ケアとケアの倫理について考える

 

Emergency Nursing, メディカ出版、
vol.14、no.11-vol.15、no.8、
2001年11月〜2002年8月連載

 

 くすのき・いちょう・桜の立ち並ぶ坂道を登りつめ.グレーの壁につたのからまる教室の前を通りすぎ,レンガ造りの学舎のなかを入っていったその奥に,私どもの研究室はあります.そのドアをしばらく開けて,読者のみなさんをお招きしたいと思います.

 私どもの研究している分野は哲学・倫理学です.看護や医療から縁遠い分野にみえるかもしれません.けれども,他人の身に起こることを気遣う,他人の身の上を思いやるという意味のケアは古くから倫理学の話題でしたし,ここ20年来,ケアの倫理という考え方も提唱されています.一方,看護学は,もちろん医学と密接にかかわりあいながら,しかしまた,看譲という人と人との結びつきを主題とする独自の学問を切り開こうと模索し続けてきました.「看護の本質はケアである」というその言葉がしばしば引用されているM・レイニンガーは文化人類字を研究していますし,人間科学(J・ワトソン),現象学的人間論(P・ベナー),実践知(池川清子)などなど各種の看護論に付せられた形容をみますと,一見,かけはなれてみえる学問が意外に近い結びつきをもっていることがうかがわれます.

 この連載の執筆には関西大学生命倫理研究会のメンバーがあたります.そのなかには,哲学・倫理学の研究者もいれば.文献による研究だけでなくソーシャルワーカーとして医療現場で働いている社会学青もいます.さらに,働きながら大学で学んでいるナースもいます・これから,ケアの倫理について,ソーシャルワーカーの目からみた医療現場について,はたまた,現役ナースの大学生活についてお話ししていきたいと思います.医学関係の記事とはいささか趣きが違うでしょうが,どうぞよろしくお付き合いください.

 

1.〈ケアの倫理〉が語られる理由 品川哲彦

2.「女性の気遣いにはかなわない」? ―ケア役割と性差 後藤博和

3.ソーシャルワーカーの見る風景 ―ケアを担う人々の傍らにて― 横田 恵子

4.看護婦が働きながら大学で学ぶということ 谷口 恵子

5.人間科学としての看護 −ワトソン看護論を読む−  森下雅一・品川哲彦

6.見知らぬ他人に対してドアを開けること ―ジャック・デリダの「歓待」について― 井雅弘

7.看護婦として大学で学び得たこと 細岡智恵子

8.「ケア」が安楽死を肯定する? ―ヘルガ・クーゼ『ケアリング−看護婦・女性・倫理』の衝撃―  岡田篤志

9.〈ケアの倫理〉が語られる理由、ふたたび 品川哲彦