近年，端末(ピア)自身がクライアントとサーバの機能を持ち，直接ファイルの交換を行うPeer-to-Peer (P2P)型ファイル共有システムの一つであるBitTorrentが注目を集めている．BitTorrentでは，ピアは所望ファイルの共有に参加中のピアの情報をトラッカと呼ばれる管理サーバから取得し，ファイルをピースと呼ばれる部分ごとに取得する．既存研究では，ピース取得先ピアの選択アルゴリズムを用いると，時間の経過により，転送速度の近いピア同士がピースの交換相手として選ばれやすくなる，すなわちクラスタ化が進むことが報告されている．ただし，転送速度の近いピアを迅速に発見するための仕組みは検討されていないため，本研究ではこの点に取り組むことでファイル転送の効率化を図る．BitTorrentでは，問い合せてきたピア(要求ピア)に対してトラッカは管理情報の中からランダムに選択したピアを取得先候補として返答する．ここで，トラッカにおいて，転送速度に基づきピアをグループ化し，要求ピアに対して同じグループに属するピアの情報を取得先候補として積極的に返答することにより，各ピアがそれぞれ転送速度の近い取得先を迅速に発見できるようになる．一方で，グループ化はピースのシステム内での拡散を抑制する方向に働く点にも注意が必要である．そこで本研究では，高速な転送速度を持つピアに関してはグループ化を促進する一方で，低速な転送速度を持つピアに対してもピースが適切に拡散するようなピアのグループ化手法を提案する．提案手法の有効性について，シミュレーションを用いて平均ダウンロード時間と累積アップロードトラヒック量の観点から評価する．その結果，提案手法は特にファイルサイズの大きい場合やグループあたりのピア数が多い場合にオリジナルのBitTorrentよりも平均ダウンロード時間を短縮できることを示す．
水口 弘明, BitTorrentにおける転送速度に基づくピアのグループ化手法, Ph.D. Dissertation, 大阪大学, 学士学位論文, March 2011.
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