ファイル共有システムと呼ばれており,各ピアの状態を管理するためのサーバtextasciitilde (トラッカ)textasciitilde が存在する.そしてトラッカから得た情報を基に,ファイルの交換が個々のピア間で行われる.本研究では,既存のBitTorrentシステムをベースに,システム可用性に関する特性を明らかにするための計測方式を設計し,既存機能の拡張や新規機能の追加を行う.特に,アプリケーション層で得られる情報だけではなく,アプリケーション層とトランスポート層で得られる情報を組み合わせたクロスレイヤ型アプローチにより計測精度の向上を図る.実測により得られた結果に対する考察は,ピア可用性とファイル可用性の観点から行う.ピア可用性の観点からは,システム内滞在時間,システム外滞在時間,復帰回数を評価尺度として用いる.一方,ファイル可用性の観点からは,総キャッシュ量の推移,キャッシュを保持するピア数の推移,ピース分布,完全キャッシュの保持期間について議論する.実測結果から,大半のピアのシステム内滞在時間は短いことや,一度システムから離脱後キャッシュを保持したままシステムに復帰するピアはほとんど観測されないことを示す.また,ユーザの関心の高さに応じてファイル公開からのファイル共有のステージが,成長期,衰退期,低迷期,の三つに分類できることを示す.さらに,P2Pファイル共有システムは,多数のピアがファイルの一時的な供給源である一方で,少数のピアが長期間キャッシュを持ち続けながらシステムに滞在し安定供給源となることで成立していることを示す.最後に,実測結果を踏まえた上でシステム可用性を向上させるための仕組みの提案を行う.

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    合田 慎, P2Pファイル共有システムの実測と可用性に関する考察, Ph.D. Dissertation, 大阪大学, 学士学位論文, March 2010.

    BibTex Reference

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