日々雑記


秀と房

2017-8-3

とある銅造阿弥陀三尊像(安永9年(1780)銘)。

これまでの報告では作者は「江戸神田住鋳物大工長谷川形(部)正秀作」。「形部」はもちろん「刑部」の誤りだが、長谷川正秀なる鋳物師はいない。 気にはなっていたが、香取秀真『江戸鋳師名譜』を拝見し、ようやく理解。

同書には、「長谷川形部正秀」なる鋳物師はおらず、当該期には「武江神田住鋳物大工長谷川刑部正房」が存在。正房の遺品は市谷原町恵光寺鐘(安永6年)、武蔵御嶽神社銅鳥居(同9年)、神田神社銅燈台(天明3年(1782))が残る。
想像するに「房」を「秀」と読み間違えたのかと。

すっきりしたものの、この後は阿弥陀三尊像での銘記確認へと続く。

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最後の授業

2017-8-5

今日、明日と大学はオープンキャンパス。しかし、こちらは博物館での授業(センター科目・最終回)。
幸いにもオープンキャンパスの個別相談、ミニ講義はなかったものの、なにゆえいつも綱渡りなのか・・・。

お昼前に授業を終えて帰途に。

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迷走台風

2017-8-7

朝から台風接近で、防災メールが2市から間断なく届く(市境近くに住んでいるため)。

よく見ると、地域的なこともあって避難の際に差がある。
当該市は小学校に避難、隣接市は公民館等に早めに避難せよとあるが、後者は「毛布や食料、日常薬などを持参のうえ避難してください。」と。後者は「自主避難所」の開設をお知らせした内容。

前職では台風が来ると、職員の何人かはヘルメット被って指定避難所(小中学校)へ向い、施設が広域避難場所に指定されているため、閉館ながらも扉は施錠せずに自主避難者を待つという状況になる。

それにしても「避難場所」「避難所」「両方兼用」をもう少しわかりやすく区別しないと、「毛布や食料が届かない!」というTV(←大いに責任あり)受けするような発言をする人が一向に減らないのではないかと危惧。

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調査

2017-8-8

台風が過ぎ、なんとか某所で調査。

調査しながらなんとよい仏像であるとしみじみ思う。もちろん未指定。

残念ながら頂上仏面は割損し、仏面も6面しか残っておらず、あったはずの大笑面は亡失し竹釘だけが突き出ている。もとあった場所を探すも見当たらない。「修復すればきっともっとよくなりますよ」と同行の研究者。

いくつかの仏像の台座等には仏師の名前や「補」の刻字。気づく人たちにはわかっていたんだと思い、その系譜に自分が連なっていることに至福を感じる。

夕刻遅くまで調査。

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西大寺展

2017-8-11

午後にハルカス美術館「西大寺展」。

善慶作釈迦如来立像、京都・大智寺文殊菩薩騎獅像、仙算作地蔵菩薩立像を見た後、後半の「真言律宗の発展と一門の名宝」の近世仏像をじっくり。西願寺・一字金輪三尊坐像や松林寺・不動明王二童子像など。なかでも荘厳浄土寺興正菩薩坐像(正徳3年・1713)は初めて見る。
久修園院の宗覚律師が東寺金剛界及胎蔵界曼荼羅を転写縮摸した作品も出品。

吉祥天立像の出品が終了し、前半と後半の端境期なのか、思ったよりも入場者はそう多くない。
後半(8/29から9/24)には善円愛染明王坐像や・不空院不空羂索観音坐像も出品。
再来の余地あり。

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徳本行者

2017-8-16

西宮市立郷土資料館「念仏行者徳本―行脚の足跡と女人救済―」展へ。かなりマニアック。

紀州出身で和歌山に数多くの肖像彫刻が残る。その多くは西田立慶とその子立康の作。会場にも立康作の徳本行者像が展示。
『徳本行者伝』によれば享保年間に勝尾寺に居た徳本に出会い、尊像製作を発願、100日を1期として念仏修行し帰洛して木像を完成させたとする。
ちなみに関東では「西川甚長」がもっぱら製作。

「南無阿弥陀佛」の利剣名号などは当時の浄土宗の高僧が得意としたところだが、《病人救済の図》や《拝服名号》など加持祈祷っぽい要素も。

今回は阪神地方に焦点をあてた展示ながら、考えるところが多く、全国的な展開が期待できる企画展。

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Office365

2017-8-21

今日からメールサバ―がActive!mailからOffice365に変更。

変更はスムーズに移行したのだが、初めてのこととてなかなか使いづらい。一斉休業明けでさっそく添付ファイルを送ったのだが、「開けない」と連絡。

これまで添付ファイルを開こうとすると「保護されたビュー」として編集を有効にしないと何もできなかった。そこで「リアルタイムで協同作業できる」の文言に惹かれて「OneDriveファイルとしてアップロードして添付」すると、上のようなことに。

夏季休暇中だから問題はあまりないが、学生は対応できるのだろうかと危惧。ま、LMSも使いこなすほどだから問題はないと思うのだが。

しばらくは試行錯誤。

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信仰心

2017-8-23

再び、某所で調査。

等身を越える立像。一見、保存状況がよさそうにも見えるのだが、同行の研究者と見ながら「なか(木質)はかなり弱っている」ので、台座ごと移動し調査。台座の下に毛布を敷いて引っ張り、撮影や調査。汗だくになりながら結構たいへん。
あとは比較的小さな仏像。しかも優品。ところが彩色が剥落寸前。これも恐る恐る調査。

