多様なユーザからなる P2P ファイル共有システムの 進化ゲーム理論的考察

松田 悠介

修士学位論文, 2010

Abstract

P2Pファイル共有システムでは,ファイルのキャッシングにはストレージ容量や帯域の消費などのコストがともなうことから,ユーザはファイル共有に対して非協力的になりやすい.さらに,こうしたファイル共有への積極性は端末やアクセス回線の性能,ファイルに対する価値観によりユーザごとに異なるものと考えられる.加えて,ユーザを取り巻く環境を決めるP2Pネットワークの構造もユーザ数の増加にともない多様化する.本研究では,こうした多様な環境下におけるシステム性能について,進化ゲーム理論を用いて考察する.進化ゲーム理論には,ミクロtextendash マクロダイナミクスと呼ばれる理論的な枠組みと,エージェントベースダイナミクスと呼ばれるシミュレーションベースの枠組みがある.ミクロtextendash マクロダイナミクスを用いた理論的解析により,ユーザの利己的な度合いとシステム性能との関係やシステムが安定するための条件などを数学的に表現できる.一方で,ミクロtextendash マクロダイナミクスでは簡単化のために各ノードが大域的な情報を保持しているという前提が置かれていることから,トポロジ構造の多様性については取り扱えない.各ノードが局所的な情報のみに基づいて行動する場合のシステム性能は,エージェントベースダイナミクスを用いたシミュレーション評価により明らかにできる.特に,ノード間の同期性や特定ノードの振る舞いがシステム性能に与える影響,システム内におけるキャッシュファイルの分布などを明らかにすることができる.進化ゲーム理論による考察のために,まずファイルのキャッシングに対するユーザ間の潜在的な駆け引きを2者間のキャッシングゲームとしてモデル化する.また,システムに参加しているユーザは多様であり,ファイルのキャッシングに対するコストの観点から,非協力的なユーザがシステムの大半を占めると想定されることから,キャッシングに対する協力の度合いを閾値と呼ばれるパラメータで表現し,その閾値の分布がZipf則に従うようモデル化する.得られたキャッシングゲームとユーザの多様性のモデルに対して進化ゲーム理論を適用することで,ユーザの多様性,トポロジ構造の多様性とシステム性能との関係を考察する.理論的解析とシミュレーション評価を通して,こうしたユーザ環境の多様性がファイル可用性の維持やシステムの安定性に貢献することを示す.

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    松田 悠介, 多様なユーザからなる P2P ファイル共有システムの 進化ゲーム理論的考察, Ph.D. Dissertation, 大阪大学, 修士学位論文, March 2010.

    BibTex Reference

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