Beyond 5Gは,5Gの特徴(高速大容量通信,高信頼低遅延通信,多数同時接続)に加え,さらに,超低消費電力,超安全・信頼性,自律性,拡張性などの機能を実現することで,社会に対して新たな価値を持続的に創造することを目指した次世代のネットワークです.Beyond 5Gを支える要素技術として,ネットワーク機能仮想化(Network functions virtualization: NFV)があります.NFVとは,ネットワーク機能をソフトウェア化し,従来の専用ハードウェアから分離するとともに汎用サーバ上で動作させることで,ユーザからの要求に応じて柔軟かつ迅速なネットワークサービスを提供可能とする新たな枠組みです.NFVネットワークの性能を最大限に活かすためには,ユーザからの要求に応じて必要な物理資源(サーバや通信リンク)を確保し,その上で論理的なネットワーク(スライス)やエンド間でのサービス提供に必要となる通信経路(サービスパス)を適切に構築する必要があります.また,サービスに対する需要の時空間的変化への適応力や機器やソフトウェアの故障に対する回復力なども求められます.本研究では,これらの課題に対し,数理最適化やグラフニューラルネットワークなどの数理的手法とCloud-native Network Function (CNF)を用いた実践的手法の組み合わせによる解決を目指しています.
インターネットや交通網など,私達は普段から様々な社会システムに支えられています.その際,動画サービスを途切れなく高画質で楽しみたい,目的地までできるだけ早く到着したい,といった思いを持つことは自然なことです.一方で,サービスを支えるシステムの資源は有限です.例えば,コンテンツ配信サービスの場合,配信サーバの処理能力やネットワークの回線容量などが資源として挙げられます.サービスを提供する側のシステムとしてはこのような資源制約の下,できる限り多くのユーザの満足度を向上させるなど,全体最適の考え方が求められます.本研究では,各ユーザの知覚する情報を適切に制御することで,個々の利己的(合理的)な意思決定の下,システム全体としての最適化を実現可能な,利己的最適制御の実現を目指しています.
ソフトウェアのセキュリティ・アップデートや動画配信などでは,多数のユーザに対する,あるいは,継続的なコンテンツの配信が求められます.特に,新たなコンテンツが公開された直後は配信サーバの急激な負荷増加が大きな課題となります.このような問題解決のために,Windows Updateなど一部のシステムでは,一般ユーザの端末(ピア)による配信の補助(ファイルの断片であるピースの他ピアへのアップロード)を可能とするP2P型ファイル配信の利用を進めています.ただし,ピースの提供には自身のアクセス回線を利用するため,自身が利用中の他のネットワークサービスの品質低下等を避けるために,ピアが協力行動を控える傾向が見られています.本研究では,P2Pファイル配信システムにおいて,個々のピア間での同量のピース交換を促すTit-for-Tat (TFT)戦略を導入した場合の最適なシステム性能及びそれを可能とするピースフローを数理最適化(例: 線形最適化(計画法),整数線形最適化)や解析モデル(例: 流体モデル)等を用いて分析しています.
2011年3月に起きた東日本大震災では,通信インフラの被災により,固定通信網・携帯電話網ともに長時間かつ広範囲で利用できなくなり,その結果,安否情報・避難情報・行政情報など様々な重要性の高い情報を被災者・救助者が円滑に収集・配信することができなかった事例が多数報告されています.本研究では,このような状況下においても,被災者を安全な経路・避難所へと迅速に導くことのできる避難支援システムの実現を目指しています.特に,避難者とモバイル端末(携帯電話など)間での暗黙の連携による被災状況把握と避難誘導の自動化,避難者(の端末)間での道路網状態に関する情報共有,地理ビッグデータに基づく道路網のリスク予測といった様々な要素技術を組み合わせることで,問題の解決に取り組んでいます.
暗号通貨システムBitcoinでは,マイナーが報酬を獲得するためには,Proof of work (PoW)と呼ばれる,高難度のパズル的計算により正当なブロックを生成するだけでなく,そのブロックを迅速にネットワーク内に拡散する必要があります.近年,正規の拡散プロトコルを悪用することで,競争的拡散を妨害するリスクが指摘されています.本研究では,拡散妨害リスクを感染症伝播モデルに着想を得たstandby-interrupted-retrieved-attackable (SIRA)モデルとして新たにモデル化するとともに,攻撃の学習による早期検知・回避手法を検討しています.また,効率的な報酬獲得に向けて,Bitcoinでは,複数のマイナーがプールと呼ばれるグループを形成し,PoWを分業しています.その際,各メンバーは,通常のブロックに加えて,自身の貢献を表すshareをプール管理者に報告します.管理者は貢献度に応じて各メンバーに報酬を分配しますが,ここで,攻撃者はブロックを秘匿し,shareのみを管理者に報告することで不当に報酬を得ることができます.本研究では,このようなBlock withholding攻撃に対し,Support Vector Machineなどの機械学習を用いた早期検知に取り組んでいます.
PCやモバイル端末だけでなく様々なデバイスがインターネットに接続されるIoTの時代が訪れつつあります.IoTデバイスの多くは無線通信により管理・制御されますが,その際,無線資源の枯渇が問題視されています.すでに多くの無線資源はいずれかのシステムやサービスに割り当てられているため,既存の無線資源の再利用を可能とするコグニティブ無線技術が注目されています.ただし,コグニティブ無線ではその無線資源の本来の利用者であるプライマリ・ユーザ(PU)の通信を妨害することなく,それ以外のセカンダリ・ユーザ(SU)が効率的に無線資源を利用できることが求められます.本研究では,PUの通信を高精度に検知するためのSU間の協力関係と,遊休状態の無線資源の利用に関するSU間の競合関係を考慮した分散型協調メカニズムの実現を目指しています.