優品中の優品である地蔵菩薩坐像(未指定)。
ただでさえ剥落寸前なのに首元には幾重にも赤い涎掛けが掛けられている。ご住職曰く「(拝観時に)そんな風に見えないのに、気付くと(涎掛け)付けられている。取ってもしばらくすると、また付けられている」と。

引率してきた学生は、慎重に涎掛けを1枚づつ剥がしていくこちらをまるで「獄卒」をみるかのように目をシロクロ。「ぼぅと見てないで手伝って!」と叱責。

変なところで「信仰心」を出すんだから・・・。

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雪村周継

2017-8-26

産直野菜の帰途、MIHOMUSEUM「雪村」展。

常陸出身で関東を中心に製作した雪村。大和文華館《呂洞賓図》ぐらい知らなかったので、興味深く拝見。
野村美術館《風濤図》はヒトラーも熟視した逸品。根津美術館《龍虎図屏風》も圧巻。
《欠伸布袋図》は光琳《紅白梅図屏風》のオマージュだろう。とすれば光琳が江戸で大名相手に何枚も何枚もいやいやながら描いていた雪舟の模写の延長と捉えられるのだろうか。
《夏冬山水図》とそれを模写した鶴沢探真の作品が対面で展示。オリジナルがもつ寒々とした大気の表現が欠けている。家人曰く「かたい」。
正木美術館の瀟湘八景図巻を筆頭に瀟湘八景図がかなり多く出品。

おや、と思ったのは大和文華館《銹絵山水文四方火入》。側面の山水図はてっきり雪舟《山水長巻》からの写しと思っていたのだが、最近では雪村なのか。
閉館近くまでじっくり拝見。

伊賀路の水田は既に黄色くなり秋の気配。

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康慶

2017-8-28

お馴染みの幕末明治の京都仏師 山本茂祐。

茂助・茂助・康慶とすべて同一人物。康慶は法名ながら、茂助と茂祐に確たる区分はない。『京都商工人名録』(明治38年)には「茂輔」とも。
鎌倉時代ならいざ知らず「康慶」だけでは何とも分からない。幕末期の同時期には京都仏師の「松本康慶」もいる。

考えあぐねていると「御幸町松原」と読めるとのこと。松本康慶は建仁寺南門前、山本茂祐は御幸町松原上ル。
山本康慶(茂祐)にほぼ決まり。

フランス・ギメ美術館には茂祐が製作した東寺講堂諸像をまねた立体曼荼羅諸像や山本から購入したとみられる曼荼羅像があるが、作者である茂祐についてはあまり関心がないらしい。

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那覇

2017-8-29

夏恒例?となった沖縄での会議。
関空に着くと、空港のTVが「北ミサイル発射」の報道。

那覇到着後、沖縄そばを食して会議に。ところが連絡の手違いで、ほぼ全員1時間早く到着。
とある人が別件で沖縄戦で大破した扁額の復元をするというので県立博物館でオリジナルを観察。

琉球の木材は基本的にチャーギ(イヌマキ)。それ以外のヒノキやカヤ材で造られた資料は本土からもたらされたものと考えられる。ヒノキっぽい材質ながら周囲に赤漆が残り、そこに沈金を施している。「まぁ、熟覧しないとなんとも・・・」と。 予定時刻となり会議に向う。

夜になっても那覇は猛烈に暑い。

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帰宅

2017-8-30

朝から猛暑。

那覇市立歴史博物館は展示替えで休館、壺屋焼物博物館(企画展)はあまり関心はなく、沖縄県立図書館に立ち寄る時間もあまりなしということで、バスにて空港へ向う。

旭橋バスターミナルは大改造中。バスにゆられながら初めて来たのは何時だったのだろうかと。

昨夜の懇親会でも、初めて沖縄に来た時には、那覇空港もまだ古いままで、ゆいレールもなく、バスで当蔵町(旧沖縄県博)まで来たと。
旧沖縄県博では地下に収蔵庫があって朝、調査に向かうと鉄製の扉が閉まって薄暗い収蔵庫のなかで昼まで調査し、午後からも”監禁状態”でしたなどと。この間あらゆるものがずいぶん変貌。

離島を眺めながら2時間で伊丹到着。

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天冠台

2017-8-31

那覇に行く直前、一般向け解説の添削・アドバイスを頼まれた仏像。室町時代の作品。

宋風彫刻や檀像様などがてんこ盛りの解説。一生懸命書いたのだろうが、一般の人には、はて?という箇所が多い。
仏像マニアはともかく、一般の人には”空中戦”のようにも。

「天冠台の左右に髪が巻き付いており・・・」「髪と唇を除いて素地(木地)のままで仕上げており・・・」などと添削。ここはあまり小難しいことは考えずに。
改めて「天冠台」を考える。冠を留める鉢巻?台?

やっぱり一般の人向けの用語は難しいものも現れ、しばし考え込む有様。

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